御器谷法律事務所

中間指針 - 平成23年8月5日

 原子力損害賠償紛争審査会は、平成23年8月5日、「東京電力(株)福島第一、第二原子力発電所事故による原子力損害の範囲の判定等に関する中間指針 (PDF)」を発表しました。
 その概要は、次のとおりです。

第1 中間指針の位置づけ
 本審査会は、①平成23年4月28日に「東京電力株式会社福島第一、第二原子力発電所事故による原子力損害の範囲の判定等に関する第一次指針」(以下「第一次指針」という。)、②同年5月31日に「東京電力株式会社福島第一、第二原子力発電所事故による原子力損害の範囲の判定等に関する第二次指針」(以下「第二次指針」という。)、③同年6月20日に「東京電力株式会社福島第一、第二原子力発電所事故による原子力損害の範囲の判定等に関する第二次指針追補」(以下「追補」という。)を決定・公表したが、これらの対象とされなかった損害項目やその範囲については、今後検討することとされていた。
 そこで、中間指針により、第一次指針及び第二次指針(追補を含む。以下同じ。)で既に決定・公表した内容にその後の検討事項を加え、賠償すべき損害と認められる一定の範囲の損害類型を示す。
 具体的には、①「政府による避難等の指示等に係る損害」、②「政府による航行危険区域等及び飛行禁止区域の設定に係る損害」、③「政府等による農林水産物等の出荷制限指示等に係る損害」、④「その他の政府指示等に係る損害」、⑤「いわゆる風評被害」、⑥「いわゆる間接被害」、⑦「放射線被曝による損害」、⑧「被害者への各種給付金等と損害賠償金との調整」や、⑨「地方公共団体等の財産的損害等」についても可能な限り示すこととした。

第2 各損害項目に共通する考え方
 本件事故と相当因果関係のある損害、すなわち社会通念上当該事故から当該損害が生じるのが合理的かつ相当であると判断される範囲のものであれば、原子力損害に含まれると考える。
 具体的には、本件事故に起因して実際に生じた被害の全てが、原子力損害として賠償の対象となるものではないが、本件事故から国民の生命や健康を保護するために合理的理由に基づいて出された政府の指示等に伴う損害、市場の合理的な回避行動が介在することで生じた損害、さらにこれらの損害が生じたことで第三者に必然的に生じた間接的な被害についても、一定の範囲で賠償の対象となる。
 本件事故は、東北地方太平洋沖地震及びこれに伴う津波による一連の災害(以下「東日本大震災」という。)を契機として発生したものであるが、原賠法により原子力事業者が負うべき責任の範囲は、あくまで原子炉の運転等により与えた「原子力損害」であるから(同法3条)、地震・津波による損害については賠償の対象とならない。
 但し、中間指針で対象とされている損害によっては、例えば風評被害など、本件事故による損害か地震・津波による損害化の区別が判然としない場合もある。この場合に、厳密な区別の証明を被害者に強いるのは酷であることから、例えば、同じく東日本大震災の被害を受けながら、本件事故による影響が比較的少ない地域における損害の状況等と比較するなどして、合理的な範囲で、特定の損害が「原子力損害」に該当するか否か及びその損害額を推認することが考えられるとともに、東京電力株式会社には合理的かつ柔軟な対応が求められる。

第3 政府による避難等の指示等に係る損害について
[対象区域]
 政府等による避難等(後記の「避難等対象者」(備考)の1)参照。)の指示等(後記の[避難対象者](備考)の2)参照。)があって対象区域(下記(5)の対象「地点」も含む。以下同じ。)は、以下のとおりである。
 (略)
(5)特定避難勧奨地点
 政府が、住居単位で設定し、その住民に対して注意喚起、自主避難の支援・促進を行う地点
⑥ 計画的避難区域及び警戒区域以外の場所であって、地域的な広がりが見られない本件事故発生から1年間の積算線量が20ミリシーベルトを超えると推定される空間線量率が続いている地点であり、政府が住居単位で設定した上、そこに居住する住民に対する注意喚起、自主避難の支援・促進を行うことを表明した地点
