御器谷法律事務所

アスベスト


1. アスベスト(asbestos)とは、
 日本では石綿(「せきめん」又は「いしわた」と呼ぶ)と言われています。
 アスベストは、角閃岩(かくせんがん)や蛇紋岩(じゃもんがん)から成る天然性の繊維状の鉱物です。その性質として耐火性や耐熱性に優れ、かつて広く建築用の断熱材や補強材等に使われていました。

2. アスベストの危険性
(1)  石綿は、これを吸い込むと肺に吸入され排出されにくく長期間の吸引により、じん肺や中皮腫(ちゅうひしゅ)、肺ガン等の原因となると指摘されています。しかもこれらの病気の発現は、吸引後30年〜50年位後のことがあります。
 じん肺症とは、石綿等の粉じんを吸い込み、これが肺の中に入り排出されず、肺胞に沈着し綿維化等の生体反応がおこる病気とされています。せき、息切れ、たんが顕著となり、時として肺結核症と合併することもあると指摘されています。アスベスト工場や鉱山の労働者における職業病とされています。
 中皮腫は、「胸膜中皮腫」(きょうまくちゅうひしゅ)とも言われ、胸膜に発生する腫瘍(ガン)とされています。アスベストを扱う労働者がこの中皮腫に罹患しやすいと言われています。胸水と胸膜の肥厚が特徴であり、せきや胸の痛みや呼吸困難が発現します。
(2)  このようなアスベストの危険性から、日本では平成7年に有害性が特に高いといわれている青石綿と茶石綿が製造及び使用が禁止され、さらに平成16年には白石綿も原則としてその製造と使用が禁止されました。
 但し、平成17年現在、石油プラントや原子力発電等の一部でシール材として使われているとの事実もあり、近い将来全面的禁止とされる、との報道があります。

3. アスベスト被害の法律上の問題点
(1) 労災として
アスベスト工場で働いていた労働者につきじん肺や中皮腫が発生した場合、労災事故として企業の安全配慮義務違反が問題となった事例があります。
1) 長野地方裁判所昭和61年6月27日判決(要旨の一部)
(長野石綿じん肺訴訟)
(一) 被告Yは、発じんの防止、粉じんの飛散抑制のための措置として、
(1) 原材料に石綿糸の製造工程で出る落綿を再生原料として使用することを止めるべきであったのにこれを怠たり、
(2) 混綿作業について、1)攪拌機と半毛機を連絡、密閉すべきであったのに昭和四五年ころまでこれを怠たり、2)混綿機から梳綿機へ材料を移し入れる機械装置を設置すべきであったのに昭和五一年ころまでこれを怠たり、
(3) 発生した粉じんが滞留することのないよう可能な限り局所排気装置等除じん設備を備えるべきであったのに、同被告設立のころは全く右のような除じん設備を設けず、昭和三六年六月ころから始る旧工場時代には一応除じん機が備えられていたが有効なものではなく、昭和四二年ころから次第に除じん設備を備えていったが、昭和四六年ころまではなお浮遊粉じん量が旧特化則による規制値を上回る有害な状態にあって十分といえるものでなく、右設置義務を怠り、
(4) ビニールの囲い等により発生源となる設備の密閉、隔離をはかるべきであったのに、
1) 混綿作業について、昭和四八年ころまでは材料の投入口や材料を運ぶベルトコンベアーの回りにビニールの囲いを設置せず、
2) 梳綿作業について、昭和四七年ころまで機械を覆うビニールの囲いを設置せず、
3) 精紡作業について、昭和四六年ころまで機械下部にプラスチック及びビニール製カバーを設置せず、
4) 粉ふるい作業について、昭和四七、四八年ころまで機械にビニールの囲いを設置せず、前記設置義務を怠り、
(5) 二次粉じん発散を防止すべく、床に散水し、また電気掃除機を用いて掃除すべきであったのに、昭和四八年ころまでこれを怠たり、
(6) 研磨作業について、注水する等作業方法に工夫を加えるべきであったのに、これを怠った。

(二) 同被告は、粉じん曝露の程度を軽減するための措置として作業時間の短縮等作業強度を軽減すべきであったのに、かえって、設立当初から恒常的に女子の法定時間外労働、有害業務についての法定時間外労働などの法定の制限を超えた違法な時間外労働を実施し、しかも取締を免れる目的で賃金台帳につき二重帳簿を作成し、これを怠った。

