御器谷法律事務所

独禁法−損害賠償請求


 独占禁止法に違反する行為によって被害を被った被害者は、その加害者に対して、次の方法により損害賠償請求をすることができる場合があります。

1. 独占禁止法§25による
(1) 事業者や事業者団体が私的独占、カルテル(不当な取引制限)、不公正な取引方法、法§6違反の国際的協定等をし、これによって被害者に損害を被らせたときは、被害者はその損害を賠償する請求をすることができます(法§25・(1))。
(2) 無過失責任とされています(法§25・(2))。
(3) この損害賠償請求は、排除措置命令や課徴金納付命令又は違法宣言審決(法第66条4項)の確定した後でなければ、提起できないとされています。(法§26)。
(4) 第一審は東京高等裁判所(法§85)。
(5) 公正取引委員会に対する損害額についての任意的求意見(法§84)。但し、裁判所を拘束せず。
(6) 2003年夏現在、法§25に基づく請求は10数件にすぎないとの指摘あり。しかも最終的勝訴は殆どないとの指摘あり。
(7) 実例
 1)松下電器再販事件:東京高等裁判所昭和52年9月19日判決
   消費者に原告適格を認めるも、損害論で成立を否定。
 2)東京灯油事件最高裁判決:最高裁昭和62年7月2日判決
  鶴岡灯油事件最高裁判決:最高裁平成元年12月8日判決
   損害論等で請求を否定。

2. 民法§709による
(1) 被害者が、事業者ないし事業者団体の独占禁止法違反行為、故意又は過失、権利侵害ないし違法性、損害、因果関係の主張・立証をする必要あり。
(2) 被害者は、独占禁止法§25と民法§709のいずれを請求することも可。但し、民法§709による請求の方が多い。
2003年夏現在、民法§709による訴訟は60件前後との指摘あり。うち20件前後が地方自治体の入札談合にかかわる住民訴訟としての損害賠償請求訴訟。
民法§709による訴訟のうち数件勝訴判決ありとの指摘あり。
(3) 損害額の算定に関する諸説(アメリカ反トラスト法を参考)
 前後理論、物差理論、市場占拠率理論、回帰分析手法につき、ケースごとに合理性の高い理論を選択へ。
(4) 裁判所における損害額の裁量的認定を求める(民事訴訟法§248)。
 奈良県入札談合住民代位損害賠償請求訴訟:大阪高等裁判所平成13年3月8日判決は、損害を契約価格の5パーセントと認定。
(5) 実例
 1)東芝エレベーター事件:大阪高等裁判所平成5年7月30日判決
  抱き合わせ等の不公正な取引方法を認めた、民法§709に基づく勝訴判決。
 2)日本遊戯銃協同組合事件:東京地方裁判所平成9年4月9日判決
  (エアーソフトガン事件)
  共同の取引拒絶を認め、民法§709の不法行為責任を認定。

3. 住民訴訟
(1) 地方自治体の入札談合の際、住民が自治体に代位して損害賠償請求訴訟を提起するもの。
(2) 平成14年の地方自治法の改正後は地方自治体自身が損害賠償を請求してゆくこととなる筈。
 今迄も、東京都、大阪市、大阪府、京都市、アメリカ政府、社会保険庁等が請求していた。
(3) 実例
 奈良県入札談合住民代位損害賠償請求訴訟:大阪高等裁判所平成13年3月8日判決

4. 株主代表訴訟
(1) 6ヶ月前より株式を有する株主は、法令違反等をした取締役の責任を追及するために会社に代って、その取締役に対して会社が被った損害の賠償を請求する訴訟を提起することができます(会社法§847〜、他に要件あり)。これを「株主代表訴訟」と呼んでいます。
(2) 会社が独占禁止法違反を行いこれに取締役が責任があるときは、会社の株主はその責任ある取締役に対して株主代表訴訟を提起することがあります。
(3) 実例
 1)野村證券事件:最高裁判所平成12年7月7日判決
  証券会社の顧客への損失補填につき取締役の過失を否定し、株主代表訴訟による損害賠償請求を否定。
 2)入札談合事件に対する株主代表訴訟
  入札談合が犯罪行為となる場合にはこれに関与した取締役の責任は認められるが、直接関与していない取締役の責任を認めうるか否かは問題があるところ。監督責任の有無等も問題となるものと思われます。