(6)地方公共団体が住民に一時避難を要請した区域
 南相馬市が、独自の判断に基づき、住民に対して一時避難を要請した区域((1)~(4)の区域を除く。)
⑦ 南相馬市は同市内に居住する住民に対して一時避難を要請したが、このうち同市全域から上記(1)~(4)の区域を除いた地域
[避難等対象者]
 避難等対象者の範囲は、避難指示等により避難等余儀なくされたものとして、以下のとおりとする。
1 本件事故が発生した後に対象区域内から同区域外への避難のための立退き(以下「避難」という。)及びこれに引き続く同区域外滞在(以下「対象区域外滞在」という。)を余儀なくされた者(但し、平成23年6月20日以降に緊急時避難準備区域(特定避難勧奨地点を除く。)から同区域外に避難を開始した者のうち、子供、妊婦、要介護者、入院患者等以外の者を除く。)
2 本件事故発生時に対象区域外に居り、同区域内に生活の本拠としての住居(以下「住居」という。)があるものの引き続き対象区域外滞在を余儀なくされた者
3 屋内退避区域内で屋内への退避(以下「屋内退避」という。)を余儀なくされた者
[損害項目]
1 検査費用(人)
(指針)
 本件事故の発生以降、避難等対象者のうち避難若しくは屋内退避をした者、又は対象区域内滞在者が、放射線への曝露の有無又はそれが健康に及ぼす影響を確認する目的で必要かつ合理的な範囲で検査を受けた場合には、これらの者が負担した検査費用(検査のための交通費等の付随費用を含む。以下(備考)の3)において同じ。)は、賠償押すべき損害と認められる。
(備考)
 (略)
3) なお、政府による避難指示等の前に本件事故により生じた検査費用があれば、本件事故の発生により合理的な判断に基づいて実施されたものと推認でき、これを賠償対象から除外すべき合理的理由がない限り、必要かつ合理的な範囲でその検査費用が賠償すべき損害と認められる。
2 避難費用
(指針)
Ⅰ)避難等対象者が必要かつ合理的な範囲で負担した以下の費用が、賠償すべき損害と認められる。
 ① 対象区域から避難するために負担した交通費、家財道具の移動費用
 ② 対象区域外に滞在することを余儀なくされたことにより負担した宿泊費及びこの宿泊に付随して負担した費用(以下「宿泊費等」という。)
 ③ 避難等対象者が、避難等によって生活費が増加した部分があれば、その増加費用
Ⅱ)避難費用の損害額算定方法は、以下のとおりとする。
 ① 避難費用のうち交通費、家財道具の移動費用、宿泊費等については、避難等対象者が現実に負担した費用が賠償の対象となり、その実費を損害とするのが合理的な算定方法と認められる。
 但し、領収証等による損害額の立証が困難な場合には、平均的な費用を推計することにより損害額を立証することも認められるべきである。
  (略)
Ⅲ)避難指示等の解除(指示、要請の解除のみならず帰宅許容の見解表明等を含む。以下同じ。)から相当期間経過後に生じた避難費用は、特段の事情がある場合を除き、賠償の対象とはならない。
3 一時立入費用
(指針)
 避難等対象者のうち、警戒区域内に住居を有する者が、市町村が政府及び県の支援を得て実施する「一時立入り」に参加するために負担した交通費、家財道具の移動費用、除染費用等( 前泊や後泊が不可欠な場合の宿泊費等も含む。以下同じ。) は、必要かつ合理的な範囲で賠償すべき損害と認められる。
4 帰宅費用
(指針)
 避難等対象者が、対象区域の避難指示等の解除等に伴い、対象区域内の住居に最終的に戻るために負担した交通費、家財道具の移動費用等(前泊や後泊が不可欠な場合の宿泊費等も含む。以下同じ。) は、必要かつ合理的な範囲で賠償すべき損害と認められる。
5 生命・身体的損害
(指針)
 避難等対象者が被った以下の者が、賠償すべき損害と認められる。
Ⅰ)本件事故により避難等を余儀なくされたため、傷害を負い、治療を要
