御器谷法律事務所
現金自動支払機による預金の払戻
無権限者によりATM(現金自動入出機)から預金が払戻された場合に民法478条の適用があるか。
最高裁判所H15.4.8第三小法廷判決

1.事案の概要
 Xが駐車場に駐車してあった車両が盗まれ、ダッシュボードに入れてあった銀行通帳を使用されて何者かにY銀行のATMから801万円の預金の払戻がされてしまった。XがY銀行に対して、本件払戻が無効であるとして、801万円の返還請求訴訟を提起した事案。

2. 1,2審
(1) X敗訴。
(2) 理由:
 1) Y銀行のシステムは、4桁の暗証番号を用いており、偶然に一致する確率は一万分の一に過ぎない上、暗証番号の入力ミスが重なった場合には当該カードまたは通帳がATMに取り込まれることとされ、正しい暗証番号を探り当てることが困難な仕組みとなっていること。
 2) 暗証番号の届出書は、番号がホストコンピューターに登録されると直ちに廃棄され、また、カードや通帳にはデータは存在しないので、Y銀行から暗証番号が漏洩する可能性はほとんどないこと。
 3) Xが被害にあったのは、本件車両のナンバーを暗証番号にし、本件通帳を本件車両の中に放置したためであること。

3. 最高裁判所の判断
(1) 判決
 原判決を破棄、第一審判決を取り消す
 Xの請求認容
(2) 理由
 無権限者のした機械払いの方法による預金の払戻についても、民法478条の適用があるものと解すべきであり、これが非対面のものであることをもって同条の適用を否定すべきではない。
 債権の準占有者に対する機械払いの方法による預金の払戻につき銀行が無過失であるというためには、払戻の際に機械が正しく作動したことだけでなく、銀行において、預金者による暗証番号等の管理に遺漏がないようにさせるため当該機械払いの方法により預金の払戻が受けられる旨を預金者に明示すること等を含め、機械払いシステムの設置管理の全体について、可能な限度で無権限者による払戻を排除し得るよう注意義務を尽くしていたことを要するというべきである。
 機械払いの方法による払戻は、窓口における払戻の場合と異なり、銀行の係員が預金の払戻請求をする者の挙措、応答等を観察してその者の権限の有無を判断したり、必要に応じて確認措置を加えたりするということがなく、専ら使用された通帳等が真正なものであり、入力された暗証番号が届出番号と一致するものであることを機械的に確認することをもって払戻請求をする者が正当な権限を有するものと判定するものであって、真正な通帳等が使用され、正しい暗証番号が入力されさえすれば、当該行為をする者が誰であるのかは全く問われないものである。このように、機械払いにおいては弁済受領者の権限の判定が銀行側の組み立てたシステムにより機械的、形式的にされるものであることに照らすと、無権限者に払戻がされたことについて銀行が無過失であるというためには、払戻の時点において通帳等と暗証番号の確認が機械的に正しく行われたというだけでなく、機械払いシステムの利用者の過誤を減らし、預金者に暗証番号等の重要性を認識させることを含め、同システムが全体として、可能な限度で無権限者による払戻を排除し得るよう組み立てられ、運営されるものであることを要するというべきである。
 前記事実関係によれば、被上告人は、通帳機械払いのシステムを採用していたにもかかわらず、その旨をカード規定等に規定せず、預金者に対する明示を怠り(なお、記録によれば、被上告人においては、現金自動入出機の設置場所に「ATMご利用のお客様へ」と題する書面を掲示し、「当行の通帳・カードをご利用のお客様」の払戻手数料を表示していたことがうかがわれるが、これでは預金者に対する明示として十分とはいえない。)上告人は、通帳機械払いの方法により預金の払戻を受けられることを知らなかったというのである。
 無権限者による払戻を排除するためには、預金者に対し暗証番号、通帳等が機械払いに用いられるものであることを認識させ、その管理を十分に行わせる必要があることに鑑みると、通帳機械払いのシステムを採用する銀行がシステムの設置管理について注意義務を尽くしたというためには、通帳機械払いの方法により払戻が受けられる旨を預金規定等に規定して預金者に明示することを要するというべきであるから、被上告人は、通帳機械払いのシステムについて無権限者による払戻を排除し得るよう注意義務を尽くしていたということはできず、本件払戻について過失があったというべきである。
 もっとも、前記事実関係によれば、上告人は、本件暗証番号を本件車両の自動車登録番号の4桁の数字と同じ数字とし、かつ、本件通帳をダッシュボードに入れたまま本件車両を自宅近くの駐車場に駐車していたために、何者かにより本件通帳を本件車両毎盗まれ、本件暗証番号を推知され本件払戻がされたものと認められるから、本件払戻がされたことについては上告人にも帰責事由が存するというべきであるが、この程度の帰責事由をもって被上告人に過失があるとの前記判断を覆すには足りない。


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