御器谷法律事務所

名誉毀損の慰謝料の高額化?

1. 問題の所在
 名誉毀損による民法上の損害賠償請求である慰謝料については、従前よりその認容額があまりに少額であるとの批判が長くあったように思われます。
 日本の民事裁判においては、目に見えない精神的苦痛に対する評価が非常に低かったものと思われます。
 名誉毀損による慰謝料請求を認めてもその額が50万円からせいぜいで100万円というのでは、不当な報道による何等の抑止力にもなりません。さらに週刊誌等の一部ではあえてスキャンダラスな記事により売上を上げようとの意図もみられ、名誉を侵害される被害者の利益をなんとか実効性をもって守りたいとの考えもありました。
 このような事実関係を背景としてか、2000年に入った頃から、ようやく数百万円程度の慰謝料を認める判決が見られるようになってきました。しかし、それらの判決は有名芸能人やスポーツ選手等であり、これらが一般化できるかには疑義も存するところです。
 一般に名誉毀損による慰謝料の額を決する要素としては、次の諸点を指摘する見解があります。
(1) 報道側の諸事情
 ・報道機関の影響力−発行部数、マスメディアでの位置づけ
 ・報道の内容や表現の態様
 ・取材の方法や対象の相当性
 ・事実の真実性
 ・事実の公共性や公益性
 ・事実を真実と判断した相当の理由があるか等
(2) 被害者側の諸事情
 ・被害の程度や現実の不利益−信用毀損の程度
 ・その職業や社会的地位、年齢や経歴等
 ・仕事や家族への具体的影響
 ・被害者による名誉回復の可能性

2. 主な判例の紹介
 以下では、名誉毀損による比較的高額な慰謝料が認められた主な判決を紹介します。
(1) 女優の大原麗子さん対女性自身の事件
 −東京高等裁判所 平成13年7月5日判決
(本件の第一審は、慰謝料500万円を認容。)−500万円
 近時においては、国民の人格権に対する重要性の認識やその社会的、経済的価値に対する認識が高くなってきており、人格権の構成要素である名誉権、肖像権、その肖像、氏名、芸名及び人格的イメージの商業的利用価値及びプライバシーの権利の保護やそれらの侵害に対する補償についての要求も高くなっている。これらの法的状況と過去と現在の相対的な金銭価値観の変動を考慮すると、とかく軽く評価してきた過去の名誉毀損等による損害賠償等事件の裁判例の慰謝料額に拘束されたり、これとの均衡に拘ることは、必ずしも正義と公平の理念に適うものとはいえない。
 本件記事等によるその慰謝料額の算定においては、名誉毀損及び名誉感情の侵害となる本件記事等の内容が被控訴人に与えた精神的苦痛にとどまらず、本件記事等の公表によって生じ得る被控訴人の芸能活動及びコマーシャル宣伝への出演機会に対する悪影響による無形の財産的損害、本件記事等の内容が真実と認めるに足る証拠もなく、取材等も的確でなく、その記事内容が真実であると信ずるに足る相当な事由もないうえ、その表現も被控訴人の人格に対する配慮が見られず、購読意欲を煽り本件週刊誌の売上を上げて利益を図る意図があることが推認されるようなものであること、控訴人が本件記事等を載せた本件週刊誌で相当な利益を揚げていると推認され、多少の損害賠償金の支払では本件のような違法行為の自制が期待されないこと、そして、わが国においては民事私法の実定法上の規定もないのに、過去の判例により国民の知る権利に対応するため報道するマスメディアに緩やかな免責法理が認められてきており、本件記事のような類の虚偽報道や誤報記事による被害者に対する補償措置を多少強化しても国民の知る権利を脅かす危険性は少ないと見られること、本件記事等は従来の緩やかな免責法理に照らして判断しても違法性を阻却することができず、結果として違法性が高いこと、被控訴人が本件記事等に反駁、反論の措置として本件記事等と同程度の伝播効果のある週刊誌や一般新聞紙による名誉回復広告等を掲載してもらおうとすると数百万円以上の費用が掛かることが推認されることなどの事情を総合して勘案すると、本件記事等の公表によってもたらされた被控訴人の精神的苦痛等を償うに足りる慰謝料額は1000万円を下回るものではないというべきである。

