御器谷法律事務所

東京地方裁判所 平成16年3月31日判決
LPガス差別対価販売等差止請求事件

(第1、第2事件につき、いずれも請求棄却)

第1事件
 ところで、自己の商品・役務をどのような価格で販売するかは、商品・役務の品質決定とともに、本来的には、市場における需要動向、自らの生産性、同業者の価格設定等を踏まえた当該事業者の自由な販売戦略に委ねられているものであり、このような個々の事業者の活動を通じて市場における競争の活性化がもたらされ、消費者利益の増大が図られるものと解される。そうすると、以上のような価格を通じた業者間の能率競争を確保するとの法の趣旨に鑑みるならば、売り手段階における差別対価が公正競争を阻害するものであるか否かは、結局のところ、当該売り手が自らと同等あるいはそれ以上に効率的な業者が市場において立ち行かなくなるような価格政策を採っているかどうかにより判断されることとなるものと解するべきである。そして、このような公正競争阻害性の認定に当たっては、市場の動向、供給コストの差、当該小売業者の市場における支配力、価格差を設けた主観的意図等を総合的に勘案することとなるが、市場において価格差が存在することは、業者間の能率競争が行われていることや市場における需給調整が機能していることの現れとみることができるから、同一業者の供給する商品・役務に存在する価格差が不当廉売を含むものであることが明らかな場合は格別、本件のように原価割れでないことが当事者間に争いがなく、また原告らが不当廉売を主張していない事案においては、小売業者による需要の動向や供給コストの差に応じた価格決定を萎縮させ、価格の硬直化と市場の需給調整力の減衰を招くことのないように慎重に行う必要がある。

地域的な販売価格の差の公正競争阻害性について
 これまで述べたところによれば、(1)LPガス市場自体が平成九年の法改正の影響及び都市ガスとの競合などにより価格競争が進展してきていること、(2)LPガス供給契約は、顧客が比較的自由に解約でき、また現に解約が行われていること、(3)被告トーカイは、静岡市を本拠地とするLPガス販売業者であり、LPガスのエンドユーザーである需要家との契約件数は静岡県において第一位となっているが、そのシェアは約八・七パーセントであり、他にも多数の小売業者が存在しており、静岡県においてLPガスの小売業者が新規参入を阻まれているという事実は認められないこと、(4)静岡県は都市ガスの普及率が首都圏と比較して低く、またLPガスの価格競争が首都圏に遅れて進展してきていることから、LPガスの小売価格は首都圏に比較して高止まりしているが、被告トーカイの販売価格である一〇立方メートル当たり五七〇〇円を下回る一〇立方メートル当たり四三〇〇円やそれ以下の価格で販売する小売業者も現れてきていること、(5)東京都、神奈川県、埼玉県及び千葉県における被告トーカイのLPガスのエンドユーザーである需要家戸数に占めるシェアは静岡県ほど高くなく、数パーセントにとどまるものと推認されるところ、これらの地域においても多数のLPガスの小売業者が存在していること、(6)東京都、神奈川県、埼玉県及び千葉県においては、都市ガスの普及率が静岡県と比較して高く、またLPガスの平均使用量が高く、密度の高い顧客集積が見られることから、価格競争が激化してきており、被告トーカイの販売価格である一〇立方メートル当たり四三〇〇円を下回る価格で販売する安売業者も存在すること、(7)被告トーカイの一〇立方メートル当たり四三〇〇円の販売価格は原価割れではなく、コスト削減努力の結果によるものであり、他の事業部門からの利益上乗せによるものではないことが指摘できる。
 そして、これらによれば、本件における静岡県と、東京都、神奈川県、埼玉県及び千葉県における販売価格の差は、市場の競争状況及び供給コストの違いを反映するものと推認することができ、本件価格差は本来非効率的な業者が自らと同程度に効率的な業者を排除するために能力を超えた価格設定を行っているものとは認められない。
 よって、被告トーカイの地域的な価格差が競争減殺効果を持つと認めることはできず、公正競争阻害性は認められない。

相手方による販売価格の差の公正競争阻害性について
 (1)東京都、神奈川県、埼玉県及び千葉県においては、多数のLPガス販売業者が存在し、その中における被告トーカイのシェアも数パーセントにとどまり、市場において価格競争がなされていること、(2)顧客は比較的自由に契約を解約して他の業者と契約することができるから、被告トーカイが同一市場において一般家庭顧客用のLPガスの販売価格に差を設けても、それに合理的な理由がなければ、顧客は被告トーカイとの間の契約を解約して、他の業者と契約することが可能であると考えられる。そうだとすると、被告トーカイの販売価格の差については、市場における競争状況あるいは供給コストの差を反映したものであると推認され、このような推認を覆して競争減殺効果が生じていると認めるに足りる証拠はない。

 以上によると、被告トータルの一〇立方メートル当たり四三〇〇円という価格設定が不当な差別対価に当たると認めることはできないから、この価格による被告トータルの販売活動や営業活動を差し止める必要はないことになる。

第2事件
本件価格設定の公正競争阻害性について
 (1)LPガス市場自体が平成七年の規制緩和の影響及び都市ガスとの競合などにより価格競争が進展してきていること、(2)LPガス市場において新規参入に格段の規制ないし障害があるわけではないこと、(3)本件で問題となる東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県においても多数のLPガス事業者が存在し、被告の標準価格を下回る価格による販売も行われていること、(4)被告の上記市場におけるLPガス販売のシェアは数パーセントにとどまること、(5)被告の標準価格は総販売原価を下回ることを認めるに足りる証拠はないこと、(6)被告の標準価格は新規顧客に対する一般的価格であり、既存業者からの切替用に設定されているものではないこと、(7)LPガス供給契約は、小規模導管供給のように設備投資を伴う場合以外は、顧客が比較的自由に解約でき、また現に解約が行われていることを指摘することができる。そして、これらによれば、本件における既存顧客と新規顧客との間の販売価格の差は、LPガス市場に競争原理が導入され、全体として安値に移行する過程において、市場の競争状況の違い及び供給コストの差(設備投資の負担等)を反映するものと推認することができ、本件価格差は本来非効率的な業者が自らと同程度に効率的な業者を排除するために能力を超えた価格設定を行っているものとは認められない。

 以上によれば、被告の価格設定行為には公正競争阻害性を認めることはできないというべきである。


執務の方針| 弁護士のプロフィール| 取扱事件 | ご案内 顧問契約 |

弁護士費用 | 事務所案内図 | リンク| トップ