御器谷法律事務所

脱税の刑事責任

1.脱税とは(所得税や法人税の場合)
 一般的には、納税義務者又は徴収納付義務者が、偽りその他不正の行為により、所得税ないし法人税を免れ又はその還付を受けること、を意味します(所得税法第238条、法人税法第159条)。
 そして、これに対する刑罰は、10年以下の懲役もしくは1,000万円以下(情状で免れた税額以下にスライド)の罰金、又はその併科とされています(同上条)。
 ここでは、所得税や法人税の逋(ほ)脱犯について、その概要を述べてみます。
 なお、「()脱犯」とは、脱税犯の一種で、その用語は現行税法上のものではなく、裁判実務等における慣用的な用法とされています。
 また、脱税の犯行態様としては、売上の除外と、架空経費の計上とが、典型的な手口とされています。
 業種的には、パチンコや水商売、風俗関係等において脱税が多く指摘されたこともありました。
 
2. 脱税犯の構成要件
(1)主体−納税義務者
 この点については、単なる名義人でなく、実質的に収益が帰属するものを税法の適用対象とする実質所得者課税の原則を採用しています(所得税法第12条、法人税法第11条)。
(2)「偽りその他不正の行為」
 この点については、判例は、「物品税の逋脱罪の構成要件である詐欺その他不正の行為とは、ほ脱の意図をもって、その手段として税の賦課徴収を不能もしくは著しく困難ならしめるようななんらかの偽計その他の工作を行うこと」としています(最判昭和42年11月8日)。
(3)「税を免れ」、「税の還付を受けた」−ほ脱の結果の発生
 この点については、法律に基づく正当な税額の確定を妨げたことが問題とされます。
 また、本罪の既遂の時期については、法定の納期限を経過することにより直ちに成立する納期税を判例、通説は採っています。
(4)不正行為とほ脱との因果関係
(5)故意
 脱税犯は故意犯なので、その犯罪の成立には故意が必要とされます。
 そして、その故意の内容は、脱税犯の上記構成要件に該当する全部の事実の認識を要するものとされています。
 具体的には、次の認識を要します。
1) 納税義務の存在の認識
所得があり、これについて納税する義務があるという事実を認識することが必要です。
2) 偽りその他不正の行為の認識
自己の行為が偽りその他不正の行為であることを認識することが必要です。
3) ほ脱の結果についての認識
所得が存在するにも拘わらず、これに対する正当な税額の全部又は一部の「税を免れ」る結果となることの認識が必要です。
 なお、ほ脱した所得の認識については、その項目や科目についての個別的な認識(個別的認識説)までは必要ではなく、おおよその所得についての概括的な認識があれば足りる(概括的認識説)とするものが判例及び学説の傾向とされています。

(6)ほ脱所得、及び、ほ脱税額
 この点については、上記個別的認識説では本罪の構成要件とされ、又、概括的認識説では量刑の問題としてとらえられています。
 いずれにしても、このほ脱所得及びほ脱税額は、実務上重要な事項となり、起訴状や冒頭陳述書においても所得金額と税額につき、各年度毎に、各々実際額・申告額・ほ脱額を記載しています。
 
3. 脱税と刑事実務
(1)告発、起訴の目安
 脱税額で1億円〜2億円を越えるか否かが一つの目安とされているようにも思われますが、事案によっては数千万円の脱税額でも告発、起訴されている例もあります。
(2)量刑事情
 脱税事件で刑事上考慮される量刑の事情としては、次の各要素が指摘されています。
1) ほ脱税額−これが一番大事な要素でしょう。ほ脱された所得税ないし法人税の額が問題となります。
2) ほ脱率−これは、(ほ脱税額÷実際税額)×100として%で表されます。
3) ほ脱の手段、方法−その悪質性、共犯の有無、組織性、脱税プロの関与等
4) ほ脱の動機
5) ほ脱した資金の使途
6) ほ脱所得の取得原因
7) 罪証隠滅工作の有無、及び、その方法
8) 修正申告、納税状況−ほ脱税額の納付がなければ実刑判決が出る可能性が高くなります。
9) 経理体制の改善
10) 同種の前科、前歴−同種の前科があれば実刑判決が出る可能性が高くなります。
 (上記1)〜10)の量刑事情の各項目は、法曹会発行「特殊刑事事件の基礎知識−税法事件編」88頁より引用しています。なお、同ハイフン以下のコメントは引用外です。)

(3)逮捕、実刑の目安
 検察官による強制捜査や実刑判決の目安は、ほ脱税額で3億円位と言われることもありますが、事案により異なる例も見受けられます。
 特に、否認事件やほ脱額を納付していない事例では、強制捜査や実刑判決の可能性が高くなるとも指摘されています。
(4)保釈の運用
 この点については、一般的には大変厳しい運用がなされているとの指摘があります。
 具体的には、たとえ保釈が仮に認められるにしても、それは第1回公判期日における罪状認否において起訴状の公訴事実を認め、さらに検察官が提出する証拠書類につき全部同意することが前提とされている例を見受けます。
(5)罰金の目安
 所得税法違反では懲役刑と罰金刑が併科され、又、法人税法違反では代表者等に懲役刑が、法人には罰金が科されることがあります。
 また、罰金刑については、ほ脱税額へのスライド条項との関係もあり、一概には言えませんが、罰金としてはほ脱税額の20〜30%が一つの目安という指摘もあります。
(6)重加算税
 脱税の刑事責任ではありませんが、過少申告加算税や無申告加算税等が課される場合に、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺい、仮装したときは、過少申告の場合は基礎となるべき税額の35%、無申告加算の場合は40%に相当する重加算税を行政処分として課されます(国税通則法第68条)。

 この脱税の刑事責任につきましても、遠慮なく当事務所にご相談下さい

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