(2) プロ野球選手清原和博氏対週刊ポストの事件
 −東京高等裁判所 平成13年12月26日判決−600万円
 名誉毀損による慰謝料の額は、これが報道による場合にはその報道がされた場所的範囲の広狭や密度、当該報道の影響力の程度、その情報の内容や事実摘示の方法、被害者が被った現実的な不利益あるいは損害、その年齢、職業、経歴、情報の真実性の程度やこれを真実と信じたことの相当性の程度、取材対象や方法の相当性、被害者自らの持つ名誉回復の可能性等諸般の事情を考慮して個別具体的に判断すべきものである。
 これを本件についてみると、本件記事は、被控訴人の体力がプロ野球選手とは考えられないほど劣っており、本来の厳しいトレーニングメニューには耐えられず、軽いトレーニングメニューを組んだが、被控訴人は平成12年のシーズンに向けて再起をかけて取り組んでいるはずのところそのようなメニューでさえも遊び半分の真剣味のない態度でしか取り組まず、トレーナーとの約束を破って飲酒・喫煙をし、あげくに二日に一度はストリップバーで派手に遊興を繰り返し、肉体改造という所期の目的は早々挫折したとの事実を被控訴人を愚弄する表現を用いて記者が直接見聞きしたかのように具体的、断定的に報道するものである。しかも、紙面中央に「やっぱり!“虎の穴”自主トレ清原が[金髪ストリップ通い]目撃」との大見出しを太字で配し、読者に被控訴人のプロとしての意識の欠如やファンの期待を裏切るような生活をシアトルで送っていることを強く印象づけるものである。そして、控訴人の発刊している週刊ポストは、著名な週刊誌でその発行部数も多くその掲載記事は多数の読者に読まれ、本件広告が主要全国紙である新聞三紙の全国版に掲載されたこととも相まって本件記事の内容は広い範囲に伝わったことが推認される。したがって、本件記事によって人気プロ野球選手である被控訴人の社会的評価が大きく低下し、被控訴人が被った有形、無形の損害は甚大なものであったことが推認できる。控訴人は、以上のように被控訴人の名誉を著しく毀損する本件記事を掲載するにつき被控訴人からの取材さえせず、控訴人が行ったという取材の内容もずさんなものであることは前記のとおりである。
 一方、本件記事は主として被控訴人のシアトルにおけるトレーニングの内容や生活を報道するにとどまり、被控訴人のプロ野球選手としての資質以外の一般の社会生活における品性、名声、信用などの人格的な側面についての中傷、誹謗、非難等を多く含むものではない。また、被控訴人のプロ野球選手の資質に関わる部分もそれ自体として被控訴人の選手生命に直接関わるものとは考え難い。
 以上の諸事情を総合して考慮すると、本件記事によって被控訴人が受けた名誉毀損による損害額は600万円をもって相当なものと認められる。

(3) 楽天の三木谷氏対週刊新潮の事件
 −東京地方裁判所 平成21年1月26日判決
 認容額990万円 対楽天:550万円
対三木谷氏:440万円

(4) 貴乃花夫妻対週刊新潮の事件
 −東京地方裁判所 平成21年2月4日判決
 認容額375万円 ‐ 八百長記事を5回掲載
 新潮社社長に対する賠償責任も認容

(5) 日本相撲協会、北の湖前理事長対週刊現代の事件
 −東京地方裁判所 平成21年3月5日判決
 認容額1540万円 対協会:770万円
対前理事長:770万円

(6) 貴乃花夫妻対フライデーの事件
 −東京地方裁判所 平成21年3月13日判決
 認容額440万円
 (但し、社長の賠償責任は認めず)

(7) 日本相撲協会、朝青龍ら30名の力士対週刊現代
 −東京地方裁判所平成21年3月26日判決
 認容額4290万円 対朝青龍:1100万円
対協会:660万円
対その他の力士:22万円、他

(8) 大学教授対週刊文春 セクハラ報道名誉毀損訴訟控訴審
 −大阪高裁 平成21年5月15日判決
 認容額:550万円

(9) 貴乃花夫妻対週刊現代の事件
 −東京地方裁判所 平成21年7月13日判決
 認容額約840万円、謝罪広告の掲載、名誉棄損の防止体制の不備による野間社長の賠償責任も認容。
 −東京高等裁判所 平成22年9月29日判決
 二審も野間社長の連帯責任を認容。

(10) 貴乃花夫妻対フライデー事件、控訴審
 −東京高裁 平成21年11月18日判決
 賠償額を715万円に増額、謝罪広告は認めず。

(11) 中田前横浜市長対週刊現代
 −東京地方裁判所平成22年10月29日判決
 週刊現代の記事は前市長がコンパにおいて女性にわいせつな行為をしたとしたが、裏付け取材が殆どなく、情報源が前市長と対立する市議等として、550万円の支払と謝罪広告を命じました。

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