御器谷法律事務所

団体交渉への対応

1. 団体交渉とは
 団体交渉とは、労働組合法上の要件(同法第2条・第5条2項)を満たす労働組合が代表者を通じて使用者と行う交渉のことをいいます。
 憲法第28条において、団体交渉を行うことを労働者の権利として認めており、これを受けて労働組合法が、正当な理由なく団体交渉を拒絶することを不当労働行為として禁止しています(同法第7条2号)。
 団体交渉は、労働者が使用者との交渉において対等の立場に立つことを促進することによって、労働者の地位を向上させ、労働条件について使用者と労働者の関係を規制する労働協約を締結するための手段として用いられます(労働組合法第1条)。
 したがって、団体交渉においては、主として人事を含めた労働条件が交渉事項となります。政治的要求や使用者と全く関係のないことについては団体交渉を求めることができません。

2. 団体交渉を要求されたら場合
 労働組合から団体交渉の申入れがあった場合、使用者は原則として、団体交渉に応じなければなりません。団体交渉に応じないと、応じないことをもって不当労働行為として、労働組合法違反となります(労働組合法第7条2号)。
 もっとも、これには例外があります。団体交渉を拒否することに「正当な理由」がある場合には、不当労働行為にはなりません。団体交渉拒否に「正当な理由」が認められうる場合としては、以下のようなケースが考えられます。
(1) 団体交渉を申し込んできた組織が、労働組合法上の労働組合の要件を満たさない場合。例えば、労働組合と自称する労働者の団結が、労働組合としての規約と組織を具備せず、単に労働条件改善等のために使用者と交渉するための一時的集団にすぎない場合などが挙げられます(熊本地裁昭和40.9.29判決)
 なお、一人の従業員が、所属する職場や雇用形態に関係なく、産業別、業種別、職業別、地域別に組織される企業外の合同労働組合に加入し、団体交渉を求めてくるケースがありえます。企業外の合同労働組合が労働組合法上の保護適格を有する労働組合に該当するかという点について、議論はありますが、労働委員会の実務上は広く認める傾向にあり、これを認める裁判例もあります(東京地裁平成14年5月31日判決)。
(2) 団体交渉を申し込まれた会社が、労働組合の組合員の使用者ではない場合。
(3) 使用者側または労働組合側の体制が整っていないにもかかわらず、複数の組合から企業に対し団体交渉が申し込まれた場合、または、労働組合から複数の企業に団体交渉が申し込まれた場合。
(4) 労働組合の代表者(交渉担当者)とされる者に交渉の権限がない場合。
(5) 労働条件とはおよそ関係ない事項について交渉要求がなされた場合。
(6) 団体交渉を行うには不適切な日時・場所を指定された場合。
(7) 不当に長時間の団体交渉を強要された場合。
(8) 団体交渉の交渉担当者の人数が多すぎる場合。
(9) 団体交渉の場で、交渉担当者が会社に対し暴言を続け、正常な話し合いが期待できない場合。
(10) 会社役員の病気や業務上の緊急性を有する案件が入ったため、団体交渉に参加できない場合。
(11) 団体交渉が頻繁に開催され、業務の方が停滞しているような場合。

