御器谷法律事務所

買収防衛策

1. 買収防衛策とは、
 経営陣の意向に反して会社が買収されることを防ぐ措置のことをいいます。
 買収防衛策は大きく分けて、会社の経営権に関して現に争いがある場合の防衛策(有事の買収防衛策)と、未だ経営権に争いが生じていない場合の防衛策(平時の買収防衛策)に分かれます。
 平時の買収防衛策の代表的なものが、事前警告型防衛策と呼ばれるものです。これは、例えば、20%以上の株式を取得する場合には、買収の意図、具体的な経営方針等を示すとともに、かかる買収者の提案を検討するため一定期間、株式の買い付けを猶予すること等を定め公表します。そして、これらの規定を遵守しない場合には具体的な防衛策を発動する、というものです。
 具体的な防衛策の発動としては、例えば、株主に新株予約権を与え、買収者には新株予約権の行使を認めない一方、それ以外の株主には安い価格で予約権行使を認める方法があります。これにより、買収者の持ち株比率を低下させ、買収の実現を困難にさせます。

2. 手続き
 事前警告型買収防衛策を採った場合、実際どういう手順で対抗措置を発動するかもバリエーションがあります。一つは、株主総会を開いて、株主の賛成を得て、対抗措置を発動する場合があります。株主総会で、3分の2以上の特別多数で議決されれば、株主の意向を強く反映した措置となり、より効果的です。他方、取締役会で発動を決定するやり方もあります。この場合、株主の意向を踏まえなかったり、株主の利益を無視した対抗措置の発動にならないようにする必要があります。そのため、経営陣から独立した委員会を設けて、その委員会の判断を仰ぐといった公正な決定を担保する手続きを採る場合が多く、またそれが必要でしょう。

3. 実務の動きと問題点等
 近年、敵対的買収とその防衛策をめぐる争いが話題になることが多くなりました。金融取引の自由化に伴う投資ファンドの成長、株式持合いの解消化(友好的な者同士で株を互いに多く持ち合っていれば、敵対的な買収は困難です)、敵対的買収に関する経験に乏しいこと、といった背景が考えられます。
 敵対的買収は大きな視点で見ると、企業統治(コーポレートガバナンスとしばしば呼ばれます)メカニズムの一つです。ですから、企業が良くなっていく敵対的買収(良い敵対的買収)も当然あります。一方で、濫用的な、いわば会社を食い物にするような悪い敵対的買収もあります。後者を防止することは、むろん有益ですが、いきすぎて逆に前者までもストップさせてしまうことは、有益ではありません。しかし、では誰がどのような理由で、良い悪いを判断するのか、これが一つ大切な問題となってきます。
 こうした状況下、経済産業省と法務省は平成17年5月に「企業価値・株主共同の利益の確保又は向上のための買収防衛策に関する指針」を発表しました。指針は、買収防衛策について、(1)企業価値・株主共同の利益の確保・向上の原則、(2)事前開示・株主意思の原則、(3)必要性・相当性の原則という3つの原則に従わなければならないとしています。この指針は買収防衛策の是非についての一つの方向性を示したものといえます。

4. 判例
(1)ニレコ事件(東京高裁平成17年6月15日決定)
 これは、平時の買収防衛策が争われた事件です。上記の事前警告型防衛策ではなく、新株予約権という手段を用いた事前防衛策が争われました。そして、原審の東京地裁及び東京高裁は、当該防衛策を認めませんでした。その理由は、買収とは無関係の買収対象会社の株主に不測の損害を与えるものだったからです。原審東京地裁は、平時の買収防衛策として取締役会決議での新株予約権の発行について、「(1)‥‥株主総会の意思が反映される仕組みとなっていること、(2)新株予約権の行使条件の成就‥‥に関する取締役会の恣意的判断が防止される仕組みとなっていること、(3)新株予約権の発行が、買収とは無関係の株主に不測の損害を与えるものではないことなどの点から判断して、事前の対抗策として相当な方法によるものであることが必要」と判示しました。

(2)日本技開事件(東京地裁平成17年7月29日決定)
 これは、株式分割という形での、有事の買収防衛策の是非が争われた事件です。裁判所は、「本件株式分割は、本件公開買付けが成功した場合にその効果の発生を‥‥引き延ばす効果を有するものの、法的には本件公開買付けの目的の達成を妨げるものではない。また、本件株式分割は、通常の株式分割と異なるものではないから、既存株主の権利の実質的変動をもたらすものではないというほかない。」と判示し、当該買収防衛策を認めました。
 裁判所が買収対象会社の取締役会の決定に濫用性はないという判断をしたことになります。

