御器谷法律事務所

救急医療と注意義務

1.救急病院における医師の注意義務
 急患が出たとき救急車を呼び、救急病院に搬送されます。そして、その救急病院にいる医師から治療を受ける訳ですが、その医師がいわゆる救急専門医ではなく、脳神経外科医であったとき、医師としての注意義務の具体的内容や程度はどの程度のものが求められるのでしょうか。
救急医療における医師の治療上の注意義務が問題となった裁判例があります。

2. 大阪高等裁判所平成15年10月24日判決
 判旨の重要部分は以下のとおりです。
 なお、本件の地裁判決は、担当医師の治療上の注意義務違反を認めず、原告の請求を棄却しました。これに対して、本件高裁判決は、担当医師の治療上の注意義務を認め、原告の請求を一部認容しています。
 「被控訴人らは、被控訴人YがAに対し施行した医療内容は2次救急医療機関として期待される医療水準を満たしていたと主張するので、この点を検討する。
 証拠によると、我が国では年間2千万人の救急患者が全国の病院を受診するのに対し、日本救急医学会によって認定された救急認定医は2千人程度(平成5年当時)にすぎず、救急認定医が全ての救急患者を診療することは現実には不可能であること、救急専門医(救急認定医と救急指導医)は、首都圏や阪神圏の大都市部、それも救命救急センターを中心とする3次救急医療施設に遍在しているのが実情であること、したがって、大都市圏以外の地方の救急医療は、救急専門医ではない外科や脳外科などの各診療科医師の手によって支えられているのが、我が国の救急医療の現実であること、本件病院が2次救急医療機関として、救急専門医ではない各診療科医師による救急医療体制をとっていたのは、全国的に共通の事情によるものであること、一般的に、脳神経外科医は、研修医の時を除けば、心襄穿刺に熟達できる機会はほとんどなく、胸腹部の超音波検査を日常的にすることもないこと、被控訴人Yは、胸腹部の超音波検査が必要と判断した時には、放射線科あるいは内科に検査を依頼しており、自ら超音波検査の結果を読影することはなかったこと、当日、被控訴人Yとともに当直に当たっていた小児科の医師も、日常的に超音波検査をすることはなく、単独で超音波検査をすることは困難であったことが認められる。
 そうだとすると、被控訴人Yとしては、自らの知識と経験に基づき、Aにつき最善の措置を講じたということができるのであって、注意義務を脳神経外科医に一般に求められる医療水準であると考えると、被控訴人Yに過失や注意義務違反を認めることはできないことになる。杉本鑑定や金子鑑定も、被控訴人Yの医療内容につき、2次救急医療機関として期待される当時の医療水準を満たしていた、あるいは脳神経外科の専門医にこれ以上望んでも無理であったとする。
 しかしながら、救急医療機関は、「救急医療について相当の知識及び経験を有する医師が常時診療に従事していること」などが要件とされ、その要件を満たす医療機関を救急病院等として、都道府県知事が認定することになっており(救急病院等を定める省令1条1項)、また、その医師は、「救急蘇生法、呼吸循環管理、意識障害の鑑別、救急手術要否の判断、緊急検査データの評価、救急医療品の使用等についての相当の知識及び経験を有すること」が求められている(昭和62年1月14日厚生省通知)のであるから、担当医の具体的な専門科目によって注意義務の内容、程度が異なると解するのは相当ではなく、本件においては2次救急医療機関の医師として、救急医療に求められる医療水準の注意義務を負うと解すべきである。
 そうすると、2次救急医療機関における医師としては、本件においては、上記のとおり、Aに対し胸部超音波検査を実施し、心襄内出血との診断をした上で、必要な措置を講じるべきであったということができ(自ら必要な検査や措置を講じることができない場合には、直ちにそれが可能な医師に連絡を取って援助を求める、あるいは3次救急病院に転送することが必要であった。)、被控訴人Yの過失や注意義務違反を認めることができる。
 以上のとおり、被控訴人Yに注意義務違反を認めることができ、被控訴人奈良県は債務不履行責任を免れない。
 他方、被控訴人Yについては、救急医療行為は、都道府県知事の認定した医療機関において行われるものであり、被控訴人奈良県が設置した本件病院での救急医療行為は公権力の行使に当たると解するのが相当であって、被控訴人Y個人は不法行為責任を負わない。」

 この救急医療と注意義務につきましても、遠慮なく当事務所にご相談下さい


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