御器谷法律事務所

陣痛促進剤


1. 陣痛促進剤とは、
 一般的には子宮を収縮させ陣痛を強める作用を有する薬剤を指します。
 この陣痛促進剤は、分娩の長期化による胎児への悪影響を避け陣痛を強めることにより早期に分娩を促す有用な作用を有する反面、自然の分娩を待たずに人為的に子宮を収縮させるものであり、母体や胎児へ重大な危険を及ぼす恐れのある薬剤として数多くの重篤な結果(胎児仮死、脳性麻痺、胎児死亡、子宮破裂、母死亡等)を惹起しているものが見られます。

2. 問題の所在等
 陣痛促進剤の投与に関する医療訴訟においては次のような問題点等が存し、多数の判決例があります。
(1) 陣痛促進剤投与の適応ないし必要性
 この適応には、医学的適応と社会的適応があるとされています。
(2) 陣痛促進剤投与にあたっての医師の説明義務
 陣痛促進剤投与は胎児や母体に重大な危険を及ぼす恐れがありますから、医師はその投与の必要性、内容、危険性について患者に説明すべき義務があるでしょう。
(3) 陣痛促進剤の投与の方法
 陣痛促進剤の投与の時期、投与の用量等が問題となってくるでしょう。
 この点については社団法人日本母性保護医協会のガイドラインを参考として医師の過失の有無を判断している判決例を見受けます。
 また、胎児の低酸素状態を判断する徴候として「遅発一過性除脈」の出現を問題とした判決例があります。
(4) 医師の監視義務
 陣痛促進剤の使用に際して医師が分娩監視装置を用いて監視すべき義務を履行しているか否かが問題となっています。
(5) 急速遂娩の実施
 この点については、吸引分娩や鉗子分娩、クリステレル圧出法の併用、帝王切開のいずれの方法を採ったか等が問題となっています。
(6) 医師の過失と損害との間の因果関係
 胎児の脳障害や死亡等と医師の過失との間の相当因果関係の存在も訴訟上の困難な問題とされています。
 なお、医師における結果の予見可能性の有無も問題とされています。

3. 判例の紹介
(1) 否定例大阪地方裁判所 平成9年2月27日判決
 本件についてみるに、鑑定人Aは、4日午前10時から10時45分までの間の原告Xの陣痛周期と陣痛発作からすると過強陣痛が存在したとは言い難いし、また、診療録上の分娩監視結果における同日午前10時48分以降の子宮収縮も過大な子宮収縮にはあたらないと証言している。
 陣痛促進剤の投与により原告Xに過強陣痛が生じ、胎児仮死を招来したと認めることはできない。
 被告Yに、4日午前10時30分前ころから、分娩監視装置を装着し、連続的に胎児心拍を監視すべき義務及びその義務違反があったものとは認め難く、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
 A子の重症仮死は、原告Xに胎児早期剥離が発症したことが原因となったと認められる。
(2) 肯定例 (1)-大阪高等裁判所 平成11年3月26日判決(上記否定例の控訴審判決・原告の逆転勝訴)
 右の認定及び前記二、三1,2で認定のとおり、胎盤早期剥離が発生したのは、午前10時30分から午前10時45分までの間と推定されるところ、胎児心拍数が午前10時45分に6−7−7(毎分80拍)で、分娩監視装置を装着した午前10時48分以降午前11時10分ころまでの間、毎分70拍前後で推移し、午前11時20分に毎分68拍、その後午前11時20数分から約10分間にも毎分60拍台ないし70拍台であったもので、午前11時57分に娩出した時には心停止状態であったのが、蘇生し、その後9日間存命していたというA子の症状の経過に鑑みると、胎盤剥離の程度は少なくとも当初は軽症の部類に属し、その進行も出産直前に至るまで比較的緩慢な経過を辿っていたものと推認される。
 右の説示に加えて、被控訴人Y2が午前11時に帝王切開術の実施を決断しておれば、○○病院において帝王切開によるA子の娩出が可能であったと思われる午前11時30分にA子の心拍数が毎分70拍程度を維持しており、右数値は、鑑定人○○の、胎児の救命不可能になるのが完全酸素欠亡状態の3ないし5分後であるとの所見によると救命可能なことを示しており、また医師○○の引用するメイヤーの、完全酸素欠亡状態が10分継続した場合脳障害が出現し始め、25分継続した場合出産後早期に死の転帰を辿る旨の所見によると、脳障害なくしての救命が可能であったことを示していること、医師○○も午前11時35分までに娩出していれば、A子が十分に救命されたと考えてよく、この場合脳の不可逆的損傷が避けられていた可能性があるとの所見を述べていることを併せ考慮すると、○○病院の担当医師である被控訴人Y2が、4日午前11時30分にA子を帝王切開術により娩出することによって、その救命をなし得たといわなければならない。
 以上のとおり、○○病院の控訴人X2担当医師である被控訴人Y2には、控訴人X2に対するアトニン増量投与後の監視義務違反の過失及び帝王切開術の早期実施義務違反の過失があり、これらによりA子の死亡の結果を招来したものであ(る)。
肯定例 (2)広島地方裁判所 平成8年3月28日判決
 分娩誘発剤の使用は、母胎及び胎児に及ぼす影響が大きいので、その適応と要約を十分に考慮し、慎重に行わなければならない。
 医学的適応による分娩誘発とは、母胎・胎児において、妊娠を継続した場合のリスクの方が分娩誘発を行った場合のリスクに比べて大きいと判断された場合に行われる。
 誘発分娩の医学的適応は認められない。
 被告は、原告Xに対し、医学的適応がないにもかかわらず、分娩誘発剤を使用したものであり、この点において、医療契約の本旨に従わない履行ないし不法行為上の過失が認められる。
 アトニン-Oの増量については、産婦人科医のガイドラインである日本母性保護医協会発行の「産婦人科医療事故防止のために」と題する冊子によれば、15から30分毎に毎分3摘(1.5mU/分)ずつ患者の状態を観察しながら増加すべきであるとされる。
 アトニン-Oの使用説明書をはじめ各種の資料によれば、オキシトシンには、子宮収縮剤としての性格上、過量投与により過強陣痛を惹起し、その結果胎児徐脈、胎児仮死が発生することがあり、甚だしい場合には子宮破裂・胎児死亡などが生ずる危険があることが認められ、それゆえに、陣痛を誘発する際の要約(必要条件)としては、十分な分娩監視が可能であることがあげられる。
 分娩誘発剤の使用に当たっては、分娩監視装置の常用が望ましく、誘発開始前から装着して陣痛の発来状況を観察・記録する必要がある。分娩監視装置は、胎児心拍の変化と子宮収縮・胎動の2つの波形のかねあいを監視する装置であり、この装置を十分利用できるようになると胎児仮死の発生を、発生とほぼ同時に知ることができるようになる。
 被告には、以上述べたように厳重な監視義務があるにもかかわらず、アトニン-Oを投与開始時には当初分娩監視装置は装着せず、しかも被告は全く原告Xを観察せず、監視を看護婦に任せており、アトニン-O増量に際しても、被告は診察しないまま、陣痛が強くないとの看護婦の報告のみでこれを行っている点で監視義務違反が認められる。
 本件において、誘発分娩開始以降、陣痛の状況を慎重に監視し、それに基づいてアトニン-O投与量を陣痛の状況に応じて調節し、その他適切な処置がとられていたら、子宮破裂は生じなかったものと考えられる。

 この陣痛促進剤の投与に関する医療訴訟につきましても、遠慮なく当事務所にご相談下さい

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