御器谷法律事務所

アカハラ

1. アカデミック・ハラスメントとは、
 アカデミック・ハラスメント(以下、アカハラ)とは、教育関係の権力を濫用したいじめや嫌がらせを指します。
 アカハラの態様には、様々なものがあります。大勢の前で人格を否定するような発言を繰り返す言葉による暴力や、一般にセクハラと呼ばれる性的嫌がらせや、教授と講師や助手等の教員間での研究の妨害や、教員が学生に対して適切な指導をしない、論文を受理しない等、教育現場特有の問題もあります。

2. 問題の所在

 なぜ、このようなアカハラが起こってしまうのでしょうか。
 アカハラは、教育機関に特有の、透明性・流動性の少ない密室人事、長期にわたる徒弟奉公とボスの専制支配、「大学の自治」の名における相互不干渉と監督責任の不存在等が背景になって生じるものと考えられています。そのため、教育機関内部の問題として隠蔽されやすく、近年、ようやく若干の訴訟が明るみに出てきたにすぎません。
 問題が明るみに出てこないことに加えて、同じ行為であっても個人の感じ方や評価はそれぞれですから、アカハラにあたるか否かの線引きは非常に難しいものです。その中において、判例上の基準を大まかにまとめてみると、教授等、教育関係において上の立場にある者が、教育の現場における構造的な力関係を利用して、社会的に相当とはいえない行為をした場合には、違法なアカハラであるとされます。そして、社会的相当性を超えているか否かは、当該行為が相手方の人格権を不当に侵害するものではないか、必要以上の精神的苦痛を与えるものではないか等総合的に考慮して決める傾向にあります。
 なかなか表に出てこないアカハラという問題を外部から見つけ出すことは非常に難しいものです。ですから、各教育機関が、アカハラを事前に防止し、万が一アカハラが発生した場合には適切に対応できるような、独自の対策を講ずることが重要と考えます。具体的には、アカハラの現実を把握する第一線機関としての相談窓口と、紛争の調停等を行なうアカハラ防止委員会を設けます。相談窓口については、相談者のプライバシーに配慮した設置場所、十分な知識を有する相談員が必要となります。相談者からの申立があった場合には、相談員はその旨をアカハラ防止委員会に勧告し、アカハラ防止委員会は、調査委員会を開き、申立内容に関する調査を行ないます。この時、調査委員会が組織や部局の長からの干渉や圧力を受けることのないよう配慮が必要です。また、被申立者に反論の機会を与えることも重要です。そして、調査の結果、アカハラがあったと認められるときは、教育機関は被申立者に対し、懲戒処分等を下す場合もあります。

3. アカハラの法的責任
 アカハラは、その内容によっては、憲法13条の幸福追求権や憲法23条の学問の自由に抵触する可能性さえある重大な法的問題です。ですから、アカハラをすれば法的責任が発生します。
 まず、アカハラを行なった本人に対して、民法709条の不法行為責任を問うことができます。教員や学生の研究を行なう権利や教育を受ける権利を侵害する行為として、それによって発生した損害の賠償を請求することができます。
 次に、アカハラを行なった本人の使用者である教育機関に対して、被用者がアカハラを行なうことのないよう監視・監督する義務を怠ったとして、民法715条の使用者責任を問うこともできます。
 また、アカハラの内容によっては、民事責任だけでなく刑事責任を問うことも考えられます。大勢の前での侮辱行為であるような場合には、刑法230条の名誉棄損罪や、刑法231条の侮辱罪に該当する可能性がありますし、用事を無理に押し付けるなどの場合には、刑法223条の強要罪に該当する可能性もあります。また、セクハラの場合には、刑法176条の強制わいせつ罪や刑法177条の強姦罪に該当する可能性もあります。もっとも、刑事責任を問うためには、刑法で定められた厳格な要件を満たす必要があるので、必ずしも認められるものではないということもありうる点に注意が必要です。
 なお、アカハラを行なった者に対しては、当該教育機関が定める就業規則等に基づき、懲戒処分が下されることがあります。

4. 判例の紹介
(1) アカハラを認めた判決 -東京地方裁判所 平成19年5月30日判決
事案の概要:大学講師Xは、主任教授Yから、Xの研究の価値及び教育活動を一切否定するような発言(「毎日大学に来ているようだが、何やっているのか分からない」「お前の書いたものを読んだけど、何回も読み直したけど、何の感動もなかったよ」「実験をやらないやつなんて教育者の資格はない」)、大学からの退職を迫られているように受け取られる発言(「リストラで要らないやつがいるかと聞かれたら、真っ先にお前にマルをつける」)をされた。
判決:「指導であればどのような方法をとっても許されるということはなく、指導をされる側の人格権を不当に侵害することがないよう、社会通念上相当な方法がとられなければならず、その相当性を逸脱した場合には、違法となり、不法行為を構成するものというべきである。殊に、被告は本件大学の主任教授であるところ、弁論の全趣旨によれば、本件大学の主任教授は、人事、学位審査及び研究費の配分等、教室内の重要な事項に関する決定権を有していることに照らせば、指導の方法、すなわち、言葉、場所、タイミングの選択を誤ると、指導を受ける者に対して必要以上に精神的な苦痛を与え、ひいては人格権を侵害することになりかねないものであるから、特に注意を払うことが求められるというべきであ」り、上記Yの発言は、「指導としての適切さを欠き,原告の人格権を侵害しているものといわざるを得ない」として、慰謝料550万円の請求のうち、5万5000円を認容しました。

(2) アカハラを認めなかった判決 -大阪高等裁判所 平成14年1月29日判決
事案の概要:大学助手Xは、4年半にわたり、上司教授Yから研究を妨害されたり、大学から追い出そうとされたり、休暇取得を妨害されたり、誹謗中傷を受けたり、非常勤講師兼業を妨害されたり等数々の嫌がらせを受けた。
判決:「Xは本件が典型的な「アカデミック・ハラスメント」の例であることを強調するが、そのような把握は必ずしも相当でない。蓋し、本件をXが主張するような、教室の主任教授と助手との間に存在する構造的な力関係に基づく、教授から助手に対する追い出し工作であるとみることはできないからである」と判示し、個人的な不法行為責任の有無を検討し、非常勤講師兼業妨害の点のみYの責任を肯定して、慰謝料550万円の請求のうち、11万円のみ認容しました。

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