御器谷法律事務所

独占禁止法−私的独占


1. 私的独占とは、
 事業者が、単独に又は他の事業者と結合、通謀等いかなる方法をもってするかを問わず、他の事業者の事業活動を「排除」又は「支配」することによって、市場における競争を実質的に制限すること(法§2・(5))。
(1) 「排除」とは、他の事業者の事業活動に不当な制約を加えること等によって、他の事業者の事業活動の継続を困難にし、あるいは新規参入を困難にすること。 
例えば、ダンピング、地域別差別対価、競争者との取引制限等の態様。
(2) 「支配」とは、他の事業者の意思決定に制約を加えて、自己の意思に従って事業活動を行なわせること。
 例えば、株式保有、役員派遣、取引上の優越的な地位の濫用等の態様。

2. 禁止の趣旨

 私的独占は、カルテル(不当な取引制限)、不公正な取引方法とともに、自由競争経済秩序維持のために、独占禁止法が禁止するいわゆる3本柱の一つとされています(法§3)。

3. 違反すると、
(1) 排除措置(法§7)
 事業者が私的独占の禁止に違反すると、公正取引委員会は、当該行為の差止め等の排除措置を命ずることができます。
 具体的には、違反行為の差止め、協定等の破棄、周知措置、予防措置、報告等。
(2) 課徴金(法§7の2・(2)・(4))
 平成17年に成立した独禁法の改正によって、支配型私的独占(他の事業者の事業活動を支配することによるもの)のうちで、対価に係わるもの、供給量・市場占有率・取引の相手方を制限することにより対価に影響する申立人に対しては課徴金が課せられることになりました。
 さらに、平成21年の独禁法改正により、排除型私的独占(他の事業者の事業活動を排除する行為)に対しても課徴金が課されることとなりました(法7条の2第4項)。
(3) 損害賠償請求
 私的独占により損害を被った被害者は、私的独占を行った事業者に対し民事上の損害賠償請求をすることができます(法§25、民法§709)。
(4) 罰則
 私的独占に該当する行為をした者には刑事罰(5年以下の懲役又は500万円以下の罰金)が課され、又、法人への両罰規定(5億円以下の罰金)が定められています(法§89、§95)。
 なお、2009年11月現在、公正取引委員会が私的独占につき刑事告発した事例はありませんが、独禁法違反も含めた、経済犯罪に対する厳罰化傾向の中で、独禁法についても、私的独占に対する刑事罰の法定刑が引き上げられるなど厳罰化する内容の改正がなされた経緯も踏まえ、今後の動向を注意深く観察する必要があります。

4. 企業の実務対応
 平成21年独禁法改正は、独禁法の執行力強化、規制強化という方向で改正がなされました。こうした経緯に鑑みると、企業においては独禁法違反リスクは高まったと言え、各企業においてコンプライアンス・プログラム、リスク・マネジメントの充実が必要となります。
 特に、平成21年改正によって新たに課徴金の対象とされた排除型私的独占については、ガイドラインが公表されており、その中で典型的行為として指摘されている以下の類型に当てはまり得る行為には特に注意を要します。
 (1)商品を供給しなければ発生しない費用を下回る対価設定
 (2)排他的取引(排他的リベートの供与を含む)
 (3)抱き合わせ
 (4)供給拒絶・差別的取扱い
 中でも、公取委は、商品のシェアが概ね2分の1を超える事案(かつ国民生活に与える影響が大きい事案)については優先的に審査するとの執行方針を公表しており、慎重な判断が必要となります。

5. 主な事例等
(1) 野田醤油(しょうゆ)事件−東京高等裁判所昭和32年12月25日判決
プライスリーダーによる再販売価格維持行為を「支配」と認める。
(2) 雪印乳業・農林中金事件−公取委昭和31年7月28日審決
融資と生乳の販売等による他の事業者の「排除」。
(3) 東洋製罐事件−公取委昭和47年9月18日審決
株式所有、役員派遣、供給停止等による支配、排除。
(4) 日本医療食品協会事件−公取委平成8年5月8日審決
(5) パチンコ機製造特許プール事件−公取委平成9年8月6日審決
特許プールによる新規参入の排除。
(6) パラマウントベッド事件−公取委平成10年3月31日審決
同社仕様書による入札による排除、落札予定者・落札価格決定による支配。
(7) エム・ディ・エス・ノーディオン事件−公取委平成10年9月3日勧告審決
自社製品の購入義務を課す契約を締結し、競争事業者を排除。
(8) 北海道新聞社事件−公取委平成12年2月28日審決
商標登録、通信社への働きかけ、大幅割引による広告集稿等による函館新聞社の排除。
(9) 有線ブロードネットワークス事件−公取委平成16年10月13日勧告審決
有線ブロードネットワークス及び日本ネットワークヴィジョンの通謀によるキャンシステムの音楽放送事業に係る事業の排除。
(10) インテル事件−公取委平成17年4月13日勧告審決
割戻金、忠誠リベート提供により、競争事業者の製品を購入させないようにしたことを「排除」と認定。

