御器谷法律事務所

出版社社長の責任

1. 問題の所在
 報道機関による名誉毀損の場合、その報道機関ないし出版社の社長にも損害賠償責任があるか否かが問題となることがあります。
 この場合、旧商法第266条の3(会社法第429条)に基づく、取締役の対第三者責任を根拠とした裁判例があります。
 会社法第429条第1項は、「役員等がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、当該役員等は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う」と規定しています。

2. 肯定例−貴乃花夫妻対週刊新潮の事件
 東京地方裁判所 平成21年2月4日判決
 株式会社であろうと、出版を業とする企業は、出版物による名誉毀損等の権利侵害行為を可及的に防止する効果のある仕組、体制を作っておくべきものであり、株式会社においては、代表取締役が、業務の統括責任者として、社内に上記仕組、体制を構築すべき任務を負うといわなければならない。
 すなわち、出版業を営む株式会社の代表取締役は、第一に、記事の執筆に関与する従業員に対し、名誉毀損等の違法行為の要件やそのあてはめ等に関する正確な法的知識、名誉毀損等の違法行為を惹起しないための意識と仕事上の方法論とを身につけさせておかなければならないというべきである。そのための方策として、例えば、弁護士等の法律家による講義や事例研究等による研修、更には、出版物に記載しようとする事実についての真実性確認の方法としての取材のあり方、裏付取材のあり方等についての研修を行うなどの方法により、従業員をして、名誉毀損等の権利侵害行為の違法性について十分な認識をもたせるとともに、名誉毀損等の権利侵害行為を惹起しない取材、執筆、編集活動を行う意識を啓発し、慎重な取材、取材結果の検討、裏付調査、執筆、編集を自ら行うことができるだけの法的知識、事実の有無と根拠についての判断能力、慎重に記事を作成する姿勢をもたせることが考えられる。また、第二に、出版物を公刊する前の段階で、相応の法的知識、客観的判断力等を有する者に、記事内容に名誉毀損等の違法性がないかをチェックさせる仕組を社内に作り、権利侵害行為を惹起する記事がそのまま発行されて不特定多数人に流布されることを防止する仕組、体制を整えることが考えられる。さらに、第三に、出版物を公刊した後の段階で、客観的な意見を提示し得る第三者視点をもった者によって構成される委員会等を置いて、記事内容に名誉毀損等の違法性がなかったかを点検させ、記者や編集責任者等、直接取材に関わる者との間で、協議し、討論させるなどして、既に発行した出版物中の記事の適否を検討、協議し、名誉毀損等の権利侵害行為に該当する記事がある場合には、その原因を探求し、同様の権利侵害行為が再び惹起されることを防止するため、法的知識を確認したり、原因となった取材方法の欠陥を是正する方策を研究、考案するなどの方法が考えられる。これらの仕組、体制の整備は、個々の出版企業の実情に応じて具体的に検討されるべき事柄であるが、いずれにしても、出版を業とする株式会社の代表取締役は、出版物による名誉毀損等の権利侵害行為を可及的に防止するために有効な対策を講じておく責任があるというべきであり、殊に、週刊誌を発行する出版社にあっては、しばしば名誉毀損が問題とされることがあるから、上記対策は、代表取締役として必須の任務であるというべく、いやしくもジャーナリストを称する以上、当該企業が、専ら営利に走り、自ら権利侵害行為を行ったり、権利侵害行為を容認することがあってはならないことは明らかである。
 本件各記事については、十分な裏付取材が行われておらず、一方において、Cは、自らを情報提供者と位置づけ、編集部が裏付取材をするとして自らは十分な取材をせずに情報を提供し、他方において、編集部では、Cからの情報なので正しいと安易に判断して、記事としたものと認められ、原告らの名誉を毀損する本件各記事が週刊新潮に掲載され、発行されるに至ったのは、雑誌記事の執筆、編集を担当する記者、編集者等の名誉毀損に関する法的知識や裏付取材のあり方についての意識が不十分であったこと、また、社内における権利侵害防止のための慎重な検討が不足していたことが原因であるというべきであり、このような結果を惹起したのは、被告会社内部に、これを防止すべき有効な対策がとられていなかったことに原因があるといわざるを得ない。そうすると、被告Aには、前記任務を少なくとも重大な過失により懈怠したものとして、旧商法266条ノ3第1項に基づく責任があると解するのが相当である。

3. 否定例−貴乃花夫妻対フライデーの事件
 東京地方裁判所 平成21年3月13日判決
 講談社社長への請求は棄却

4. 肯定例−貴乃花夫妻対週刊現代の事件
 東京地方裁判所平成21年7月13日判決
 講談社社長への請求を認容−名誉棄損を防止すべき体制の不備を認める

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