(三) 同被告は、粉じん吸入防止のための措置として、従業員に検定合格品の防じんマスクを支給し、作業の際これを着用するよう指導監督するとともに、従業員が防じんマスクを着用したがらないのは、右着用が長時間に及ぶと息苦しさに耐えられなくなったり作業能率が低下することにあったのであるから、単位作業時間の短縮や休憩時間の配分の工夫などの労働強度軽減の措置をすべきであったのに、同被告設立のころは防じんマスクの支給自体がなく、昭和三八年ころから昭和四一年にかけてのマスク支給は全員一律でなく、しかも粉じん吸入防止機能の劣る非検定品であり、その後昭和四四年四月、五月に至りようやく従業員数に見合う検定合格品の防じんマスクが備付けられたものの、種類の選定が必ずしも適切でなく、ために、一部従業員に不着用がみられたのに実効性のある着用指導をなさず、前記義務を怠った。

(四) 同被告は、じん肺発症の早期発見、早期治療のための措置として定期的にじん肺健康診断と実施するとともにじん肺所見の認められた者に結果を通知し、粉じん作業職場から離脱させるべきであったのに、
1) 原告Xが、昭和四七年一一月一日付でじん肺管理区分管理二と決定されたにもかかわらず、同原告に対する決定の通知を行わず、同原告に、じん肺罹患が判明した昭和五〇年一一月まで粉じん作業からの離脱、じん肺治療の機会を失わせ、- - - これを怠った。

(五) 同被告は、従業員自身によるじん肺罹患の防止や健康管理を図るための措置としてじん肺についての医学的知見、予防方法等について教育及び指導を実施すべきであったのに、設立以来これらを一切行わず、怠った。

三 因果関係
 被告Yの右二の安全配慮義務の不履行により原告ら元従業員がじん肺に罹患し、更には死亡又は重篤な症状に陥ったか否かについて検討するに、前記第三の三のとおり、原告ら元従業員はいずれも同被告における粉じん作業によって石綿粉じんに曝露しこれを吸入してじん肺に罹患し、更には死亡又は重篤な症状に陥ったことが明らかであり、これに右二の安全配慮義務違反の態様、前記第三の二の原告ら元従業員の同被告における作業歴並びにじん肺罹患の経過及び症状をあわせ考えれば、原告ら元従業員の在職期間、作業内容等の違いにより、同人らそれぞれに対する安全配慮義務違反の態様、程度は一律ではないが、同被告の前記安全配慮義務違反と、原告ら元従業員がじん肺に罹患し、死亡又は重篤な症状に陥ったとの結果との間に相当因果関係のあることは明らかである。

四 有責性
 被告Yは、当時のじん肺に関する知見とその対策の普及の程度等を理由に原告ら元従業員がじん肺に罹患することを予見しえなかったから、同被告の責に帰すべき事由はないと主張する。
 しかしながら、前記第二に認定の原告ら元従業員が従事した作業の性質、前記第四の二に認定の同被告の安全配慮義務違反の態様、程度、前記第三の一に認定の、じん肺問題の沿革、特にじん肺防止に関する立法の経過等、更には後記第六の二に認定の同被告がじん肺法の施行に際して労働基準局による関係法令の趣旨及び内容についての集団指導を受けたとの事実に照らして、同被告が原告ら元従業員のじん肺の罹患及び死亡又は重篤な症状の結果の発生を予見することは優に可能であったというべきであり、じん肺に関する知見とその対策の普及の程度等を理由とする同被告の有責性不存在の抗弁は採用しえない。

2) 横浜地方裁判所横須賀支部平成14年10月7日判決(要旨の一部)
(アメリカ軍横須賀基地じん肺訴訟)
 米軍においては、石綿肺に関する知見が確立する前後からすでに種々の指令(指令(1)ないし(15))が出されていたにもかかわらず、その指令の運用場面においては、実際には散水・噴霧の指導監督義務違反、通気システム設置義務違反、保護具等の整備義務違反、混在作業禁止措置及び粉じん作業の密閉隔離化義務違反、従業員に対するじん肺教育義務違反、健康診断等の実施義務違反で検討したような石綿対策の不充分さが認められるのであるから、米軍は、これらの点について安全配慮義務を充分に尽くしていなかったものと認められる。

(2) 労災以外の不法行為として
 アスベストを製造ないし使用していた企業の近隣住民や出入りの業者、さらには従業員の家族にまで石綿被害が及んでいるとの報道があります。
 この点企業の法的責任を問いうるためには、石綿の製造ないし使用の事実及びその方法や期間、被害の事実、損害の発生、因果関係の立証、企業の安全配慮義務違反(予見可能性、結果回避可能性)等の主張及び立証が必要とされると考えますが、石綿の被害が発生するまでの潜伏期間が30年〜50年もかかることがあり、又、石綿の使用量やその濃度等の客観的データに乏しい場合には、被害の救済には困難が予想されることもあるでしょう。

 このアスベストにつきましても、遠慮なく当事務所にご相談下さい

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