5. 判決、審判例

松下電器産業事件−東京高裁 昭和52年9月19日判決

 「不公正な取引方法によって商品の小売価格が不当に高額に維持された場合に、その維持された価格でその商品を買受けた消費者は、不公正な取引方法が用いられなければ自由かつ公正な競争によって形成されたであろう適正価格との差額につき損害を被った者であり、この損害を目して、不公正な取引方法による事実上の反射的な損害に過ぎないということはできない。独禁法25条の規定により、不公正な取引方法を用いた事業者が損害賠償の責に任ずべき被害者には、右の場合の消費者を含むものと解すべきであ」る。
 「公正取引委員会の事実認定を尊重すべきものとされていることにかんがみると、確定審決の存在が立証されれば、そこに認定された独禁法違反行為の存在を事実上推定することができるというべきである」
 原告らは、購入価格のうちの「いくばくの部分が右不当に高く維持された部分に当るのかを明らかにしなければならず、その前提として、代理店が、被告から拘束条件を付せられることなく仕入れ、公正かつ自由な競争によって形成される卸価格で小売店に販売し、ついで小売店が代理店から拘束を受けることなく、公正かつ自由な競争の下に、適正な収益を加えて一般消費者に販売する場合に、その小売価格がいくばくとなるかを明らかにする必要がある。・・・結局原告ら主張の各損害の点につきこれを認むべき証拠がないことに帰する。」

日本石油ほか事件
−最高裁 昭和62年7月2日第一小法定判決
−最高裁 平成元年12月8日第二小法廷判決
「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。)の定める審判制度は、もともと公益保護の立場から同法違反の状態を是正することを主眼とするものであって、違反行為による被害者の個人的利益の救済を図ることを目的とするものではなく、同法25条が一定の独占禁止法違反行為につきいわゆる無過失損害賠償責任を定め、同法(昭和52年法律第63号による改正前のもの。以下同法の条文のうち右法律による改正のあるものは改正前の条文である。)26条において右損害賠償の請求権は所定の審決が確定した後でなければ裁判上これを主張することができないと規定しているのは、これによって個々の被害者の受けた損害の填補を容易ならしめることにより、審判において命ぜられる排除措置とあいまって同法違反の行為に対する抑止的効果を挙げようとする目的に出た付随的制度にすぎないものと解すべきであるから、この方法によるのでなければ、同法違反の行為に基く損害の賠償を求めることができないものということはできず、同法違反の行為によって自己の法的利益を害された者は、当該行為が民法上の不法行為に該当する限り、これに対する審決の有無にかかわらず、別途、一般の例に従って損害賠償の請求をすることを妨げられないものというべきである」
 「元売業者の違法な価格協定の実施により商品の購入者が被る損害は、当該価格協定のため余儀なくされた支出分として把握されるから、本件のように、石油製品の最終消費者が石油元売業者に対し損害賠償を求めるには、当該価格協定が実施されなかったとすれば、現実の小売価格(以下「現実購入価格」という。)よりも安い小売価格が形成されていたといえることが必要であり、このこともまた、被害者である最終消費者において主張・立証すべきものと解される。もっとも、この価格協定が実施されなかったとすれば形成されていたであろう小売価格(以下「想定購入価格」という。)は、現実には存在しなかった価格であり、これを直接に推計することに困難が伴うことは否定できないから、現実に、存在した市場価格を手掛かりとしてこれを推計する方法が許されてよい。そして、一般的には、価格協定の実施当時から消費者が商品を購入する時点までの間に当該商品の小売価格形成の前提となる経済条件、市場構造その他の経済的要因等に変動がない限り、当該価格協定の実施直前の小売価格(以下「直前価格」という。)をもって想定購入価格と推認するのが相当であるということができるが、協定の実施当時から消費者が商品を購入する時点までの間に小売価格の形成に影響をお及ぼす顕著な経済的要因等の変動があるときは、もはや、右のような事実上の推定を働かせる前提を欠くことになるから、直前価格のみから想定購入価格を推認することは許されず、右直前価格のほか、当該商品の価格形成上の特性及び経済的変動の内容、程度その他の価格形成要因を総合検討してこれを推計しなければならないものというべきである」

エアーソフトガン事件−東京地裁 平成9年4月9日判決
 「・・・事業者は、自由な競争市場において製品を販売することができる利益を有しているのであるから、右独禁法違反行為が、特定の事業者の右利益を侵害するものである場合は、特段の事情のない限り、右行為は私法上も違法であるというべきであり、右独禁法違反行為により損害を受けた事業者は、違反行為を行った事業者又は事業者団体に対し、民法上の不法行為に基づく損害賠償請求をすることができる」

奈良県入札談合住民代位損害賠償請求事件
−大阪高裁 平成13年3月8日判決
「談合に加わった業者すべてが不法行為による損害賠償義務者となる」「談合という不法行為が問題となっている場合は、業者が談合したかどうか、業者の談合により普通地方公共団体に損害が生じたか否かが監査の対象となる」

