御器谷法律事務所

契約―入学金、授業料の返還

入学金、授業料の返還請求
1.問題の所在
 大学等の入学試験に合格した際、一定の期日までに入学金、授業料、施設費等の支払を求められこれに応じてこれらの支払を済ませた場合、後日他の大学等に合格したため入学を辞退するとき、この一旦支払った入学金、授業料、施設費等の返還を請求することができるのでしょうか。
 特に大学の入学試験案内等には一旦支払った入学金等は一切返還に応じられない旨の記載が多く、又、医学部等では入学金等の金額も多額となり様々な問題があります。
 さらに消費者契約法の適用の可否等の問題もあり、大学側にとっても切実な問題となっています。
 これらの問題につき法律的には特に次の諸点等が論点として争われています。
(1) 在学契約の性質
(2) 入学金等の性質
(3) 消費者契約法の適用の有無
(4) 入学金等不返還特約の効力
(5) 入学金の返還請求の可否
(6) 授業料の返還請求の可否

2. 判例の紹介
京都地方裁判所平成15年7月16日判決
(1) 在学契約の性質 
 在学契約は、学生が大学等を設置する学校法人に対して、大学等の目的に応じた講義、実習、実験等の狭義の教育活動を自己に行い、関連する様々な役務の提供という事務を委託する準委任契約の性質のほか、学生が大学等の施設を利用することができるという施設利用契約の性質などを有する無名契約
(2) 入学金等の性質
 学生が大学等に支払う金銭は、特段の事情がない限り、その名目にかかわらず、広い意味では、すべて大学等が提供する狭義の教育活動、その他の役務、施設利用の対価と解するのが相当である。
(3) 消費者契約法の適用の有無
 消費者契約法は、消費者と事業者との間で締結される契約を消費者契約とし(消費者契約法2条3項)、労働契約以外の消費者契約に同法4条以下の消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示の取消し及び消費者契約の条項の無効に関する規定が、民法及び商法以外の他の法律に別段の定めがあるときを除いて適用されるとしている(同法11条2項、12条)。 
 ところで、原告らは、被告らとの在学契約に関しては、いずれも事業として又は事業のために契約の当事者となる場合以外の個人であるから、同法にいう消費者であり(同法2条1項)、また、被告らが法人であることは、前記請求原因アのとおりであるから、被告らは、同法にいう事業者に当たる(同法2条2項)。そうすると、原告らと被告ら間の在学契約は、消費者契約であり、労働契約には当たらないから、同法4条以下の消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示の取消し及び消費者契約の条項の無効に関する規定が、上記在学契約に適用されることは明らかである。
(4) 入学金等不返還特約の効力
 在学契約を締結した者が、入学以前あるいは入学の直後(入学式)までに在学契約を解約することは、大学等の不利な時期に解約をするものであり、原則として大学等に対して損害を賠償する義務を負う(民法656条、651条2項参照)ところ、学納金不返還特約は、係る場合に学納金を返還しないことを定めるものであるから、被告らが入学辞退者に対して有する損害賠償請求権に係る金額を既払いの学納金の額と予定する特約と解されるから、消費者契約法9条1号にいう「当該消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項」に該当するというべきである。
 消費者契約法9条1号にいう「平均的損害」とは、同一事業者が締結する多数の同種契約事案について類型的に考察した場合に算定される平均的な損害をいい、具体的には、解除の事由及び時期、当該契約の特殊性、逸失利益、準備費用等の損害の内容並びに損害回避の可能性などの事情に照らし、同種の契約の解除に伴い、当該事業者に生じる損害の額の平均値をいう。
 そして、消費者契約法9条1号が消費者契約における消費者保護のために設けられた規定であること、平均的損害の算定根拠となる同種の契約において発生する損害の内容及びその数額並びに損害回避可能性などの証拠が事業者側に偏在していることに照らすと、平均的損害の金額は、事業者が主張立証責任を負うと解するべきである。
 そうすると、原告らによる在学契約の解約によって、被告らが被る平均的損害を認めるに足りる証拠はないことに帰し、結果的に平均的損害はないものとして扱うほかはなく、その結果、学納金不返還特約は、再抗弁イ、ウについて判断するまでもなく、その全体が無効であることになる。

