御器谷法律事務所
偽造印鑑を使用した払戻しについて
銀行の業務担当者に過失があったとして、偽造印鑑を使用した普通預金の払戻しについて、民法478条による免責が否定された事例
東京高等裁判所 平成15年7月23日判決

 届出印鑑によって押捺されたものではない本件印影を届出印鑑による印影と判断した被控訴人の担当者の印鑑照合につき過失がなかったかどうかを判断するに、一般に、払戻請求書によって預金の払戻しが請求された場合、当該払戻請求書上の印影と届出印鑑の印影とを照合するに当たっては、銀行の担当者は、金融機関としての銀行の照合事務担当者に対して社会通念上一般に期待される業務上の相当の注意をもって慎重に行うことを要し、銀行の照合事務に習熟している銀行員がこのような相当の注意を払って熟視すれば肉眼を持っても発見し得るような印影の相違が看過されたときは当該担当者に過失があるものと解するのが相当である(最高裁判所昭和46年6月10日第一小法廷判決・民集25巻4号492頁参照)。
 かかる見地に立って本件をみるに、上記(2)で指摘した届出印影と本件印影の印影相互の相違は、そのすべてを朱肉の付き具合、押捺の際の力加減、用紙の違い、あるいは印象の経年変化等の理由だけで説明することは到底できないものであるといわなくてはならず、印影照合事務に習熟した者が相当の注意力をもってすれば、そのほとんどがいわゆる平面照合により十分確認することができるものであるといえるものである。特に、上記(2)の5)及び6)の「会社」、8)及び9)の「エン」、12)及び13)の「代表」などの文字は、必ずしも印影照合事務に習熟した者でなくとも、通常人が相当の注意力をもってすれば、その相違を認識できるものであるというべきものであり、これらは、本人確認の手続として重要な作業である印影照合事務を担当する金融機関の担当者としては、容易に見逃すことの許されない相違であるといわなくてはならない。
 したがって本件印影を届出印鑑によるものと判断した被控訴人の担当者には過失があるものというべきであり、被控訴人の担当者が本件払戻請求者を正当な権利を有する者と信じたとしても、そのことに過失がなかったものということはできないから、本件払戻しは、債権の準占有者への弁済として有効とはいえず、控訴人の預金債権を消滅させ得るものではない。


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