する程度に健康状態が悪化(精神的障害を含む。以下同じ。)し、疾病にかかり、あるいは死亡したことにより生じた逸失利益、治療費、薬代、精神的損害等
Ⅱ)本件事故により避難等を余儀なくされ、これによる治療を要する程度の健康状態の悪化等を防止するため、負担が増加した診断費、治療費、薬代等
6 精神的損害
(指針)
Ⅰ)本件事故において、避難等対象者が受けた精神的苦痛(「生命・身体的損害」を伴わないものに限る。以下この項において同じ。)のうち、少なくとも以下の精神的苦痛は、賠償すべき損害と認められる。
 ① 対象区域から実際に避難した上引き続き同区域外滞在を長期間余儀なくされた者(又は余儀なくされている者)及び本件事故発生時には対象区域外に居り、同区域内に住居があるものの引き続き対象区域外滞在を長期間余儀なくされた者(又は余儀なくされている者)が、自宅以外での生活を余儀なくされ、正常な日常生活の維持・継続が長期間にわたり著しく阻害されたために生じた精神的苦痛
 ② 屋内退避区域の指定が解除されるまでの間、同区域内における屋内退避を長期間余儀なくされた者が、行動の自由の制限等を余儀なくされ、正常な日常生活の維持・継続が長期間にわたり著しく阻害されたために生じた精神的苦痛
 (略)
7 営業損害
(指針)
Ⅰ)従来、対象区域内で事業の全部又は一部を営んでいた者又は現に営んでいる者において、避難指示等に伴い、営業が不能になる又は取引が減少する等、その事業に支障が生じたため、現実に減収があった場合には、その減収分が賠償すべき損害と認められる。
  (略)
Ⅱ)また、Ⅰ)の事業者において、上記のように事業に支障が生じたために負担した追加的費用(従業員に係る追加的な経費、商品や営業資産の廃棄費用、除染費用等)や、事業への支障を避けるため又は事業を変更したために生じた追加的費用(事業拠点の移転費用、営業資産の移動・保管費用等)も、必要かつ合理的な範囲で賠償すべき損害と認められる。
Ⅲ)さらに、同指示等の解除後も、Ⅰ)の事業者において、当該指示等に伴い事業に支障が生じたため減収があった場合には、その減収分も合理的な範囲で賠償すべき損害と認められる。また、同指示等の解除後に、事業の全部又は一部の再開のために生じた追加的費用(機械等設備の復旧費用、除染費用等)も、必要かつ合理的な範囲で賠償すべき損害と認められる。
(備考)
 (略)
8)倒産・廃業した場合は、営業資産の価値が喪失又は減少した部分(減価分)、一定期間の逸失利益及び倒産・廃業に伴う追加的費用等を賠償すべき損害とすることが考えられる
 (略)
8 就労不能等に伴う損害
(指針)
 対象区域内に住居または勤務等がある勤労者が避難指示等により、あるいは、前記7の営業損害を被った事業者に雇用されていた勤労者が当該事業者の営業損害により、その就労が不能等となった場合には、かかる勤労者について、給与等の減収分及び必要かつ合理的な範囲の追加的費用が賠償すべき損害と認められる。
9 検査費用(物)
(指針)
 対象区域内にあった商品を含む財物につき、当該財物の性質等から、検査を実施して安全を確認することが必要かつ合理的であると認められた場合には、所有者等の負担した検査費用(検査のための運送費用等の付随費用を含む。以下同じ。)は必要かつ合理的な範囲で賠償すべき損害と認められる。
10 財物価値の喪失又は減少等
(指針)
 財物につき、現実に発生した以下のものについては、賠償すべき損害と認められる。なお、ここで言う財物は動産のみならず不動産をも含む。
Ⅰ)避難指示等による避難等を余儀なくされたことに伴い。対象区域内の財物の管理が不能等となったため、当該財物の価値の全部又は一部が失われたと認められる場合には、現実に価値を喪失し又は減少した部分及びこれに伴う必要かつ合理的な範囲の追加的費用(当該財物の廃棄費用、修理費用等)は、賠償すべき損害と認められる。
Ⅱ)Ⅰ)のほか、当該財物が対象区域内にあり、
