御器谷法律事務所

成果主義賃金

1. 問題の所在
 かつて日本の会社においてはいわゆる年功序列型賃金制度が採られていた時代があるとの指摘があります。
 しかし、企業における競争が激化し、又企業のグローバル化が進んでくると技術革新ともあいまって、このような年功序列型賃金体系では企業の機能が維持できない等の様々な弊害が生じ、これにあいまって成果主義型の賃金体系への移行が大きな問題となってきました。
 そして、年功序列型賃金体系から成果主義型賃金体系への移行は、就業規則ないし端的には給与規程の変更という形をもってあらわれ、その中で就業規則の不利益変更に関する様々な判例理論の適用の可否という問題をも生じてきました。
 就業規則の不利益変更については、その必要性と内容の合理性が厳しく吟味され、成果主義型賃金体系への移行にあっても、その移行についての経営上の高度の必要性やその変更内容の合理性、移行への経過措置の内容と期間等をめぐっていくつかの裁判例が出ています。
 以下では、従前の年功序列型の賃金制度を成果主義型賃金制度に変更した点が争われたいわゆるノイズ研究所事件の判決を概観してみます。

2. 判例の紹介
(1) 第1審−横浜地裁川崎支部 平成16年2月26日判決
 新賃金制度は合理性を欠き、給与規程の変更は無効としました。

(2) 第2審−東京高等裁判所 平成18年6月22日判決
 就業規則の変更に必要性と合理性ありとしました。その判旨概要は、次のとおりです。
 1) 就業規則の不利益変更に関する判例法理について
 新たな就業規則の作成又は変更によって労働者の既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは、原則として許されない。しかし、労働条件の集合的処理、特にその統一的かつ画一的な決定を建前とする就業規則の性質からいって、当該規則条項が合理的なものである限り、個々の労働者において、これに同意しないことを理由として、その適用を拒むことは許されない。そして、当該規則条項が合理的なものであるとは、当該就業規則の作成又は変更が、その必要性及び内容の両面からみて、それによって労働者が被ることになる不利益の程度を考慮しても、なお当該労使関係における当該条項の法的規範性を是認することができるだけの合理性を有するものであることをいい、特に、賃金、退職金など労働者にとって重要な権利、労働条件に関し実質的な不利益を及ぼす就業規則の作成又は変更については、当該条項が、そのような不利益を労働者に法的に受忍させることを許容することができるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のあるものである場合において、その効力を生ずるものというべきである。上記の合理関の有無は、具体的には、就業規則の変更によって労働者が被る不利益の程度、使用者側の変更の必要性の内容・程度、変更後の就業規則の内容自体の相当性、代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況、労働組合等との交渉の経緯、他の労働組合又は他の従業員の対応、同種事項に関する我が国社会における一般的状況等を総合考慮して判断すべきである。
 2) 本件給与規程等の変更の就業規則不利益変更該当性について
 新賃金制度は人事考課査定に基づく成果主義の特質を有するものであること、したがって、本件給与規程等の変更は、年功序列型の賃金制度を上記のとおり人事考課査定に基づく成果主義型の賃金制度に変更するものであり、新賃金制度の下では、従業員の従事する職務の格付けが旧賃金制度の下で支給されていた賃金額に対応する職務の格付けよりも低かった場合や、その後の人事考課査定の結果従業員が降格された場合には、旧賃金制度の下で支給されていた賃金額より顕著に減少した賃金額が支給されることとなる可能性があること、以上のとおり認めることができる。本件給与規程等の変更による本件賃金制度の変更は、上記の可能性が存在する点において、就業規則の不利益変更に当たるものというべきである。
 3) 本件賃金制度変更の合理性について
 以上によれば、本件給与規程等の変更による本件賃金制度の変更は、新賃金制度の下で従業員の従事する職務の格付けが旧賃金制度の下で支給されていた賃金額に対応する職務の格付けよりも低かった場合や、その後の人事考課査定の結果従業員が降格された場合に、旧賃金制度の下で支給されていた賃金額より賃金額が顕著に減少することとなる可能性があり、この点において不利益性があるが、控訴人は、主力商品の競争が激化した経営状況の中で、従業員の労働生産性を高めて競争力を強化する高度の必要性があったのであり、新賃金制度は、控訴人にとって重要な職務により有能な人材を投入するために、従業員に対して従事する職務の重要性の程度に応じた処遇を行うこととするものであり、従業員に対して支給する賃金原資総額を減少させるものではなく、賃金原資の配分の仕方をより合理的なものに改めようとするものであって、新賃金制度は、個々の従業員の賃金額を、当該従業員に与えられる職務の内容と当該従業員の業績、能力の評価に基づいて決定する格付けとによって決定するものであり、どの従業員にも自己研鑽による職務遂行能力等の向上により昇格し、昇給することができるという平等な機会を保障しており、かつ、人事評価制度についても最低限度必要とされる程度の合理性を肯定し得るものであることからすれば、上記の必要性に見合ったものとして相当であり、控訴人があらかじめ従業員に変更内容の概要を通知して周知に努め、一部の従業員の所属する労働組合との団体交渉を通じて、労使間の合意により円滑に賃金制度の変更を行おうと努めていたという労使の交渉の経過や、それなりの緩和措置としての意義を有する経過措置が採られたことなど前記認定に係る諸事情を総合考慮するならば、上記のとおり不利益性があり、現実に採られた経過措置が2年間に限って賃金減額分の一部を補てんするにとどまるものであっていささか性急で柔軟性に欠ける嫌いがないとはいえない点を考慮しても、なお、上記の不利益性を法的に受忍させることもやむを得ない程度の、高度の必要性に基づいた合理的な内容のものであるといわざるを得ない。
 したがって、本件給与規程等の変更は、被控訴人らに対しても効力を生ずるものというべきである。

(3) 第3審−最高裁判所 平成20年3月28日判決
 成果主義への変更を合理的と判断。

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