御器谷法律事務所

盗難手形の善意取得

 窃盗犯により事務所が荒らされ、金庫内に保管してあった手形が盗難されるという事件が後を絶ちません。そこで、実際に手形の盗難に遭ってしまい、その手形に基づいて手形訴訟が提起されてしまった場合、どのように対処すべきなのでしょうか。この手形訴訟は実際には盗難手形であることを知らずに当該手形を入手したから正当な権利者であると主張する善意の第三者から提起されることになります。そこで、その人が善意の第三者と言えるのかどうか、一般的に裁判所が判断するポイントを挙げて以下概説いたします。

1. リーディングケースとなった判例の事案の概要
 XはAから約束手形2通(振出人Y社・合計1000万円)を取得し、満期に呈示したが支払を得られなかったので、裏書きの連続した手形の所持人としてY社に対して手形訴訟を提起しました。
 本件の手形は盗難手形でした。
 事情として、まず、AがXに対する借金の支払いのために、取引先のY社から小切手用紙を盗み出し、これをXに交付しました。これは、結局、事故手形であることがわかり、この代わりに再度、約束手形を交付することになりました。
そこで、Aは再びY社から本件手形を盗み、Xに交付しました。

2. 審理状況
 第1審
  Xに重過失なしとしてXの請求認容
 第2審
 重過失ありとしてXの請求棄却
 最高裁(S52.6.20判決)
 Xの上告棄却
原判決挙示の証拠関係によれば、XがAから本件手形を取得するに際し、Aが本件各手形を所持することにつき疑念を抱いて然るべき事情が認められるとした原審の認定はこれを肯定するに足り、手形振出名義人又は支払担当銀行に照会するなどなんらかの方法で手形振出の真否につき調査をすべき注意義務があったにもかかわらず何らの調査をしなかったXに重大な過失があるとした原審の判断も相当

3. 盗難手形の善意取得につき考慮される点
 手形を譲り受ける際、譲受人に悪意又は重過失がある場合には善意取得は出来ないことになります(手形法16条2項但書)。
 ここに言う「重大な過失」とは、手形取引上必要な注意を著しく欠くために 譲渡人が無権利者であることを知らないことをいいます。
 では、具体的にどのような事実が認定されると重過失が認定されるかですが、 盗難手形において裁判例において一般的に考慮されているであろうといわれる 要因は以下のとおりです。
1) 譲渡人が譲受人にとって従来面識のない者であること
2) 譲渡人の手形の入手経路が不自然ないし譲受人にとって定かでないこと(東京地裁判決S46.10.20、東京高裁判決S47.4.14)
3) 譲渡人が無資力であることを譲受人が知っていたこと(東京高裁判決S47.4.14)
4) 手形金額が比較的高額であること(大阪地裁判決S42.11.27)
5) 手形面上の記載が改竄されている等通常でないこと(大阪高裁判決S44.6.28)
6) 一流企業振出の手形であること
(上場企業振出の手形に一見して振出人や受取人の取引先と認めがたいような裏書人の記載があったり、個人が裏書人になっている場合には、その裏書き自体から流通経路の不自然さがある程度疑われる・京都地裁判決H13.12.6)
1)〜6)により譲渡人が無権利者ではないかと疑いが生じた場合に譲受人がとるべき行動に関する要因としては以下のとおりといわれております。
7) 譲渡人の身許を調査しなかったこと(大阪高裁判決S44.6.28等)
8) 譲渡人の手形の入手先を調査しなかったこと(東京高裁判決S47.4.14等)
9) 振出人、裏書人、支払担当銀行などに照会しなかったこと(東京高裁判決S49.7.19等)
10)譲受人が手形割引等を営む金融業者で実務経験が豊かであること(東京高裁判決S49.7.19等)

4. 結論
 最終的に重過失を認定する場合には、手形取引の安全保護からして、上記各要因のうちの複数の要因が集まることにより、譲渡人が無権利者である疑いが強くなり、譲受人に調査義務が生ずると解されることになります。
 いずれにしましても、手形を盗難されてしまった場合、さらに進んで手形訴訟を提起されてしまった場合にどのような対応をすればよいのか。上記各要件については、どのような立証方法をとるべきなのか、その他に、手形を盗難されてしまった場合に行うべき除権判決(手形と権利を切り離す手続)の申立方法等については、法律の専門家である弁護士に速やかに相談し対処することをお勧めいたします。

 この盗難手形の善意取得につきましても、遠慮なく当事務所にご相談下さい

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