(3)ニッポン放送事件(東京高裁平成17年3月23日決定)
 フジテレビ対ライブドアの対立構図で、社会的事件としても有名になったものです。新株予約権の発行という形での、有事の買収防衛策の是非が争われました。裁判所は当該買収防衛策を認めませんでした。理由は、経営支配権を握っている特定の株主の(この事例ではフジテレビにあたります)、その支配権維持のための防衛措置にすぎないと裁判所が認定したためです。
 その一方で裁判所は、「経営支配権の維持・確保を主要な目的とする新株予約権発行が許されないのは、取締役は会社の所有者たる株主の信任に基礎を置くものであるから、株主全体の利益の保護という観点から新株予約権の発行を正当化する特段の事情がある場合には、例外的に、経営支配権の維持・確保を主要な目的とする発行も不公正発行に該当しない」と判示しました。その上で、「例えば‥‥(1)真に会社経営に参加する意思がないにもかかわらず、ただ株価をつり上げて高値で株式を会社関係者に引き取らせる目的で株式の買収を行っている場合(いわゆるグリーンメイラーである場合)、(2)会社経営を一時的に支配して‥‥知的財産権、ノウハウ、企業秘密情報、主要取引先や顧客等を当該買収者‥‥に移譲させるなど、いわゆる焦土化経営を行う目的で株式の買収を行っている場合、(3)会社経営を支配した後に、当該会社の資産を当該買収者‥‥の債務の担保や弁済原資として流用する予定で株式の買収を行っている場合、(4)会社経営を一時的に支配して当該会社の事業に当面関係していない不動産、有価証券など高額資産等を売却等処分させ‥‥一時的な高配当をさせる‥‥目的で株式買収を行っている場合など、当該会社を食い物にしようとしている場合には、濫用目的をもって株式を取得した当該敵対的買収者は株主として保護に値しない」として4つの例外的ケースを例示しています。

(4)ブルドック・ソース事件(最高裁平成19年8月7日決定)
 これも新株予約権発行という形での、有事の買収防衛策が争われた事件です。また、最高裁が初めて買収防衛策についての判断を示した事件でもあります。
 最高裁は、特定の株主による株式公開買付けに対抗し、当該株主の持株比率を低下させる新株予約権発行が、株主平等の原則に反しないかについて下記のように判断しました。「株主平等の原則は、個々の株主の利益を保護するため、会社に対し、株主をその有する株式の内容及び数に応じて平等に取り扱うことを義務付けるものであるが、個々の株主の利益は、一般的には、会社の存立、発展なしには考えられないものであるから、特定の株主による経営支配権の取得に伴い‥‥会社の企業価値がき損され、会社の利益ひいては株主の共同の利益が害されることになるような場合には、その防止のために当該株主を差別的に取り扱ったとしても、当該取扱いが衡平の理念に反し、相当性を欠くものでない限り、これを直ちに同原則の趣旨に反するものということはできない。そして‥‥会社の企業価値がき損され、会社の利益ひいては株主の共同の利益が害されることになるか否かについては、最終的には、会社の利益の帰属主体である株主自身により判断され‥‥当該判断が尊重されるべきである」。
 その上で最高裁は、本件の新株予約権発行は、株主平等原則に反せず、また、著しく不公正な方法によるものでもないとして買収防衛策を有効と認めました。
 また本件は、原審の東京高裁が「抗告人関係者は、相手方の全株式を取得するといいつつ本来協働し合うべき企業の経営面を顧慮せず、いたずらに相手方に不安を与えている。‥‥本件公開買付け等は‥‥不当なものであり、これを行う抗告人関係者は本件については濫用的買収者である」と判断し注目を集めました。最高裁は、「抗告人関係者が原審のいう濫用的買収者に当たるといえるか否かにかかわらず‥‥本件新株予約権無償割当は‥‥法令等に違反しないというべきである」と述べ、濫用的買収者か否かの判断はしませんでした。こうした最高裁の判断に対する評価も含め、今後も買収防衛策に対する司法判断が注目されていくことと思われます。

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