御器谷法律事務所

NTT東日本の私的独占事件

 NTT東日本の私的独占事件について、公正取引委員会の審決、東京高等裁判所の判決、最高裁判所の判決、各々の概要は次のとおりです。

1. 公正取引委員会平成19年3月26日審判審決の概要
(1) 排除行為該当性について
 被審人が、平成14年6月から平成16年3月までの間に行った、ニューファミリータイプのFTTHサービスの提供に当たり、当該サービスを分岐方式を用いて提供するとして、当該サービスの提供に用いる分岐方式の設備との接続料金の許可を受けるとともに、当該サービスのユーザー料金の届出を行いながら、実際には分岐方式を用いず、芯線直結方式を用いて、そのユーザー料金を、いずれも他の電気通信事業者が被審人の光ファイバ設備に芯線直結方式で接続してFTTHサービスを提供するに必要となる接続料金を下回る額である、当月月額5,800円、平成15年4月1日以降は月額4,500円と設定して、当該サービスを提供したのは、加入者光ファイバ設備に接続して戸建て住居向けFTTHサービス事業に参入することを困難にし、これを排除していたものと認めることができる。
(2) 戸建て住宅向けFTTHサービス市場に一定の取引分野が成立するかについて
 ブロードバンドサービスにおいて、需要者層は各サービスごとに異なる上、各サービスを提供する事業者も各サービスごとに異なるものであるといえるから、ブロードサービスの一つであるFTTHサービス事業について独立の市場を観念することができると解される。
 また、戸建て住宅向けFTTHサービスと集合住宅向けFTTHサービスとでは、加入者光ファイバの設備形態及びネットワークに違いがあり、ユーザーにとっても、FTTHサービスを提供する事業者にとっても、両サービスの間での代替性は限定されているから、両サービスのそれぞれにおいて一定の市場を確定することができる。
 以上によれば、戸建て住居向けFTTHサービスについて、一定の取引分野を画定することができる。
(3) 被審人の排除行為は、競争の実質的制限をもたらすものであったか
 FTTHサービス事業に参入しようとする事業者にとって、被審人の加入者光ファイバに接続することが極めて重要であったから、被審人のFTTHサービスの内容、ユーザー料金、接続料金のいかんは、新規事業者との間の競争のあり方に大きな影響を及ぼすものである。
 しかるに、被審人は、その保有する第1種指定電気通信設備である加入者光ファイバ設備の接続料金と自己の設定するFTTHサービスのユーザー料金との関係について、公正競争の観点から、当該設備に接続することによりFTTHサービス事業に参入しようとする他の電気通信事業者の参入を困難ならしめないよう配慮すべき立場にあるところ、実際には分岐方式を当面用いることもなく、かつ、その具体的計画もないのに、分岐方式を用いるとしてニューファミリータイプを導入し、分岐方式による接続料金とユーザー料金を設定しながら、芯線直結方式で、芯線直結方式の接続料金を下回るユーザー料金によりニューファミリータイプのFTTHサービスを提供したものであり、これは、将来性に富んだFTTHサービス事業における被審人の優位の地位を早期に確立するため、他社に先駆けたユーザーの獲得を目指して行ったものと推認されるのである。
 そして、被審人のこのような行為により、他の電気通信事業者が被審人の加入者光ファイバ設備に接続して新規に東日本地区における戸建て住宅向けFTTHサービス事業に参入することが困難になり、ひいては新規事業者の参入自体が困難になったものと認められ、そのような状況の中で、被審人はユーザー数を大幅に増加させたものである。
 これによれば、被審人の行った本件排除行為は、市場支配状態を維持し、強化する行為に当たり、東日本地区における戸建て住宅向けFTTHサービスの取引分野における競争を実質的に制限するものに該当するというべきである。

2. 東京高等裁判所平成21年5月29日判決の概要
(1) 他の事業者の事業活動を排除するとの要件について
 新規事業者は、原告に1ユーザーにつき5074円+1254円=6328円及び局舎内のポートごとに地域IP網への接続料金を支払わなければならない。ところが、原告はP28タイプのユーザー料金を5800円と設定していたから、新規事業者は、FTTHサービスのユーザーを獲得するためには、上記接続料金を支払いながら、原告が設定した上記ユーザー料金に対抗するユーザー料金を設定しなければならず、芯線直結方式による接続によって事業を展開するには、接続料金とユーザー料金とに逆ざやが生じて、大幅な赤字を負担せざるを得なくなるのであって、結局のところ、新規事業者が原告に対抗して経済的合理性のある事業の継続を見込むことはできない状況が生じていたと認められる。
 したがって、原告の本件行為により、新規事業者が、芯線直結方式で原告の加入者光ファイバ設備に接続してFTTHサービス事業に参入することは、事実上著しく困難になったものと認めるのが相当である。

