御器谷法律事務所

原子力事故と風評被害の判例

1. 風評被害の判例
 平成11年9月30日、東海村の株式会社JCOにおいて発生した臨界事故において、事故現場から約9Kmに本社社屋及び直営工場を有する納豆生産会社が、屋内退避要請地域内に存することから、取引先より納豆製品の取引を停止され、売上げが大幅に減少するなどの損害を被ったとして、原子力損害賠償法や不法行為に基づき、約16億円の損害賠償を株式会社JOCに請求した事案。
 (株)JOCは、仮払金2億1300万円の支払を求め、反訴請求しました。
 判決(東京地裁平成18年4月19日)は、原告の風評被害や慰謝料を認めたものの、その額が仮払金に充たないものとして、原告の請求を棄却し、反訴の一部(3112万円余)を認めました。

2. 判例の要旨
(1)風評被害について
 原告の主位的請求(原賠法3条1項に基づく請求)について
  (1) 前記前提事実及び認定事実によれば,本件臨界事故は,「原子力事業者」(原賠法2条3項)である被告において,「原子炉の運転等」,すなわち,「核燃料物質等」の「加工」(同条1項)の過程で生じたものであると認められ,また,本件臨界事故では,硝酸ウラニル溶液が臨界に達し,放射線である中性子線等が被告東海事業所の転換試験棟から多量に放出されたほか,放射性物質である放射性希ガスや放射性ヨウ素もごく少量とはいえ上記転換試験棟から放出されたことが認められるから,「核燃料物質の原子核分裂の過程の作用又は核燃料物質等の放射線の作用」(原賠法3条1項)が生じたものと認められる。
 そして,原賠法1条1項は,同法の目的を被害者の保護と原子力事業の健全な発達にあるとし,損害賠償責任については,無過失責任主義を採用し(同法3条1項),免責事由も極めて限定している上,原子力損害賠償責任の履行を確保するため,日本原子力保険プールとの原子力損害賠償責任保険契約(同法8条)及び政府との原子力損害賠償補償契約(同法10条)を締結し,基金を用意するほか,原子力損害が事業者の損害賠償措置額を超え,かつ,同法の目的を達成するため必要があると認められる場合には,政府が必要な援助を行うことができる(同法16条1項)として,無限責任主義を採用しており,同法が,賠償されるべき損害の範囲について何ら限定を付していないことからすれば,当該事故と相当因果関係が認められる損害である限りこれを「核燃料物質の原子核分裂の過程の作用又は核燃料物質等の放射線の作用若しくは毒性的作用(これらを摂取し,又は吸入することにより人体に中毒及びその続発症を及ぼすものをいう。)により生じた損害」(同法3条1項)と認めて妨げないというべきであり,いわゆる風評損害について,これと別異に解すべき根拠はない。

(2)具体的損害の認定
 上記のとおり,本件臨界事故により被った原告の営業損害を算定するに当たり,原告主張の方法によることはできないが,以上説示したところによれば,本件臨界事故と相当因果関係のある風評損害が生じた期間としては,平成11年10月から平成12年2月までの5か月間と認めるのが相当であり,そうすると,本件臨界事故によって生じた風評損害としての売上減少分の営業利益は,事故がなければ平成11年10月から平成12年2月までに得べかりし納豆売上高合計37億7326万4297円から実際の納豆売上高である36億7044万2845円を控除した残額1億0282万1452円につき,直近の限界利益率である原告の平成11年6月期の限界利益率より推測される予想利益率38.08パーセントを乗じて得られる3915万円(1万円未満切捨て)と認めるのが相当である。
 本件臨界事故が発生した後の同月1日以降は,原告のテレビコマーシャルが,かえって原告ないし原告商品のイメージ低下に繋がり,このため上記契約を締結した目的を達することができない状況になった以上,原告が出捐したテレビコマーシャル費2億6581万7557円の2分の1に相当する1億3290万円(1万円未満切捨て)については,本件臨界事故に起因する営業損害であると認めるのが相当である。
 加えて,前記認定事実によれば,原告は,本件臨界事故後,消費者及び販売店の双方から,原告の納豆製品の安全性について多数の問い合わせを受け,電話対応や,取引停止,返品,納入拒否等の対応に追われたほか,本件臨界事故の翌日,原告の納豆製品について放射能汚染が認められない旨の証明書を取るために奔走し,その旨の証明書を入手した上,これを全国の販売店にファクシミリで送付するなどして,販売店に対する取引停止の解除や納品の促進を図るために多大な労力や時間を費やしたことなどが認められ,また,原告自身の故意,過失等とは無縁の本件臨界事故によって売上減少を余儀なくされたことから,社内の志気等にも,少なからぬ影響を受けたことが認められる。
 上記認定の事情のほか,本件に顕れた一切の諸事情を勘案すると,原告が本件臨界事故により被った無形の損害に対する慰謝料としては,500万円をもって相当と認める。
 以上によれば,本件臨界事故と相当因果関係のある損害は,即時損害256万4763円,営業損害1億7205万円及び慰謝料500万円の合計1億7961万4763円となる。
 原告は,平成11年12月30日,被告から,本件仮払合意に基づく仮払金として2億1300万円の支払を受けているので,かえって,原告は,被告に対し,その差額である3112万7784円を返還すべき義務があるといわなければならない。

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