 ① 財物の価値を喪失又は減少させる程度の量の放射性物質に暴露した場合
 又は、
 ② ①には該当しないものの、財物の種類、性質及び取引態様等から、平均的・一般的な人の認識を基準として、本件事故により当該財物の価値の全部又は一部が失われたと認められる場合には、現実に価値を喪失し又は減少した部分及び除染等の必要かつ合理的な範囲の追加的費用が賠償すべき損害と認められる。
Ⅲ)対象区域内の財物の管理が不能等となり、又は放射性物質に暴露することにより、その価値が喪失又は減少することを予防するため、所有者等が支出した費用は、必要かつ合理的な範囲において賠償すべき損害と認められる。

第4 政府による航行危険区域等及び飛行禁止区域の設定に係る損害について
[対象区域]
(1)政府により、平成23年3月15日に航行危険区域に設定された、東京電力株式会社福島第一原子力発電所を中心とする半径30kmの円内海域(同海域のうち半径20kmの円内海域は同年4月22日に「警戒区域」にも設定され、その後の同月25日には、同海域全体につき航行危険区域が解除されるとともに、「警戒区域」以外の半径20kmから30kmの円内海域は「緊急時避難準備区域」に設定された。以下、これら設定の変更前後における各円内海域を併せて「航行危険区域等」という。)
(2)政府により、平成23年3月15日に飛行禁止区域に設定された、東京電力株式会社第一原子力発電所を中心とする半径30kmの円内空域(同年5月31日には、半径20kmの円内空域に縮小。)
[損害項目]
1 営業妨害
(指針)
Ⅰ)航行危険区域等の設定に伴い、①漁業者が、対象区域内での操業又は航行を断念せざるを得なくなったため、又は、②内航海運業若しくは旅客船事業を営んでいる者等が同区域を迂回して航行せざるを得なくなったため、現実に減収があった場合又は迂回のため費用が増加した場合は、その減収分及び必要かつ合理的な範囲の追加的費用が賠償すべき損害と認められる。
Ⅱ)飛行禁止区域の設定に伴い、航空運送事業を営んでいる者が、同区域を迂回して飛行せざるを得なくなったため費用が増加した場合には、当該追加的費用が必要かつ合理的な範囲で賠償すべき損害と認められる。
2 就労不能等に伴う損害
(指針)
 航行危険区域等又は飛行禁止区域の設定により、同区域での操業、航行又は飛行が不能等となった漁業者、内航海運業者、旅客船事業者、航空運送事業者等の経営状態が悪化したため、そこで勤務していた勤労者が就労不能等を余儀なくされた場合には、かかる勤労者について、給与等の減収分及び必要かつ合理的な範囲の追加的費用が賠償すべき損害と認められる。

第5 政府等による農林水産物等の出荷制限指示等に係る損害について
[対象]
 農林水産物(加工品を含む。以下第5において同じ。)及び食品の出荷、作付けその他の生産・製造及び流通に関する制限又は農林水産物及び食品に関する検査について、政府が本件事故に関し行う指示等(地方公共団体が本件事故に関し合理的理由に基づき行うもの及び生産者団体が政府又は地方公共団体の関与の下で本件事故に関し合理的理由に基づき行うものを含む。)に伴う損害を対象とする。
[損害項目]
(指針)
 Ⅰ)農林漁業者その他の同指示等の対象事業者において、同指示等に伴い、当該指示等に係る行為の断念を余儀なくされる等、その事業者に支障が生じたため、現実に減収があった場合には、その減収分が賠償すべき損害と認められる。
 Ⅱ)また、農林漁業者その他の同指示等の対象事業者において、上記のように事業に支障が生じたために負担した追加的費用(商品の回収費用、廃棄費用等)や、事業への支障を避けるため又は事業を変更したために生じた追加的費用(代替資料の購入費用、汚染された生産資材の更新費用等)も、必要かつ合理的な範囲で賠償すべき損害と認められる。
 Ⅲ)同指示等の対象品目を既に仕入れ又は加工した加工・流通業者において、当該指示等に伴い、当該品目又はその加工品の販売の断念を余儀なくされる等、その事業に支障が生じたために現実に生じた減収分及び必要かつ合理的な範囲の追加的費用も賠償すべき損害と認められる。
