御器谷法律事務所

宮入バルブ新株発行差止申立事件決定
新株の発行価額が「特ニ有利ナル発行価額」に該当し、株主総会の特別決議を経ないで行われた場合、商法二八〇条ノ二第二項に違反するものとして、新株発行の差止めが認められた事例
東京地方裁判所 平成16年6月1日決定

1. 被保全権利
 商法二八〇条ノ二第二項にいう「特ニ有利ナル発行価額」とは、公正な発行価額よりも特に低い価額をいうところ、株式会社が普通株式を発行し、当該株式が証券取引所に上場され証券市場において流通している場合において、新株の公正な発行価額は、旧株主の利益を保護する観点から本来は旧株の時価と等しくなければならないが、新株を消化し資本調達の目的を達成する見地からは、原則として発行価額を時価より多少引き下げる必要もある。そこで、この場合における公正な発行価額は、発行価額決定前の当該会社の株式価格、上記株価の騰落習性、売買出来高の実績、会社の資産状態、収益状態、配当状況、発行済株式数、新たに発行される株式数、株式市況の動向、これらから予測される新株の消化可能性等の諸事情を総合し、旧株主の利益と会社が有利な資本調達を実現するという利益との調和の中に求められるべきものである。もっとも、上記の公正な発行価額の趣旨に照らすと、公正な発行価額というには、その価額が、原則として、発行価額決定直前の株価に近接していることが必要であると解すべきである(最高裁判所昭和五〇年四月八日第三小法廷判決・民集二九巻四号三五〇頁参照)。
 本件において、公正な発行価額を決定するに当たって、本件新株発行決議の直前日である平成一六年五月一七日の株価、又は本件新株発行決議以前の相当期間内における株価を排除すべき理由は見出しがたい。
 以上によれば、本件発行価額三九三円は、公正な発行価額より特に低い価額すなわち「特ニ有利ナル発行価額」といわざるを得ず、商法三四三条の特別決議を経ないで行われた本件新株発行は、商法二八〇条ノ二第二項に違反するというべきである。 
 そして、本件新株発行が行われた場合、既存株主が株価下落による不利益を被ることは明らかであり、債権者らは、債務者に対して商法二八〇条ノ一〇に基づく本件新株発行の差止請求権を有する。

2. 保全の必要性
 本件新株発行決定時の株価と本件発行価額との差額の程度及び従前の発行済株式総数一六三〇万株に対し本件新株発行に係る発行予定総数が七七〇万株であるというその数量にかんがみると、既存株主の被る不利益は極めて重大なものであるから、著しい損害を被るおそれを認めることができる。
 そして、本件新株発行の払込期日は、平成一六年六月三日と定められていて間近に迫っているところ、その期日が到来し、引受人が払込みをして本件新株発行の効力が生じた場合、その後は商法二八〇条ノ一〇に基づく差止請求権それ自体が無意味なものとなるだけでなく、商法三四三条所定の特別決議を経ないで株主以外の者に特に有利なる発行価額をもって新株を発行したことは、新株発行無効の訴え(商法二八〇条ノ一五)における無効原因とならないと解されるから、本件新株発行の手続を差し止めるについての保全の必要性も認めることができる。

<参考・日本証券業協会の自主ルール>
 第三者割当増資の取り扱いに関する指針
「発行価額は、当該増資に係る取締役会決議の直前日の価額(直前日における売買がない場合は、当該直前日からさかのぼった直近日)に0.9を乗じた額以上の価額であること。ただし、直近日又は直近日までの価額又は売買高の状況等を勘案し、当該決議の日から発行価額を決定するために適当な期間(最長6ヶ月)をさかのぼった日から当該決議の直前日までの間の平均の価額に0.9を乗じた額以上の価額とすることができる」


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