御器谷法律事務所

家賃の値上げと対処法


1. 家賃の値上げの方法
 借家の賃貸借契約の継続中、家主において家賃の値上げを請求する場合には、通常契約期間の満了時の更新の際等において、家主本人から、又は仲介業者を通して、いつから、家賃をいくら値上げするかを通知します。確実な証拠を残すためには、この家賃の値上げの通知を、内容証明郵便とし且つ配達証明付きのものとします。また、事前にある程度の話し合いをした上で、値上げの通知書を出すこともあります。
 この家賃の値上げの請求は、法律上形成権の行使とみられ、家主の一方的な意思表示によりこれが相手方に到達したときに所定の理由が是認されれば、相当額の値上げがされたことになるものと考えられます(参考判例、最判昭和36年2月24日)。

2. 家賃の値上げへの借家人の対応
 借家人としては、家主からの家賃の値上げの通知に対して、これを承諾するのであれば、新たな家賃についての合意書を作成すべきでしょう。
 また、借家人として、家賃の値上げを承諾できないのであれば、その旨を家主に伝え、とりあえず「相当と認める」家賃の支払いを継続すればよろしいでしょう。但し、後日の裁判で家賃の値上げが確定し不足を生じたときは、その不足額に年1割の利息を付すことが必要となります(借地借家法第32条2項)。
 そして、借家人が従前の家賃を家主に支払おうとしたところ、家主が値上げを理由としてその受領を拒否したときは、借家人は家賃を所轄の法務局に供託しなければなりません。借家人が供託もせず、家賃の支払もしないときは、家主は家賃の不払いを理由として借家の賃貸借契約を解除することもありますので、借家人は十分注意しなければなりません。

3. 適正な家賃の算出方法−法律上の規定
 適正且つ妥当な家賃がいくらなのかの算出は、個別具体的な場合において困難なことが多くありますが、借地借家法第32条1項は次の要素を基準としています。
(1) 土地、建物に対する租税、負担の増減
例えば、土地、建物への固定資産税、都市計画税、維持修繕費、減価償却費、損害保険料、管理費等の必要経費の増加等。
(2) 土地、建物の価格の上昇、低下
(3) その他の経済事情の変動
例えば、消費者物価指数、賃金指数、国民所得等。
(4) 近傍同種の建物の借賃との比較
いわゆる近隣地域の家賃相場との比較を言いますが、対象地域の特性、対象建物の特性、契約期間、継続賃料と新規賃料との相違、権利金や保証金の多寡等を考慮。その際、テナントにおいては、ビルのグレードや大小、築年数、使用面積、1階か、店舗か事務所か等も考慮されることがあります。

 なお、条文上は、借地借家法第32条1項但書によって、一定の期間家賃を値上げしない特約があるときは、その定めに従うとされています。

4. 適正な家賃の算出方法−具体的な算出手法
(1)理論上の算出方法
1) 利回り法
対象となる建物と敷地の価格に期待利回りを乗じた純賃料に、公租公課や管理費や修繕費・減価償却費等の必要経費を加算。
2) スライド法
従前の純賃料を基準に、その後の消費者物価指数や地価指数、家賃の変動指数等の経済変動率を乗じた額に、改定時の必要諸経費を加算。
3) 賃貸事例比較法
近隣の家賃相場を基準として、個別要因による事情補正と時点修正を行い算出。
4) 差額配分法
対象となる建物、敷地の価格に即応した適正家賃と現実の家賃との差額について、契約内容や経緯等を総合的に判断して、家主に帰属すべき利益を判断してこれを加算。
5) 収益分析法
対象とされる建物、敷地の価格から期待される純収益に、必要諸経費等を加算。

(2)判例における算出方法
 過去の裁判例においては、裁判所選任の不動産鑑定士の鑑定に依拠しつつ、上記算出方法のいずれか一つの方法にかたよらずに、賃貸事例比較法や利回り法、スライド法等の複数の方法を総合的に考慮に入れるいわゆる「総合方式」によって適正賃料を定めています。例えば、

○最判昭和40年11月30日
借地法12条により、賃貸人は、従来の賃料が不相当になったときは、相当な賃料まで値上げを請求できるのであるが、相当な賃料が何程かは、同条所定の諸契機を考量して裁判所が合理的に判定すべきものであって、同条に「比隣ノ土地ノ地代若ハ借賃」が考量すべき一契機として明示されている以上、所論のように、従来の賃料にその後における地価高騰率を乗じてのみ算出しなければならないものではない。
○最判昭和43年7月5日
借地法12条による賃料増額請求があった場合、裁判所は、同条所定の諸契機を考量し、具体的事実関係に即し、相当賃料を確定すべきであり、その際、原判決の判示するような底地価格に利子率を乗ずる算定方法(所論の土地価格の利廻り算定方式)も一つの合理的尺度として使用できるものではあるが、この算定方法が他の合理的算定方法に比して本則であるとまで解すべきものではない。

5. 話し合いがまとまらなければ、
 家主と借家人との間で家賃の値上げについて話し合いがまとまらない場合には、家主は、即訴訟を提起できず、原則としてまず管轄の簡易裁判所に対して民事調停の申立をすることになります(民事調停法第24条の2)。これを一般的には「調停前置主義」と言います。
 家賃調停においては、調停委員として弁護士や不動産鑑定士が選任されることが多くあります。
 この民事調停でも解決が図られない場合には、民事訴訟ということになります。

6. 地代の値上げ
 借地の賃貸借契約における地主と借地人との間の地代の値上げについても、基本的には上記の家賃の値上げと同様に考えることができますが、この点借地借家法第11条1項は次のように規定しています。
 
 地代又は土地の借賃(以下この条及び次条において「地代等」という。)が、土地に対する租税その他の公課の増減により、土地の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍類似の土地の地代等に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって地代等の額の増減を請求することができる。ただし、一定の期間地代等を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う。

 この家賃の値上げと対処法につきましても、遠慮なく当事務所にご相談下さい
      

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