 Ⅳ)さらに、同指示等の解除後も、同指示等の対象事業者又はⅢ)の加工・流通業者において、当該指示等に伴い事業に支障が生じたため減収があった場合には、その減収分も合理的な範囲で賠償すべき損害と認められる。また、同指示等の解除後に、事業の全部又は一部の再開のために生じた追加的費用(農地や機械の再整備費、除染費用等)も、必要かつ合理的な範囲で賠償すべき損害と認められる。
2 就労不能等に伴う損害
(指針)
 同指示等に伴い、同指示等の対象事業者又は1Ⅲ)の加工・流通業者の経営状態が悪化したため、そこで勤務していた勤労者が就労不能等を余儀なくされた場合には、かかる勤労者について、給与等の減収分及び必要かつ合理的な範囲の追加的費用が賠償すべき損害と認められる。
3 検査費用(物)
(指針)
 同指示等に基づき行われた検査に関し、農林漁業者その他の事業者が負担を余儀なくされた検査費用は、賠償すべき損害と認められる。

第6 その他の政府指示等に係る損害について
[対象]
 前記第3ないし第5に掲げられた政府指示等の他に、事業活動に関する制限又は検査について、政府が本件事故に関し行う指示等に伴う損害を対象とする。
[損害項目]
1 営業損害
(指針)
 Ⅰ)同指示等の対象事業者において、同指示等に伴い、当該指示等に係る行為の制限を余儀なくされる等、その事業に支障が生じたため、現実に減収が生じた場合には、その減収分が賠償すべき損害と認められる。
 Ⅱ)また、同指示等の対象事業者において、上記のように事業に支障が生じたために負担した追加的費用(商品の回収費用、保管費用、廃棄費用等)や、事業への支障を避けるため又は事業を変更したために生じた追加的費用(水道事業者による代替水の提供費用、除染費用、校庭・園庭における放射線量の低減費用等)も、必要かつ合理的な範囲で賠償すべき損害と認められる。
 Ⅲ)さらに、同指示等の解除後も、同指示等の対象事業者において、当該指示等に伴い事業に支障が生じたために減収があった場合には、その減収分も合理的な範囲で賠償すべき損害と認められる。また、同指示等の解除後に、事業の全部又は一部の再開のために生じた追加的費用も、必要かつ合理的な範囲で賠償すべき損害と認められる。
2 就労不能等に伴う損害
(指針)
 同指示等に伴い、同指示等の対象事業者の経営状態が悪化したため、そこで勤務していた勤労者が就労不能等を余儀なくされた場合には、かかる勤労者について、給与等の減収分及び必要かつ合理的な範囲の追加的費用が賠償すべき損害と認められる。
3 検査費用(物)
(指針)
 同指示等に基づき行われた検査に関し、同指示等の対象事業者が負担を余儀なくされた検査費用は、賠償すべき損害と認められる。

第7 いわゆる風評被害について
1 一般的基準
(指針)
 Ⅰ)いわゆる風評被害については確立した定義はないものの、この中間指針で「風評被害」とは、報道等により広く知らされた事実によって、商品又はサービスに関する放射性物質による汚染の危険性を懸念した消費者又は取引先により当該商品またはサービスの買い控え、取引停止等をされたために生じた被害を意味を意味するものとする。
 Ⅱ)「風評被害」についても、本件事故と相当因果関係のあるものであれば賠償の対象とする。その一般的な基準としては、消費者又は取引先が、商品又はサービスについて、本件事故による放射性物質による汚染の危険性を懸念し、敬遠したくなる心理が、平均的・一般的な人を基準として合理性を有している認められる場合とする。
Ⅲ)具体的にどのような「風評被害」が本件事故と相当因果関係のある損害と認められるかは、業種毎の特徴等を踏まえ、営業や品目の内容、地域、損害項目等により類型化した上で、次のように考えるものとする。
 ① 各業種毎に示す一定の範囲の類型については、本件事故以降に現実に生じた買い控え等による被害(Ⅳ)に相当する被害をいう。以下同じ。)は、原則として本件事故と相当因果関係のある損害として賠償の対象と認められる。
