御器谷法律事務所

食の安全とコンプライアンス


1. 食の安全と法令、
 国民の食品の安全性に対する不安は、時とともにその対象やその内容に変遷があります。終戦後は食中毒の不安から様々な法令が成立し、平成に入ってからもBSE問題や鳥インフルエンザ、ノロウイルス、食品表示の偽装、輸入食品についての残留農薬の問題、遺伝子組み換え食品問題等あとを断つことがありません。
 国民の食品の安全性を保障しようとする法令も、食品衛生法、食品安全基本法、JAS法、健康増進法等極めて多数に及んでいます。

2. 食の安全とコンプライアンス
 食品会社は、社会の一員として法令を遵守すべきことは当然のことでありますが、食品が国民の健康に直結するだけに特に重大なコンプライアンス=法令遵守の責任を負っています。
 ところが、最近は食品会社における法令違反により食の安全が脅かされる事態を多数経験しています。そして、食品会社の不祥事にあたっては、その影響は極めて甚大なものがあり、民事上、刑事上、行政上の責任が問われ、さらにマスコミに報道されることにより、消費者や取引先からの信用を一気に失い、企業の存続自体が損なわれる事態もありえます。
 企業が社会的存在として存続し、その信用を維持するには、法令を遵守すべき体制=コンプライアンス体制の構築とその実効性ある運用は必要不可欠なものとなっています。

3. 食の安全における法令の意味するもの
(1)食品衛生法
 食品会社においいて、先ず留意すべき法令としては食品衛生法が考えられるでしょう。特に集団食中毒は、食品衛生法違反として企業の致命傷ともなりえます。
 2000年の雪印乳業大阪工場による1万人余の大規模集団食中毒事件は、民事上は損害賠償請求、刑事上は業務上過失傷害罪、行政上は営業禁止処分と回収命令が問題となり、企業の存続自体が問題となった例と言えるでしょう。
(2)不正競争防止法
 ミートホープ事件においては、豚肉や鶏肉を使用した偽装ミンチが不正競争防止法の虚偽表示として逮捕され、業務停止処分の後自己破産の申立をしました。
 食品の偽装においては、不正競争防止法のみならず、場合によっては詐欺罪や景品表示法等も問題となることがあります。
(3)JAS法
 白い恋人や赤福の事例においては、食品の品質自体ではなく、賞味期限という期限表示自体が問題となり、行政処分が問題となりました。ここでは食中毒等の問題というより、消費者に対する表示という信頼自体が問題となりました。
 さらに2007年1月の不二家の事件においては、消費期限の表示が自社基準を逸脱していたことが問題となり、JAS法基準よりも厳しく企業の責任が問われた面も指摘する見解があります。
(4)取締役としての善管注意義務
 ダスキン株主代表訴訟においては、取締役が未認可添加物が食品に使用されていることを知った後のいわゆるクライシス・マネジメントの具体的内容が問題とされました。
(5)景表法
 食品の産地を偽装した場合には、景品表示法による優良誤認表示に該当することがあり、その場合には公正取引委員会から排除命令を受けることがあります。
(6)刑法の詐欺罪
 食品の偽装により取引の相手方を欺いて財産上の被害を被らせたときには、刑法上の財産犯として詐欺罪が適用されることがあります。
(7)刑法の業務上過失致死傷罪
 食品に毒物が混入したり、大規模な集団食中毒が発生したときは、刑法上の業務上過失致死傷罪が成立することがあります。
(8)民法の不法行為ないし債務不履行責任、製造物責任
 食品事故により相手方ないし消費者に損害が発生したときは、その相手方ないし消費者は、不法行為(民法第709条)ないし債務不履行責任や製造物責任法(PL法)に基づきその被った損害の賠償を請求することができることがあります。

4. コンプライアンスの具体的内容
(1)社長ないし企業のトップによるコンプライアンス体制の意思表明
 法令の遵守が企業の存続にとって必要不可欠なものであることを、会社の経営方針として意思表明し、全役員及び従業員がこれを遵守することの必要性を明確にします。
(2)法令遵守のための具体的行動基準(マニュアル)
 役員や社員が法令に違反しないためには、どのような行動をしてはならないか、又は、どのような行動をすべきか、を具体的な行動基準として記載するものであり、一読して分かりやすい「マニュアル」として作成される部分です。
 この行動基準については、一般的な法令遵守のためのいわば総論的なコンプライアンス・プログラムの作成が先ず考えられます。
 そして、企業の置かれている業界や各担当部署の実情に応じて、いわば各論的コンプライアンス・プログラムの作成が考えられます。
(3)担当部署の決定
 会社として法令遵守を実行するにはコンプライアンス体制を会社組織として構築する必要があります。このコンプライアンス体制は会社の規模によっても異なってきますが、担当部署を総務部や法務部とし、あるいはコンプライアンス部を設け、さらにはコンプライアンス・オフィサーやコンプライアンス委員会を設け、一般社員からの相談にも機動的に応ずるシステムが構築されることもあります。
(4)具体的実行手続
1) コンプライアンス・プログラムを作成したときは、これを広く社内に周知徹底させる必要があります。社員向けハンドブックを作成しこれを全社員に配布し、社内において研修会を開催し、さらに各部署毎でミーティングを開催する等の工夫が有益です。
 また、企業としてこのコンプライアンス体制を広く社会に周知せしめるにはホーム・ページに記載することも一方法でしょう。
2) コンプライアンス・プログラムを作成しこれを会社の方針として実行するには、一般社員からの相談体制を確立する必要があります。この点会社として担当役員や担当部署を決め一般社員から直接メール等で相談できるシステムの設置も一方法でしょう。なお、外部法律事務所を相談窓口として設けるのも実務的な方法でしょう。
 また、全役員、社員から毎年一回コンプライアンスの誓約書を採っている企業もあり、全社員がコンプライアンス・セルフチェック・カードを常に携帯すべきことを要請している企業もあります。
3) コンプライアンス・プログラムは、毎年定期的に改訂を行い、定期的研修等によりその実効性を確保すべき努力が求められます。

(5)危機発生時の対応(クライシス・マネジメント)
 法令違反行為が発生したときの会社としての迅速な体制を事前に構築しておくことが必要です。
 担当部署をどこに配置し、誰がその責任者となるのか、代表取締役や取締役会との連携・意思決定をどのようにとるのか、消費者やマスコミへの公表の仕方、販売停止や回収についての告知方法とその実行方法等を迅速に行うことが定められていなければなりません。
(6)モニタリングの実施
 企業の活動が法令を遵守していることを常に監視するモニタリング体制が構築され、且つ、これが実効性をもって実行されていなければなりません。
 なお、公益通報者保護法の見地からも内部通報制度はこれを設けることが必要でしょう。
(7)内部統制
 以上のコンプライアンス体制全般につき、企業の内部統制の重要な一環として構築されていなければなりません。
 但し、この内部統制体制の構築については、企業の大小等の規模によってその具体的形が異なってくるものと思われます。

 この食の安全とコンプライアンスにつきましても、遠慮なく当事務所にご相談下さい


執務の方針| 弁護士のプロフィール| 取扱事件 | ご案内 顧問契約 |

弁護士費用 | 事務所案内図 | リンク| トップ