6. 判決、審判例
(1) 野田醤油事件−東京高裁 昭和32年12月25日判決、公取委 平成5年6月28日一部変更審決
 他の事業者の事業活動を支配するとは、原則としてなんらかの意味において他の事業者に制約を加えその事業活動における自由なる決定を奪うことをいうものと解するのを相当とする。
 本件で市場に存する客観的条件とはしょう油業界における格付及びそれにもとづくマーク・バリュー、品質、価格の一体関係から他の生産者が原告の定めた価格に追随せざるを得ない関係をさすことは明らかであり、このような市場秩序の存するところで原告がその再販売価格を指示しかつ維持し小売価格を斉一ならしめれば、他の生産者はおのずから自己の製品の価格をこれと同一に決定せざるを得ざるにいたり、その間価格決定につき独自の選択をなすべき余地はなくなるというのであって、これがすなわち原告の価格支配であるとする審決の所論は、・・・その論理の構造においてはなんら不合理なものあるを見ないのである。

(2) 三共ほか10名事件−公取委 平成9年8月6日勧告審決
 10社及び遊技機特許連盟は、結合及び通謀をして、参入を排除する旨の方針の下に、遊技機特許連盟が所有又は管理運営する特許権等の実施許諾を拒絶することによって、ぱちんこ機を製造しようとする者の事業活動を排除することにより、公共の利益に反して、我が国におけるぱちんこ機の製造分野における競争を実質的に制限しているものであって、これは、特許法、又は実用新案法、による権利の行使とは認められないものであり、独占禁止法第2条第5項に規定する私的独占に該当する。

(3) 東洋製罐事件−公取委 昭和47年9月18日勧告審決
 東洋製罐は、本州製罐、四国製罐、北海製罐および三国金属の事業活動を支配し、また、かん詰製造業者の自家製かんについての事業活動を排除することにより、公共の利益に反して、わが国における食かんの取引分野における競争を実質的に制限しているものであり、私的独占に該当する。

(4) 日本医療食協会事件−公取委 平成8年5月8日勧告審決
 「協会及び日清医療食品は、61年協定及び登録方針に従い、医療用食品の登録制度、製造工場認定制度及び販売業者認定制度を実施することによって、医療用食品を製造又は販売しようとする事業者の事業活動を排除するとともに医療用食品の製造業者の販売先並びに医療用食品の販売業者の仕入れ先、販売先、販売価格、販売地域及び販売活動を制限してこれらの事業者の事業活動を支配することにより、公共の利益に反して、我が国における医療用食品の取引分野における競争を実質的に制限していたものであって、これは、独占禁止法第2条第5項に規定する私的独占に該当し、同法第3条の規定に違反するものである」

(5) パラマウントベッド事件−公取委 平成10年3月31日勧告審決
 「パラマウトベッド社は、財務局発注の特定医療用ベッドの指名競争入札等に当たり、都立病院の入札事務担当者に対し、同社の医療用ベッドのみが適合する仕様書の作成を働きかけるなどによって、同社の医療用ベッドのみが納入できる仕様書入札を実現して、他の医療用ベッドの製造業者の事業活動を排除することにより、また、落札予定者及び落札予定価格を決定するとともに、当該落札予定者が当該落札予定価格で落札できるように入札に参加する販売業者に対して入札価格を指示し、当該価格で入札させて、これらの販売業者の事業活動を支配することにより、それぞれ、公共の利益に反して、財務局発注の特定医療用ベッドの取引分野における競争を実質的に制限しているものであって、これらは、独占禁止法第2条第5項に規定する私的独占に該当し、独占禁止法第3条の規定に違反するものである」

(6) 北海道新聞事件−公取委 平成12年2月28日同意審決
 北海道新聞社は、函館新聞社の参入を妨害しその事業活動を困難にする目的で講じた函館新聞社が使用すると目される複数の新聞題字の商標登録の出願等の函館対策と称する一連の行為によって、同社の事業活動を排除することにより、公共の利益に反して、函館地区における一般日刊新聞の発行分野における競争を実質的に制限していたものであり、これは、独占禁止法第2条第5項に規定する私的独占に該当し、独占禁止法第3条の規定に違反するものである。

(7) エム・ディ・エス・ノーディオン事件−公取委 平成10年 9月3日勧告審決
 エム・ディ・エス・ノーディオン・インコーポレイテッド(以下「ノーディオン」)は、日本メジフィジックス株式会社及び株式会社第一ラジオアイソトープ研究所との間において、それぞれ、平成8年から10年間、その取得、使用、消費又は加工するモリブデン99の全量をノーディオンから購入する義務を課す契約を締結して、他のモリブデン99の製造販売業者の事業活動を排除することにより、公共の利益に反して、我が国におけるモリブデン99の取引分野における競争を実質的に制限していたものであり、これは、独占禁止法第2条第5項に規定する私的独占に該当し、独占禁止法第3条の規定に違反するものである。

 この私的独占につきましても、遠慮なく当事務所にご相談下さい
「独占禁止法セミナー」へ

執務の方針| 弁護士のプロフィール| 取扱事件 | ご案内 顧問契約 |

弁護士費用 | 事務所案内図 | リンク| トップ