その後の判例
入学金については返還を認めず、授業料については返還を認める判例がありました。

 最高裁 平成18年11月27日判決
消費者契約法施行後(平成13年4月)の大学入試につき、3月末日までに入学辞退を申し出たときは、大学は授業料を返還しなければならないとしました。但し、入学金についてはその返還を認めませんでした。

 最高裁 平成18年12月22日 第2小法廷判決
鍼灸学校の入学試験に合格し当該鍼灸学校との間で納付済みの授業料等を返還しない旨の特約の付された在学契約を締結した者が入学年度の始まる数日前に同契約を解除した場合において同特約が消費者契約法九条一号により無効とされた事例

 本件は、名古屋市内にある鍼灸学校(以下「本件学校」という。)の平成14年度の入学試験に合格し、所定の期限である平成14年2月6日までに学生納付金等として合計210万円(入学金70万円、授業料等110万円及び寄付金30万円)を納付した者が、その後同年3月25〜27日に、本件学校への入学を辞退し、前記学生納付金等の返還を求めた事件です。

<主文>
1. 原判決を次のとおり変更する。
第一審判決を次のとおり変更する。
(1) 被上告人は、上告人に対し、140万円及びこれに対する平成15年4月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 上告人のその余の請求を棄却する。

2. 訴訟の総費用は、これを3分し、その一を上告人の負担とし、その余を被上告人の負担とする。

<判決要旨>
 本件在学契約は、消費者契約に当たり、本件不返還特約(本件授業料等に関する部分。以下同じ。)は、在学契約の解除に伴う損害賠償額の予定又は違約金の定めの性質を有し、消費者契約法9条1号にいう「当該消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項」に当たる。
 大学の場合は、大学と在学契約を締結した学生による当該在学契約の解除に伴い当該大学に生ずべき平均的な損害は、学生が当該大学に入学することが客観的にも高い蓋然性をもって予測される時点よりも前の時期における解除については、原則として存しないものというべきところ、現在の大学の入学試験の実情の下においては、原則として、学生が当該大学に入学することが客観的にも高い蓋然性をもって予測される時点は、入学年度が始まる4月1日であるから、その前日の3月31日までの解除については、当該大学に生ずべき平均的な損害は存しないのであって、学生が当該大学に納付した授業料等及び諸会費等に係る不返還特約はすべて無効というべきである(前掲最高裁平成18年11月27日第2小法廷判決等参照)。
 前記のとおり、鍼灸学校等の入学資格を有する者は、原則として大学に入学することができる者であり、一般に鍼灸学校等の入学試験を受験する者において、他の鍼灸学校等や大学、専修学校を併願受験することが想定されていないとはいえず、鍼灸学校等の入学試験に関する実情が、大学のそれと格段に異なるというべき事情までは見いだし難い。また、鍼灸学校等が、大学の場合と比較して、より早期に入学者を確定しなければならない特段の事情をあることもうかがわれない。そして、被上告人学校においても、前記のとおり、入学試験に合格しても入学しない者があることを見込んで、補欠者を定めている上、定員割れが生ずることを回避するため、入学定員を若干上回る数の合格者を決定している。これらの事情に照らすと、当時被上告人学校の周辺地域に鍼灸学校等が少なかったことや、これまで被上告人学校において入学手続後に入学辞退をした者がいなかったことなどを考慮しても、大学の場合と同じく、入学すべき年の3月31日までは、被上告人学校と在学契約を締結した学生が被上告人学校に入学することが客観的にも高い蓋然性をもって予測されるような状況にはなく、同日までの在学契約の解除について被上告人学校に生ずべき平均的な損害は存しないものというべきである。前記第一の一(5)の事情も、上記の判断を左右するものではない。
 そうすると、本件在学契約は、平成14年3月27日までに解除されたものであるから、この解除について被上告人学校に生ずべき平均的な損害は存しないのであって、本件不返還特約は全部無効というべきであり、被上告人学校は、上告人に対し、本件授業料等110万円を返還する義務を負う。

 この入学金、授業料の返還につきましても、遠慮なく当事務所にご相談下さい

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