 <被告の反論に対して>
1) P28タイプは実際には芯線直結方式で提供されていたものであるから、他事業者が戸建て住宅向けFTTHサービス事業に参入できるか否かの判断は、市場の実態に即し、芯線直結方式によりサービスを提供する場合を比較して検討すべきである。
2) 原告は極めて大規模な企業であり、電気通信事業者としての知名度や事業者ノウハウを有することに加え、本件行為当時、既に多大な加入者光ファイバー設備を有していたものであり、原告は、これらの優位な地位を利用することができたことから、戸建て住宅向けFTTHサービスは一度契約を締結すれば、一定期間他事業者への乗換がおきにくい性質があることに着眼し、当面の損益を無視して、競争関係にある他事業者に先駆けてユーザーを獲得すべく、本件行為に出ることができたものと考えられる。これに対し、加入者光ファイバ設備等を有するなど原告と同等の立場にない他事業者は、FTTHサービス事業の需用者の将来の見通しもはっきりしていない当時の状況の下では、原告のユーザー料金に対抗するユーザー料金を設定して新規参入を図ることは、大幅な赤字を抱えることになって事業の継続も危ぶまれる状況になるおそれがあり、中長期的に見ても著しく困難であったものと認めるほかなく、これを覆すに足りる的確な証拠はない。
3) FTTHサービスの提供実績を何ら有しない他の事業者がFTTHサービス事業に新規に参入した場合、採算が取れるだけのユーザー数を獲得することは事実上不可能であったと認めるのが相当である。

(2) 一定の取引分野における競争を実質的に制限するという要件について
 (ア) 一定の取引分野について
 ブロードバンドサービスの中のFTTHサービス、ADSL、CATVインターネットは、それぞれのサービスの内容及び料金等に応じて需要者層を異にし、また、通信設備の違い等により各サービスを提供する事業者もそれぞれのサービスごとに異なるものであるといえるから、ブロードバンドサービス市場の中でも、ブロードサービス事業のひとつであるFTTHサービス事業の分野について独立の市場を観念することができるものというべきである。また、家庭向けFTTHサービスには戸建て住宅向けFTTHサービスと集合住宅向けFTTHサービスがあり、両サービスには加入者光ファイバの設備形態及びネットワークに違いがあり、ユーザーにとっても、FTTHサービスを提供する事業者にとっても、両サービスの間での代替性は限定されているから、両サービスのそれぞれにおいて一定の市場を確定することができる。
 (イ) 競争を実質的に制限するについて
 原告のFTTHサービスの内容、ユーザー料金、接続料金のいかんは、新規事業者との間の競争の在り方に大きな影響を及ぼすものであったと認められる。
  ところが、原告は、第1種指定電気通信設備である加入者光ファイバの保有者として、FTTHサービスを提供するに当たり、その保有する第1種指定電気通信設備である加入者光ファイバ設備の接続料金と自己の設定するFTTHサービスのユーザー料金との関係について、公正競争の観点から、当該設備に接続することによりFTTHサービス事業に参入しようとする他の電気通信事業者の参入を困難ならしめないよう配慮すべき立場にあるにもかかわらず、実際には分岐方式によるサービスを当面行うことなく、近い将来これを実施する具体的な計画もないのに、分岐方式によるP28タイプのFTTHサービスを開始するとし、当該サービスの提供に用いる分岐方式の設備との接続料金の認可を受けるとともに、当該サービスのユーザー料金の届出を行いながら、芯線直結方式を用いて、そのユーザー料金を、いずれも他の電気通信事業者が原告の光ファイバ設備に芯線直結方式で接続してFTTHサービスを提供する際に必要となる接続料金を下回る額である、当初月額5800円、平成15年4月1日以降は月額4500円と設定して、当該サービスを提供し、他社に先駆けてのユーザーの獲得に出て、FTTHサービス事業における原告の優位性を早期に確立しようとしたものである。
 原告の上記のような行為は他の電気通信事業者が東日本地区における戸建て住宅向けFTTHサービス事業に新規に参入することを著しく困難にさせ、そのような状況の中で、原告はユーザー数を大幅に増加させたものであって、原告の行った本件行為は、東日本地区での戸建て住宅向けFTTHサービス事業の取引分野における競争を実質的に制限するものに該当するというべきである。