 ② ①以外の類型については、本件事故以降に現実に生じた買い控え等による被害を個別に検証し、Ⅱ)の一般的な基準に照らして、本件事故との相当因果関係を判断するものとする。
Ⅳ)損害項目としては、消費者又は取引先により商品又はサービスの買い控え、取引停止等をされたために生じた次のものとする。
 ① 営業損害
  取引数量の減少又は取引価格の低下による減収分及び必要かつ合理的な範囲の追加的費用(商品の返品費用、廃棄費用、除染費用等)
 ② 就労不能等に伴う損害
 ①の営業損害により、事業者の経営状態が悪化したため、そこで勤務していた勤労者が就労不能等を余儀なくされた場合の給与等の減収及び必要かつ合理的な範囲の追加的費用
 ③ 検査費用(物)
  取引先の要求等により実施を余儀なくされた検査に関する検査費用
 (備考)
   (略)
4)本件事故と他原因(例えば、東日本大震災自体による消費マインドの落ち込み等)との双方の影響が認められる場合には、本件事故と相当因果関係のある範囲で賠償すべき損害と認められる。
   (略)
2 農林漁業・食品産業の風評被害
(指針)
Ⅰ)以下に掲げる損害については、1Ⅲ)①の類型として、原則として賠償すべき損害と認められる。
① 農林漁業において、本件事故以降に現実に生じた買い控え等による被害のうち、次に掲げる産品に係るもの。
ⅰ)農林産物(茶及び畜産物を除き、食用に限る)については、福島、茨城、栃木、群馬、千葉及び埼玉の各県において産出されたもの。
ⅱ)茶については、ⅰ)の各県並びに神奈川及び静岡の各県において産出されたもの。
ⅲ)畜産物(食用に限る。)については、福島、茨城及び栃木の各県において産出されたもの。
ⅳ)水産物(食用に限る。)については、福島、茨城、栃木、群馬及び千葉の各県において産出されたもの。
ⅴ)花きについては、福島、茨城及び栃木の各県において産出されたもの。
ⅵ)その他の農林水産物については、福島県において産出されたもの。
ⅶ)ⅰ)ないしⅵ)の農林水産物を主な原材料とする加工品。
② 農業において、平成23年7月8日以降に現実に生じた買い控え等による被害のうち、少なくとも、北海道、青森、岩手、宮城、秋田、山形、福島、茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉、新潟、岐阜、静岡、三重、島根の各道県において産出された牛肉、牛肉を主な原材料とする加工品及び食用に供される牛に係るもの。
③ 農林水産物の加工業及び食品製造業において、本件事故以降に現実に生じた買い控え等による被害のうち、次に掲げる産品及び食品(以下「産品等」という。)に係るもの。
ⅰ)加工又は製造した事業者の主たる事務所又は工場が福島県に所在するもの。
ⅱ)主たる原材料が①のⅰ)ないしⅵ)の農林水産物又は②の牛肉であるもの。
ⅲ)摂取制限措置(乳幼児向けを含む。)が現に講じられている水を原料として使用する食品。
④ 農林水産物・食品の流通業(農林水産物の加工品の流通業を含む。以下同じ。)において、本件事故以降に現実に生じた買い控え等による被害のうち、①ないし③に掲げる産品等を継続的に取り扱っていた事業者が仕入れた当該産品等に係るもの。
Ⅱ)農林漁業、農林水産物の加工業及び食品製造業並びに農林水産物、食品の流通業において、Ⅰ)に掲げる買い控え等による被害を懸念し、事前に自ら出荷、操業、作付け、加工等の全部又は一部を断念したことによって生じた被害も、かかる判断がやむを得ないものと認められる場合には、原則として賠償すべき損害と認められる。
Ⅲ)農林漁業、農林水産物の加工業及び食品製造業、農林水産物・食品の流通業並びにその他の食品産業において、本件事故以降に取引先の要求等によって実施を余儀なくされた農林水産物(加工品を含む。)又は食品(加工又は製造の過程で使用する水を含む。)の検査に関する検査費用のうち、政府が本件事故に関し検査の指示等を行った都道府県において当該指示等の対象となった産品等と同種のものに係るときは、原則として賠償すべき損害と認められる。