奈良県入札談合住民代位損害賠償請求事件
−奈良地裁 平成11年10月20日判決
「・・・入札談合における損害とは、そもそも損害の性質上その額を立証することが極めて困難であるときに該当するものと認められる。したがって、当裁判所は、民訴法248条に則り、前に認定した被告らの一連の談合行為の態様、本件各工事の契約価格、公正取引委員会における課徴金納付命令に至る経緯等の諸事情及び趣旨・目的は異なるものの独占禁止法7条の2第1項の定める課徴金の割合が6パーセントであること並びに被告横河電機をはじめとして被告らからの的確な反証のない本件弁論の全趣旨などを総合勘案して、被告らの談合行為により奈良県の被った損害の相当額を本件各契約の契約価格の5パーセント・・・と認定することとする。」

八王子市下水道工事談合損害賠償請求事件(住民訴訟)−一部認容
東京地裁 平成18年11月24日判決
八王子市の委託を受けて財団法人東京都新都心建設公社が発注した下水道工事の入札談合につき、計約1億9800万円の請求を認容
  1. 争点1−基本合意の存否
     本件慣行にどれほどの拘束性があったのか、本件慣行に反して工事を受注した場合に、どのような制裁的措置がされるのかなどの事情を具体的に明らかにする証拠はなく、結局のところ、本件慣行の内容が、多摩地区において営業活動をする広域総合建設業者内の事実上の慣行であることを超えて、別紙業者一覧表記載の約八〇社により明確に合意されていたこと、あるいは原告らが主張する基本合意が具体的に成立していたことを認めるに足りる証拠はない。
     したがって、争点(1)に関する原告らの主張は、上記の限度で採用することができず、原告らの主首位的請求には理由がない。

  2. 争点2−個別談合の存否
    本件工事1について
     本件工事一については、被告植木組の従業員により、相指名業者との間で、受注価格の低落防止等を図り、被告植木組において予定価格近似の金額で落札できるよう協力する旨の談合が成立し、これにより、被告植木組が本件工事一の落札業者となったと認めるのが相当である。
      したがって、被告植木組は、その従業員が行った談合行為につき、民法七一五条に基づく不法行為責任を負うものと解すべきである。
     (本件工事2〜13略)

  3. 争点3−八王子市における損害の発生
     被告らの個別談合行為によって本件工事一ないし八、一〇、一二及び一三の請負金額が不当につり上げられたものであり、談合がなく公正な競争が確保されていたならばその金額が低額になったものと認められる以上(その額等については後記四で検討する。)、八王子市に損害が発生するものと認めるのが相当である。

  4. 争点4−損害の額
     したがって、本件においては、八王子市において損害が生じたことは認められるものの、損害の性質上、その額を立証することが極めて困難であるから、民訴法二四八条に基づき、口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき、相当な損害額を認定すべきものである。
     別紙「特定土木工事一覧表」を見ても明らかなとおり、落札率は個別の工事ごとに相当程度の差異がある上、損害額の算定が困難であるにもかかわらず、被告らに対し損害賠償義務を負わせる以上、当該賠償額の算定に当たってはある程度謙抑的に認定することもやむを得ないと考えられるところ、前記一(3)のとおり、平成九年一〇月一日から同一二年九月二七日までの期間における公社発注の特定土木工事七二件における平均落札率が九四・五四%となっている一方で、同年一〇月一日から同一七年一一月一日までの期間における同工事一三九件における平均落札率が八九・八五%となっていることなどに照らすと、八王子市が本件工事一ないし八、一〇、一二及び一三の各談合によって被った損害は、少なくともこれら工事の請負契約における各契約金額の五%に相当する金額であると認めるのが相当である。

  5. 争点5−違法な怠る事実の有無
     地方自治法その他の法令上、独占禁止法第二五条に基づく損害賠償請求権と不法行為に基づく損害賠償請求権とについて、地方公共団体の長に専ら独占禁止法第二五条に基づく損害賠償請求権の行使を選択して審決の確定まで訴えの提起をしないことができることとする権限を付与する旨の規定は何ら存在しないのであり、平成一四年法律第四号による改正の前後を問わず、地方自治法二四二条及び二四二条の二第一項が地方公共団体の長にそのような権限が付与されていることを前提にしているものとは解し難い。また、被告らの一部につき、不法行為に基づく損害賠償責任が客観的に存在することは前記のとおりであって、被告らの主張はその法的根拠を欠くものであるといわざるを得ない。
     前記四(4)のとおり、被告らの一部は、談合によって八王子市に対して損害を与えており、これらの行為は民法上の不法行為を構成するにもかかわらず、八王子市長は損害賠償請求権を行使しておらず、その不行使は違法というべきであり、本件訴訟における原告らの損害賠償代位請求は前記四(4)の限度で理由があるというべきである。

 この損害賠償請求につきましても、遠慮なく当事務所にご相談下さい
「独占禁止法セミナー」へ

執務の方針| 弁護士のプロフィール| 取扱事件 | ご案内 顧問契約 |

弁護士費用 | 事務所案内図 | リンク| トップ