御器谷法律事務所

D社株主代表訴訟


D社株主代表訴訟
−大阪高等裁判所平成18年6月9日判決

(1)事案の概要
ミスタードーナツ−H12年4月〜12月、食品衛生法上未認可の添加物を使用した「大肉まん」1,314万個を販売。その後、業者へ口止め料6,300万円を支払。
H14年5月−大阪府が食品衛生法第23条に基づき仕入、販売を禁止
H15年9月−食品衛生法違反で罰金20万円

(2)株主が会社の取締役、監査役計13名に106億円の賠償を求め株主代表訴訟
(3)第1審−大阪地方裁判所平成16年12月22日判決、同平成17年2月9日判決
1) 専務取締役生産本部担当−未認可添加物の含有を知った後、社長に報告しなかったことを善管注意義務違反として、5億3,000万円の請求を認容。他の取締役や監査役10名への請求は棄却。
2) 担当取締役2名−106億円の損害賠償を認容

(4)第2審−大阪高判平成18年6月9日、同平成19年1月18日
1) 担当以外の取締役、監査役全員−各5億5,805万〜2億1,122万円の請求を認容。
2) 担当取締役2名−53億円の請求を認容。

(5)大阪高判平成18年6月9日の判旨概要
 1)本件未認可添加物混入についての善管注意義務違反について
本件混入自体については、一審被告らに品質管理等に関しての善管注意義務の違反は認められないものと判断する。
 2)本件販売についての善管注意義務違反について
当裁判所も、本件混入が発覚し、製造過程の調査により、原材料にTBHQが使用されていたことを確認した後に、店頭及び倉庫等の在庫品を販売したことについては、フードサービス部門の最高責任者である甲及びMDFC本部長であった乙が他の取締役に諮ることなく、独断で決定したものであって、一審被告らにおいて、これを防げなかったとしても、それが直ちに善管義務の懈怠にあたるとはいえないと解する。
 3)本件支払についての善管注意義務違反について
当裁判所も、丙若しくは丁社に対して6300万円が支払われたのは、実質的には口止めを意図したものであって、口止め料としての本件支払自体が違法であるが、一審被告ら(ただし、一審被告Aを除く)が、その違法な支払いを止めることができなかったことについて、これが一審被告らの善管注意義務違反に当たるとまではいえないと判断する。
4) 一審被告らが「大肉まん」へのTBHQ混入及び本件販売の継続等を知った時期及びその内容について
5) 一審被告らが本件販売等を認識した後の対応、当該事実を公表するなどしなかったことなどについて、一審被告らに善管注意義務違反等が認められるか