Ⅳ)Ⅰ)ないしⅢ)に掲げる損害のほか、農林漁業、農林水産物の加工業及び食品製造業、農林水産物・食品の流通業並びにその他の食品産業において、本件事故以降に現実に生じた買い控え等による被害は、個々の事例又は類型毎に、取引価格及び取引数量の動向、具体的な買い控え等の発生状況等を検証し、当該産品等の特徴(生産・流通の実態を含む。)、その産地等の特徴(例えばその所在地及び本件事故発生地からの距離)、放射性物質の検査計画及び検査結果、政府等による出荷制限指示(県による出荷自粛要請を含む。以下同じ。)の内容、当該産品等の生産・製造に用いられる資材の汚染状況等を考慮して、消費者又は取引先が、当該産品等について、本件事故による放射性物質による汚染の危険性を懸念し、敬遠したくなる心理が、平均的・一般的な人を基準として合理性を有していると認められる場合には、本件事故との相当因果関係が認められ、賠償の対象となる。
3 観光業の風評被害
 (指針)
Ⅰ)観光業については、本件事故以降、全国的に減収傾向が見られるところ、本件事故以降、現実に称した被害のうち、少なくとも本件事故発生県である福島県のほか、茨城県、栃木県及び群馬県に営業の拠点がある観光業については、消費者等が本件事故及びその後の放射線物質の放出を理由に解約・予約控え等をする心理が、平均的・一般的な人を基準として合理性を有していると認められる蓋然性が高いことから、本件事故後に観光業に関する解約・予約控え等による減収等が生じていた事実が認められれば、1Ⅲ)①の類型として、原則として本件事故と相当因果関係のある損害と認められる。
Ⅱ)Ⅰ)に加えて、外国人観光客に関しては、我が国に営業の拠点がある観光業について、本件事故の前に予約が既に入っていた場合であって、少なくとも平成23年5月末までに通常の解約率を上回る解約が行われたことにより発生した減収等については、1Ⅲ)①の類型として、原則として本件事故と相当因果関係のある損害として認められる。
Ⅲ)但し、観光業における減収等については、東日本大震災による影響の蓋然性も相当程度認められるから、損害の有無の認定及び損害額の算定に当たってはその点についての検討も必要である。この検討に当たっては、例えば、本件事故による影響が比較少ない地域における観光業の解約・予約控え等の状況と比較するなどして、合理的な範囲で損害の有無及び損害額に推認をすることが考えられる。
4 製造業、サービス業等の風評被害
(指針)
Ⅰ)前記2及び3に掲げるもののほか、製造業、サービス業等において、本件事故以降に現実に生じた買い控え、取引停止等による被害のうち、以下に掲げる損害については、1Ⅲ)①の類型として、原則として本件事故との相当因果関係が認められる。
① 本件事故発生県である福島県に所在する拠点で製造、販売を行う物品又は提供するサービス等に関し、当該拠点において発生したもの
② サービス等を提供する事業者が来訪を拒否することによって発生した、本件事故発生県である福島県に所在する拠点における当該サービス等に係るもの
③放射性物質が検出された上下水処理等副次産物の取り扱いに関する政府による指導等につき、
ⅰ)指導等を受けた対象事業者が、当該副次産物の引き取りを忌避されたこと等によって発生したもの
ⅱ)当該副次産物を原材料として製品を製造していた事業者の当該製品に係るもの
④ 水の放射性物質検査の指導を行っている都県において、事業者が本件事故以降に取引先の要求等によって実施を余儀なくされた検査に係るもの(但し、水を製造の過程で使用するもののうち、食品添加物、医薬品、医療機器等、人の体内に取り入れられるなどすることから、消費者及び取引先が特に敏感に敬遠する傾向がある製品に関する検査費用に限る。)