3. 最高裁判所平成22年12月17日判決の概要
 当時東日本地区において既存の加入者光ファイバ設備と接続してFTTHサービスを提供しようとする電気通信事業者にとって、その接続対象は、大都市圏の管路を多く保有し、光ファイバの芯線数及び敷設範囲で他社に比して極めて優位な地位にあり、接続に要する設備等も整っていた上告人に事実上限られていた。加えて、FTTHサービスは、主として事業の規模によってその効率が高まり、かつ、加入者との間でいったん契約を締結すると競業者への契約変更が生じ難いという点で、市場における先行者である上告人に有利な特性を有していたものといえる。そして、本件行為期間において、上告人はニューファミリータイプのFTTHサービスを芯線直結方式によって提供しており、当時の需給関係等からみてこれによってもダークファイバが不足するような事態は容易に想定し難く、上告人においても分岐方式への移行の具体的な予定がなかったことなどからすれば、ニューファミリータイプのFTTHサービスはその実質において芯線直結方式を前提とするベーシックタイプと異なるものではなかったというべきところ、ニューファミリータイプのユーザー料金は芯線直結方式において他の電気通信事業者から取得すべき接続料金を下回るものであったというのであるから、上告人の加入者光ファイバ設備に接続する電気通信事業者は、いかに効率的にFTTHサービス事業を営んだとしても、芯線直結方式によるFTTHサービスをニューファミリータイプと同額以下のユーザー料金で提供しようとすれば必ず損失が生ずる状況に置かれることが明らかであった。しかも、上告人はニューファミリータイプを分岐方式で提供するとの形式を採りながら、実際にはこれを芯線直結方式で提供することにより、正に上記のような状況が生ずることを防止するために行われていた行政指導を始めとするユーザー料金等に関する種々の行政的規制を実質的に免れていたものといわざるを得ない。他方で、上告人は、FTTHサービス市場において他の電気通信事業者よりも先行していた上、その設置した加入者光ファイバ設備を自ら使用していたためユーザー料金が接続料金を下回っていたとしても実質的な影響はなく、ダークファイバの所在等に関する情報も事実上独占していたこと等にもかんがみれば、上告人と他の電気通信事業者との間にはFTTHサービス市場における地位及び競争条件において相当の格差が存在したということができる。また、本件行為期間は1年10か月であるところ、その間のFTTHサービス市場の状況にかんがみ、当時同市場は急速に拡大しつつあったものと推認されるから、上記の期間は上告人による市場支配力の形成、維持ないし強化という観点から相応の有意な長さのある期間であったというべきである。
 以上によれば、本件行為は、上告人が、その設置する加入者光ファイバ設備を、自ら加入者に直接提供しつつ、競業者である他の電気通信事業者に接続のための設備として提供するに当たり、加入者光ファイバ設備接続市場における事実上唯一の供給者としての地位を利用して、当該競業者が経済的合理性の見地から受け入れることのできない接続条件を設定し提示したもので、その単独かつ一方的な取引拒絶ないし廉売としての側面が、自らの市場支配力の形成、維持ないし強化という観点からみて正常な競争手段の範囲を逸脱するような人為性を有するものであり、当該競業者のFTTHサービス市場への参入を著しく困難にする効果を持つものといえるから、同市場における排除行為に該当するというべきである。
 また、前記事実関係等によれば、本件行為期間において、ブロードバンドサービスの中でADSLサービス等との価格差とは無関係に通信速度等の観点からFTTHサービスを選好する需要者が現に存在していたことが明らかであり、それらの者については他のブロードバンドサービスとの間における需要の代替性はほとんど生じていなかったものと解されるから、FTTHサービス市場は、当該市場自体が独立して独禁法2条5項にいう「一定の取引分野」であったと評価することができる。そして、この市場においては、既に競業者であるA社及びB社が存在していたが、これらの競業者のFTTHサービス提供地域が限定されていたことやFTTHサービスの特性等に照らすと、本件行為期間において、先行する事業者である上告人に対するFTTHサービス市場における既存の競業者による牽制力が十分に生じていたものとはいえない状況にあるので、本件行為により、同項にいう「競争を実質的に制限すること」、すなわち市場支配力の形成、維持ないし強化という結果が生じていたものというべきである。

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