御器谷法律事務所

  会計帳簿の閲覧請求に関する裁判例の紹介
東京地方裁判所 平成19年9月20日判決

  1. 請求者と一体的に事業を営んでいる親会社は会社法433条2項3号所定の「請求者」に含まれるか(積極)

  2. 近い将来において競争関係に立つ蓋然性が高い場合に会社法433条2項3号所定の「競争関係」と言えるか(積極)

 本件事案の概要は次のとおりです。Xは平成17年10月に有価証券の保有及び運用等を目的として設立され、インターネット・サービス事業を主たる事業としているA社がその発行済株式のすべてを保有している株式会社です。
 Yは放送法による一般放送事業等を目的とする株式会社です。A社は、平成17年8月からX等の子会社を通じてY株式を取得し始め、同年10月13日、Yに対し業務提携の提案を行ったところ、A社とY社との業務提携の話は進展しないまま時間が経過しました。そこで、Yの株主であるXは、平成19年5月22日、Yに対し、(1)Yの取締役の違法行為差止請求権、責任追及の訴えの提起請求等の監督是正権の行使等又はその検討のため及び、(2)今後のYの株主総会で株主としての権利を行使するために、会社法433条1項の請求権に基づき、平成17年4月1日から現在までにおけるYが保有する投資有価証券の明細を記載又は記録した帳簿(以下「本件書類」という。)の閲覧、謄写(以下「閲覧等」という。)を求めました。
 これに対し、Yは、Xの当該請求は会社法433条2項1号ないし3号所定の拒絶事由に該当するなどとして、本件書類の閲覧等を拒否しました。そこで、Xは、Yに対し、本件書類の閲覧等を求めて本訴を提起しました。
 
<判決抜粋>
 会社法433条2項は、相手方会社が株主からの会計帳簿の閲覧等の請求を拒むことができる事由を掲げ、同項3号は、「請求者が当該株式会社の業務と実質的に競争関係にある事業を営み、又はこれに従事するものであるとき」と規定している。同項3号の趣旨は、競業者等が会計帳簿及び書類の閲覧等により会社の秘密を探り、これを自己の競業に利用し、又は他の競業者に知らせることを許すと、会社に甚大な被害を生じさせるおそれがあるので、このような危険を未然に防止することにあると解されるところ、そのようなおそれは、単に請求者の事業と相手方会社の業務とが競争関係にある場合にとどまらず、請求者の親会社の事業が相手方会社の業務と競争関係にある場合にも生じ得るものである。また、旧商法においても、上記の点を考慮して、会計帳簿の閲覧等の拒絶事由として、閲覧等の請求者が会社と競業をする者であるときだけでなく、請求者が会社と「競業ヲ為ス者」のために当該会社の株式を有する者であるときをも規定しており(293条ノ7第2号)、親会社が競業社である場合の完全子会社もこれに当たると解されていた。そして、会社法は、旧商法が定めていた会計帳簿の閲覧等の拒絶事由の実質をほぼ維持して、改めて会社帳簿の閲覧等の拒絶事由を定めたものである。そうだとすると、請求者が相手方会社と競争関係にある会社の完全子会社であるような場合に、請求者自体が競争関係にある事業を営んでいないとして、会社法433条2項3号所定の拒絶事由に該当しないと解するのは、上記会社法の制定経緯に沿うものということはできない。
 したがって、会社法433条2項3号所定の「請求者が当該株式会社の業務と実質的に競争関係にある事業」を営む場合とは、単に請求者の事業と相手方会社の業務とが競争関係にある場合に限るものではなく、請求者(完全子会社)がその親会社と一体的に事業を営んでいると評価することができるような場合には、当該事業が相手方会社の業務と競争関係にあるときも含むものと解するのが相当である。
 また、会社法433条2項3号の趣旨が上記のとおりであることからすれば、近い将来において競争関係に立つ蓋然性が高い者からの請求も相手方会社に甚大な被害を生じさせるおそれがある点では、現に競争関係にある者からの請求と実質的に変わるところはない。そうだとすると、会社法433条2項3号所定の「競争関係」とは、現に競争関係にある場合のほか、近い将来において競争関係に立つ蓋然性が高い場合をも含むものと解するのが相当である。
 原告は、有価証券の保有及び運用等を目的とする株式会社であるが、楽天がその発行済株式のすべてを保有し、楽天の完全な支配に服し、また、楽天と原告は、被告の株主に対する委任状勧誘など株主としての権利行使を共同して行っている(前記(2)ア(ア)、弁論の全趣旨)。そうだとすると、原告と楽天は一体的に事業を営んでいると評価することができ、会社法433条2項3号の実質的な競争関係の有無を判断するに当たっては、楽天の事業内容をも併せて考慮すべきである。
 そして、本件において、楽天は、インターネットでの通信に関するサービス事業のほか、既に放送事業を営んでおり(前記(2)ア(イ)ないし(エ))、他方で、被告は放送事業のほか、既にインターネットでの動画配信業務を行い、平成18年以降インターネットとの融合を企図した事業展開を遂行している(前記(2)イ(ア)ないし(ウ))。そうだとすると、被告の営む事業と原告らの営む事業は、基本事業であるインターネットと放送の点において、現に競争関係にあり、かつ、両者とも「インターネットと放送の融合」を指向しているのであるから近い将来においてその競争関係はますます厳しくなる蓋然性が高いものと認めるのが相当であり、当該判断を覆すに足りる証拠は存在しない。
 以上によれば、楽天を完全親会社とする原告と被告は、「実質的に競争関係にある」ということができ、被告は、会社法433条2項3号所定の拒絶事由により、本件書類の閲覧等請求を拒絶することができると解するのが相当である。
 
主文:
  1. 原告の請求を棄却する。
  2. 訴訟費用は原告の負担とする。
   
  この帳簿閲覧請求権につきましても、遠慮なく当事務所にご相談下さい


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