御器谷法律事務所
  
  M商事国際カルテル株主代表訴訟

M商事はアメリカにおいて国際カルテルのため罰金1億3400万ドル、民事訴訟和解金4500万ドルを支払った。M商事の株主が当時のM商事の取締役、監査役に対して2億ドル弱の損害の賠償を請求したが、請求棄却された事案。
東京地方裁判所 平成16年5月20日判決

1. 補助参加人(M商事)による本件国際カルテルへの組織的関与の有無
結論: 本件において、補助参加人による本件カルテルの組織的関与を認めるに足りる証拠はないものというべきである。
理由: 本件刑事裁判において、裁判官は、陪審の二度の求めに応じて、会社が刑事責任を負うためには、従業員又は代理人が、同人の雇用上の業務の範囲内か表見的権限(apparent authority)の範囲内において、会社に資する目的で違法行為をしたことが必要であり、表見的権限内の行為とは、会社の外部の者が、行為者の会社における地位、以前付与された責務及び過去の行為を取り巻く背景から判断して、当該行為者の権限の範囲内であろうと合理的に信ずることができるような行為をいうとの説示をしており、補助参加人が本件カルテルを教唆・幇助したとの起訴事実について有罪とする陪審評決が、誰のいかなる行為をもって補助参加人の違法行為と認めたのか、これについて補助参加人の組織的関与を認めたのか、あるいは表見的責任を認めたにすぎないのかは不明であるといわざるを得ない。
既に認定した補助参加人のUCAR事業への参加から撤退に至る一連の経過によれば、(1)補助参加人は、当初、UCAR株式を長期間保有し、UCCとのパートナーシップによりUCAR事業から中長期的な利益を獲得することを企図してUCAR事業へ参加したところ、UCARのCEOのクラス及びこれを支持するUCCの抵抗にあってUCARの経営へ十分参画できなかったことから、被告AがUCAR事業を再検討し、平成四年夏以降、UCAR株式を売却するとの方針転換を行ったものであるが、仮に補助参加人が本件カルテルの形成に関わっていたのならば、カルテルによる価格引上げにより中長期的な利益の獲得が見込まれる状況となっていたのに、かかる方針転換を行うことは不合理であること、(2)補助参加人は、平成四年夏以降平成六年初めにかけて、UCCに対して再三申入れを行うなどクラスの更迭を画策しているが、仮に補助参加人が本件カルテルに関与していたならば、カルテルの維持や秘密の保持の観点から本件カルテルの中心人物であったクラスの更迭をちゅうちょするはずであること、(3)補助参加人は、UCAR株式をブラックストーンに売却した際、UCAR株主は法令に違反していない旨の表明保証をしていること、(4)補助参加人は、本件カルテルの継続中に、しかもレベレイジド・リキャピタライゼーション方式によれば、本来一定比率の株式を留保しなければならないにもかかわらず、保有する株式の全てを売却しており、他方、UCCは、補助参加人のUCAR株式売却後に同株式の上場による巨額のキャピタルゲインを獲得していること、(5)黒鉛電極価格の上昇や日本における黒鉛電極の生産の減少は、仲介取引による補助参加人のコミッションを減少させるにもかかわらず、補助参加人は手数料引上げ等のコミッション減少に対する対策を講じていなかったことなど、補助参加人が本件カルテルに関与し、あるいはその存在を知っていたこととは相矛盾する事情が指摘される。

2. 被告らの監査義務違反の有無
被告らの善管注意義務違反においては、Bに対する監督義務違反が問題となると考えられる。しかるところ、原告らは、本件カルテルの期間内に補助参加人の取締役あるいは監査役に在任していた者及びその相続人を網羅的に被告として本件訴訟を提起し、各被告の業務分担や担当部署を全く無視して、専ら取締役あるいは監査役であったことのみを根拠として善管注意義務違反を主張しており、当裁判所が再三にわたり、被告らの善管注意義務違反の内容を、その根拠となる違法行為の予見可能性及び回避可能性を具体的に特定して主張するよう釈明したにもかかわらず、これに応じようとしないことから、被告らの大多数及びその相続人らとの関係では、そもそも主張自体が失当であるというべきである。
担当役員の監査責任について
米国連邦裁判所での刑事裁判において、Bは本件カルテルへの関与を補助参加人に秘匿していた旨証言し、またメーカー側は本件カルテルの存在を商社である補助参加人に隠していたとの証拠が提出されているところ、(1)本件カルテルの存在は製品価格の上昇と販売量の減少により補助参加人の本来の商社ビジネスと利益相反する側面を有すること、(2)クラスはUCARの経営情報が補助参加人に伝播するのを避けるため厳しい情報統制を行い、補助参加人からUCARへの出向者がいずれも冷遇される中、Bのみがクラスの信頼を得ていたこと、(3)Bはクラスとの関係が良好であったことこら、補助参加人のUCAR事業部長に昇進し、その後炭素事業部長になっていること、(4)Bは、昭和五五年ころから黒鉛電極業界における長い職歴を有し、東海カーボンとの付き合いも強く、第二回ロンドン会議には東海カーボンの社長に同行して出席しており、さらに補助参加人を休職し退職後、補助参加人のあっせんではなく、自らの人脈により東海カーボンに再就職して取締役、執行役員となっていることなどからすると、Bは、個人的動機により本件カルテルに関与し、そのことを補助参加人に内密にしていたことが推認される。さらに、商社の担当部長が、メーカーのトップの外国出張に同行することやメーカーとの間の会合を設営することは不自然なことではなく、黒鉛電極価格の上昇についても、補助参加人としてはUCAR投資の当初から予想されていたことであり、また、合理的に説明できる要因が存在していたことが認められる。

3. 補助参加人(M商事)の法令遵守体制構築義務違反の有無
 Y補助参加人は、(1)各種業務マニュアルの制定、(2)法務部門の充実、(3)従業員に対する法令遵守教育の実施など、北米に進出する企業として、独占禁止法の遵守を含めた法令遵守体制をひととおり構築していたことが認められる。
 しかるところ、原告らは、補助参加人内部の法令遵守体制の構築義務の不履行を抽象的に指摘するのみであり、補助参加人の被告らに対する補助参加により、補助参加人の法令遵守体制に関する証拠資料が多数提出されたにもかかわらず、(1)補助参加人の法令遵守体制についての具体的な不備、(2)本来構築されるべき体制の具体的な内容、(3)これを構築することによる本件結果(Bによる本件カルテルの関与)の回避可能性について何らの具体的主張を行わないから、原告らの主張はそもそも主張自体失当であると評価し得るものである。

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