Ⅱ)なお、海外に在住する外国人が来訪して提供する又は提供を受けるサービス等に関しては、我が国に存在する拠点において発生した被害(外国船舶が我が国の港湾への寄港又は福島県沖の航行を拒否したことによって、我が国の事業者に生じたものを含む。)のうち、本件事故の前に既に契約がなされた場合であって、少なくとも平成23年5月末までに解約が行われたこと(寄港又は航行が拒否されたことを含む。)により発生した減収分及び追加的費用については、1Ⅲ)①の類型として、原則として本件事故と相当因果関係のある損害として認められる。
Ⅲ)但し、Ⅰ)及びⅡ)の検討に当たっては、例えば、サービス等を提供する事業者の福島県への来訪を拒否することによって発生する損害については、東日本大震災による影響の蓋然性も相当程度認められるから、損害の有無の認定及び損害額の算定に当たってはその点についての検討も必要である。
5 輸出に係る風評被害
(指針)
Ⅰ)我が国の輸出品並びにその輸送に用いられる船舶及びコンテナ等について、本件事故以降に輸出先国の要求(同国政府の輸入規制及び同国の取引先からの要求を含む。)によって現実に生じた必要かつ合理的な範囲の検査費用(検査に伴い生じた除染、廃棄等の付随費用を含む。以下(備考)の3)において同じ。)や各種証明書発行費用等は、当面の間、1Ⅲ)①の類型として、原則として本件事故との相当因果関係が認められる。
Ⅱ)我が国の輸出品について、本件事故以降に輸出先国の輸入拒否(同国政府の輸入規制及び同国の取引先の輸入拒否を含む。)がされた時点において、既に当該輸出先国向けに輸出され又は生産・製造されたもの(生産・製造途中のものを含む。)に限り、当該輸入拒否によって現実に廃棄、転売又は生産・製造の断念を余儀なくされたため生じた減収分及び必要かつ合理的な範囲の追加的費用は、1Ⅲ)①の類型として、原則として本件事故との相当因果関係が認められる。

第8 いわゆる間接被害について
(指針)
Ⅰ)この中間指針で「間接被害」とは、本件事故により前記第3ないし第7で賠償の対象と認められる損害(以下「第一次被害」という。)が生じたことにより、第一次被害を受けた者(以下「第一次被害者」という。)と一定の経済的関係にあった第三者に生じた被害を意味するものとする。
Ⅱ)「間接被害」については、間接被害を受けた者(以下「間接被害者」という。)の事業等の性格上、第一次被害者との取引に代替性がない場合には、本件事故と相当因果関係のある損害と認められる。その具体的な類型としては、例えば次のようなものが挙げられる。
① 事業の性質上、販売先が地域的に限られている事業者の被害であって、販売先である第一次被害者の避難、事業休止等に伴って必然的に生じたもの。
② 事業の性質上、調達先が地域的に限られている事業者の被害であって、調達先である第一次被害者の避難、事業休止等に伴って必然的に生じたもの。
③ 原材料やサービスの性質上、その調達先が限られている事業者の被害であって、調達先である第一次被害者の避難、事業休止等に伴って必然的に生じたもの。
Ⅲ)損害項目としては、次のものとする。
①営業損害
 第一次被害が生じたために間接被害者において生じた減収分及び必要かつ合理的な範囲の追加的費用
② 就労不能等に伴う損害
 ①の営業損害により、事業者である間接被害者の経営が悪化したため、そこで勤務していた勤労者が就労不能等を余儀なくされた場合の給与等の減収分及び必要かつ合理的な範囲の追加的費用

第9 放射線被曝による損害について
(指針)
 本件事故の復旧作業等に従事した原子力発電所作業員、自衛官、消防隊員、警察官又は住民その他の者が、本件事故に係る放射線被曝による急性又は晩発性の放射線障害により、傷害を負い、治療を要する程度に健康状態が悪化し、疾病にかかり、あるいは死亡したことにより生じた逸失利益、治療費、薬代、精神的損害等は賠償すべき損害と認められる。

以 上

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