@)食品の安全性の確保
 食品の安全性の確保は、食品会社に課せられた最も重要で基本的な社会的な責任である。したがって、食品会社は、安全性に問題のある食品が製造、販売されないように予め万全の体制を整えると共に、万一安全性に疑問のある食品を販売したことが判明した場合には、直ちにこれを回収するなどの措置を講じて、消費者の健康に障害が生じないようにあらゆる手だてを尽くす責任があることはいうまでもない。また、食品の安全性についての判断は、科学的な知見に基づいて的確になされることはもとより、食品衛生法及びその他の法令通達等の基準に従ってなされるべきであることも当然のことである。そして、第2の4の前提事実の項で認定判断したとおり、TBHQは未認可食品添加物であり、これが混入した「大肉まん」の製造、販売は食品衛生法に違反し、人の健康を損なうおそれのある違法行為に該当する。したがって、これの混入が判明した時点で、D社は直ちにその販売を中止し在庫を廃棄すると共に、その事実を消費者に公表するなどして販売済みの商品の回収に努めるべき社会的な責任があったことも明らかである。
A)A:専務取締役生産本部
 一審被告Aが本件混入や本件販売継続の事実を知りながら、事実関係をさらに確認すると共に、これを直ちに社長である一審被告Cに報告し、事実調査の上で販売中止等の措置や消費者に公表するなどして回収の手だてを尽くすことの要否などを検討しなかったことについて、取締役としての善管注意義務の懈怠があったことは明らかである。
B)C:代表取締役社長
 Cについては検討する。一審被告Cが本件混入及び販売継続及び丙への業務委託契約等を知ったのは平成13年2月8日(同人によると2月22日)であり、その時点では既にTBHQ混入「大肉まん」の販売中止や回収は現実的には問題にならなかったといえる。しかし、一審被告Cは食品販売事業をその事業の一環とするD社の代表取締役社長である。前年末に本件混入や、混入を知りながらあえてその販売を継続するという食品販売事業者としては極めて重大な法令違反行為が行われていた事実が判明した以上は、その実態と全貌を調査して原因を究明し再発防止のために必要な措置を講ずることはもとより、直ちに、担当者によって取られた対応策の内容を再点検して、食品衛生法違反の重大な違法行為により食品販売事業者が受けるおそれのある致命的な信用失墜と損失を回避するための措置を講じなければならない。その中で、マスコミ等への公表や、監督官庁への事後的な届出の要否等も当然検討されるべきである。
C)その他の取締役の責任
 一審被告C退陣後代表取締役社長に就任していた一審被告Aらを含む主要な役員の間で今後の方針の協議がなされ、本件混入及び本件販売継続や本件支払の経緯等については自ら積極的には公表しない旨の方針決定がなされ、同年11月29日の取締役会においては、そのことを前提として、乙の取締役辞任の受理、甲との顧問契約の解約、丙との契約解消等の方針決定がなされた。この自ら積極的には公表しないとの方針については、同取締役会において明示的な決議がなされたわけではないが、当然の前提として了解されていたのであるから、取締役会に出席した上記その他の取締役らもこの点について取締役としての善管注意義務違反の責任を免れない。
D)自ら積極的に公表しないとの方針の当否について
 本件混入や販売継続及び隠ぺいのような重大な問題を起こしてしまった食品販売会社の消費者及びマスコミへの危機対応として、到底合理的なものとはいえない。
 すなわち、現代の風潮として、消費者は食品の安全性については極めて敏感であり、企業に対して厳しい安全性確保の措置を求めている。未認可添加物が混入した違法な食品を、それと知りながら継続して販売したなどということになると、その食品添加物が実際に健康被害をもたらすおそれがあるのかどうかにかかわらず、違法性を知りながら販売を継続したという事実だけで、当該食品販売会社の信頼性は大きく損なわれたことになる。ましてや、その事実を隠ぺいしたなどということになると、その点について更に厳しい非難を受けることになるのは目に見えている。それに対応するには、過去になされた隠ぺいとはまさに正反対に、自ら進んで事実を公表して、既に安全対策が取られ問題が解消していることを明らかにすると共に、隠ぺいが既に過去の問題であり克服されていることを印象づけることによって、積極的に消費者の信頼を取り戻すために行動し、新たな信頼関係を構築していく途をとるしかないと考えられる。また、マスコミの姿勢や世論が、企業の不祥事や隠ぺい体質について敏感であり、少しでも不祥事を隠ぺいするとみられるようなことがあると、しばしばそのこと自体が大々的に取り上げられ、追求がエスカレートし、それにより企業の信頼が大きく傷つく結果になることが過去の事例に照らしても明らかである。ましてや、本件のように6300万円もの不明朗な資金の提供があり、それが積極的な隠ぺい工作であると疑われているのに、さらに消極的な隠ぺいとみられる方策を重ねることは、ことが食品の安全性にかかわるだけに、企業にとっては存亡の危機をもたらす結果につながる危険性があることが、十分に予測可能であったといわなければならない。
 したがって、そのような事態を回避するために、そして、現に行われてしまった重大な違法行為によってダスキンが受ける企業としての信頼喪失の損害を最小限度に止める方策を積極的に検討することこそが、このとき経営者に求められていたことは明らかである。ところが、前記のように、一審被告らはそのための方策を取締役会で明示的に議論することもなく、「自ら積極的には公表しない」などというあいまいで、成り行き任せの方針を、手続き的にもあいまいなままに黙示的に事実上承認したのである。それは、到底、「経営判断」というに値しないものというしかない。
 したがって、一審被告Dを除く取締役であった一審被告らに「自ら積極的には公表しない」という方針を採用し、消費者やマスコミの反応をも視野に入れた上での積極的な損害回避の方針の検討を怠った点において、善管注意義務違反のあることは明らかである。また、監査役であった一審被告Dも、自ら上記方策の検討に参加しながら、以上のような取締役らの明らかな任務懈怠に対する監査を怠った点において、善管注意義務違反があることは明らかである。

(6) 最高裁判所 平成20年2月12日
 上告を退ける決定

(7)本判決のPoints
1) 取締役としては、違法行為を知った後の行動が問題
2) 取締役の善管注意義務違反の具体的内容として、迅速な対応(クライシス・マネジメント)として、事実関係の確認、代表取締役への報告、取締役会での討議、違法行為の消費者、マスコミへの積極的な公表、販売の中止、回収の実行等、損害の回避にむけた最大限の努力が求められる。
3) 本件では違法行為(未認可添加物の使用)を隠ぺい、黙認し、口止め料の支払さえ容認した取締役全員の責任を認めた。

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