3. 団体交渉への対応―留意事項
(1) 団体交渉の出席者
 労働組合としては、代表取締役や重役など、会社の中核を担うポストについている者が団体交渉に出席するよう求めてくることがありますが、社長や重役が出席する必要はありません。労働条件等について、決定できる権限を有する者を代わりに出席させることができます。
 また、弁護士に委任し、会社側の代理人として、団体交渉にともに出席してもらうこともできます。
(2) 団体交渉の場所
 労働組合としては、会議室などの会社内の施設を団体交渉の場所として指定してくることが多いですが、必ずしも会社内で行う必要はありません。
 労働組合との話し合いによって、会社施設以外で、団体交渉を設けることができます。
 なお、労働組合の事務所を交渉場所とした場合には、予定された交渉時間を過ぎたとしても解放されないおそれがあるため、避けるべきでしょう。
(3) 団体交渉の日時
 労働組合としては、勤務時間内に団体交渉の場を設けることを求めてくることが多いですが、勤務時間内にこれに応じる必要はありません。労働組合の活動は、勤務時間外になされることが原則であるからです。安易にこれに応じてしまうと、団体交渉に割かれた時間についてまで、賃金を支払わなければならなくなるおそれがあります。したがって、このような要求がなされた場合は、労働組合と協議の上、勤務時間外の日時をできるだけ早く設定すべきでしょう。
(4) 団体交渉についてのルール作成
 上記のような団体交渉の進行方法についてのルールは、労働組合と協議の上、書面にして労働協約として締結しておくべきです。後の紛争を予防することに役に立ちます。1)双方の出席者の人数、2)団体交渉の場所、3)団体交渉は勤務時間外に行うこと、4)交渉事項、5)双方とも団体交渉においては誠実な態度をもって臨むこと、等を項目として記載しておくべきです。
(5) 交渉内容の記録
 団体交渉においては、そのプロセスも重要です。したがって、2名以上で団体交渉で臨み、メモ係を決めておくなどできるだけ記録しておくべきです。
 話し合いは二転三転する場合もあるので、必ずしも全部記録しておく必要はありません。団体交渉の録音は、労働組合が求めてきて、これに会社が同意するような場合にすれば足ります。
(6) 団体交渉の場での発言者
 団体交渉の場では、一般的には発言者を一人決めておくべきでしょう。複数の者が発言する場合、発言者相互間で発言が食い違ったり、感情的な発言をしてしまうような場合がありうるからです。発言者以外は、団体交渉の経緯をメモしたり、発言者がヘルプを求めてきた場合の対応に備えたりしておくべきです。
(7) 資料の提出
 労働組合は、会社に対して資料の提出を求める場合がありますが、これに全部応える必要はありません。営業機密などの情報が記載されている資料などは提出を控えるべきです。
 もっとも、提出を要求された資料について、一律に拒否してしまうと、不誠実態様として、不当労働行為に該当するおそれがあります。
 団体交渉事項について、説明する上で必要な限度で、資料を提出するよう心がけるべきです。
(8) 議事録への署名
 労働組合から、議事録へ署名することを求められるような場合がありますが、これに直ちに署名することは控えるべきです。議事録の内容が労働協約として成立してしまうおそれがあるからです。
(9) 誠実な対応
 使用者側と労働組合の双方に基本的な見解があり、話し合いの余地がないと思われる場合でも誠実に対応する必要があります。団体交渉においては、自主的解決の可能性の余地が常に残されていると考えられ、使用者が合意達成の可能性を模索して誠実に交渉する義務を負うからです。自分の主張の根拠を具体的に説明したり、必要な資料を提示するなど、誠意ある対応をとるべきです。
 もっとも、使用者は団体交渉において誠実な態様をすれば足りるのであり、交渉内容について意に反して合意や譲歩する義務はありません。団体交渉において出された要求については即答する必要はなく、持ち帰って検討すれば足ります。誠実な交渉を行ったにもかかわらず、交渉が平行線をたどるような場合には、団体交渉を打ち切ることができます。

4. 関連裁判例
(1) 使用者に誠実に団体交渉に対応する義務を認めた事例(東京地判平成元年9月22日判決)
労働組合法7条2号は、使用者が団体交渉和することを正当な理由がなくて拒むことを不当労働行為として禁止しているが、使用者が労働者の団体交渉権を尊重して誠意をもって団体交渉に当たったとは認められないような場合も、右規定により団体交渉の拒否として不当労働行為となると解するのが相当である。このように、使用者には、誠実に団体交渉にあたる義務があり、したがって、使用者は、自己の主張を相手方が理解し、納得することを目指して、誠意をもって団体交渉に当たらなければならず、労働組合の要求や主張に対する回答や自己の主張の根拠を具体的に説明したり、必要な資料を呈示するなどし、また、結局において労働組合の要求に対し譲することができないとしても、その論拠を示して反論するなどの努力をすべき義務があるのであって、合意を求める労働組合の努力に対しては、右のような誠実な対応を通じて合意達成の可能性を模索する義務があるものと解すべきである。」

(2) 不誠実な団体交渉であり不当労働行為に該当するとされた事例(東京地判平成20年7月3日判決)
「平成17年度の昇給及び一時金等を交渉事項とする平成17年3月24日、同年6月29日及び同年11月24日の団体交渉において、予め用意した文書を読み上げるだけで形式的な回答に終始し、常勤取締役を出席させたり、回答の根拠を具体的に説明したり、必要に応じて財務資料等を提示したりすることを行わなかった原告の一連の対応は、誠実に団体交渉に臨んだものとは認め難く、実質的に団体交渉を正当な理由なく拒んだと認められるから、労働組合法7条2号の不当労働行為に該当する。」

(3) 団体交渉の不誠実性が否定された事例(東京地判平成17年8月29日判決)
 「使用者は、正当な理由なく、労働組合等と団体交渉をすることを拒むことを禁止されているところ(労働組合法7条2号)、使用者が労働者の団体交渉権を尊重して、誠意をもって団体交渉に当たったとは認められないような場合には、同規定による団体交渉の拒否として不法行為に当たるものと解するのが相当である。
・・・被告Aは、原告組合との間で、平成13年春闘において、9回にわたり、団体交渉を行い、本件賃金協定案の趣旨説明を行ったほか、被告Bらを交えて、6回にわたり、対角線交渉も行ったことが認められる。そして、前記認定事実によれば、被告Aないし被告Bは、団体交渉ないし対角線交渉において、社会情勢、地域的適正分配率等、本件賃金協定案の趣旨説明を行ったほか、増収の方策として、クレジットカード決済機の導入、高速洗車機の代替を検討していることなどの説明を行っていることが認められ、原告組合の要求に対し譲歩を示すことはなかったが、併存組合との間で本件賃金協定案の内容で平成13年度の賃金協定が成立していること等を考慮すると、原告組合の合意を得るため誠意をもって団体交渉に当たらなかったとまでいうことは困難である。」

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