御器谷法律事務所
東京地方裁判所 平成16年8月17日判決(棄却(控訴))
 特許権侵害行為の主体、特許権侵害の教唆・幇助者に対する差止請求の可否につき、判断した事案

《事案の概要》

 原告は、マンホール等の道路の占有物の維持修繕工事に関する技術開発及び工事を業とする株式会社である。
 被告は、マンホール鉄蓋交換工法であるMR2工法に関する技術の研究、改良、開発を行い、開発された技術の普及及び啓蒙により下水道事業等の発展に関与するとともに、会員の地位向上を図ることを目的として設立された権利能力なき社団である。
 本件は、特許権者である原告(発明の名称:切削オーバーレイ工法)が、被告に対し、1) MR2AB工法が本件発明の技術的範囲に属し、被告の行為が本件特許権を侵害するなどと主張して、本件特許権に基づき、MR2AB工法の実施の申出及びパンフレットの配布の差止め、ホームページからの削除の申請並びに謝罪広告の掲載を請求するとともに、2) 本件訴訟に係る損害(弁護士費用)及び遅延損害金の支払を請求する事案である。 
  
《原告の主張》
(1) 被告自らの実施
 被告は、MR2AB工法について、宣伝パンフレットを官公庁等の道路管理者及びマンホールを道路に設置している道路占有企業者等に配布し、NETISに登録申請してインターネットにより流布している。
 本件発明は、道路舗装工事及びマンホール工事の工程によって舗装道路を完成させるものであるから、物を生産する方法の発明に該当するところ、被告の上記行為は、いずれも発注者に対しかかる方法を使用して完成させた舗装道路をその本来の目的に供しうる状態で引き渡す旨を申し出ているものであって、当該方法により生産した物の譲渡等の申出に該当する。

(2) 被告の会員との共同行為
 被告は、MR2AB工法を開発して会員を募り、会員に技術を開示するなどとともに、同工法の普及活動を行い、会員から実施料を徴収している。また、被告は、会員を代表して発注者にMR2AB工法の採用要請活動を行い、会員を推薦するほか、会員が共通して利用できるパンフレット、施工マニュアルを作成したり、同工法の長所を示すために独自に実験データ等の整備をする必要がない。被告は、発注者からの要望を受ける窓口であるとともに、品質管理の責任者であり、被告の認定なくMR2AB工法を実施することはできない。
 このような被告と会員の関係によれば、前記(1) の被告の実施の申出行為は、被告の会員の施工行為と不可分一体の共同行為である。

(3) 会員の実施行為の教唆・幇助
 また、そうでないとしても、被告は、少なくとも、発注者に対する宣伝、技術水準の定立、技術管理者の資格の付与等によって、実際のMR2AB工法の施工を行う会員に対して同工法の実施を幇助又は教唆しており、これにより会員との共同不法行為が成立する。

《裁判所の判断》
(1) 被告自らの実施について
 本件発明は、マンホール枠を含む舗装の切削オーバーレイ工法における複数の工程からなる工法であって、物の生産を伴うとはいえないことが明らかであるから、方法の発明であって、物を生産する方法の発明には該当しない。
 本件発明は方法の発明であるから、その実施とは本件発明に係る方法の使用をする行為をいうものであり(同法二条三項二号)、したがって、本件特許権の侵害に当たるのは、本件発明に係る方法の使用をする行為及び特許法101条3号、4号に該当する行為に限られる。
 仮に、MR2AB工法が本件発明の技術的範囲に属するとしても、被告がMR2AB工法を使用したことも特許法101条3号、4号に該当する行為をしたことも認めるに足りる証拠はなく、MR2AB工法のパンフレットの配布やNETISへの登録申請行為をもって本件発明の実施に当たるとはいえないことは明らかである。

(2) 被告の会員との共同行為について
 弁論の全趣旨によれば、被告の事業は、工法の開発、改良等や技術資料、マニュアル等の作成、研修の実施、普及・啓蒙活動であることが認められ、実際のMR2AB工法を施工する主体は、あくまで被告の会員であって、被告が自らMR2AB工法を施工する主体であるということは困難である。
 このように、MR2AB工法を使用して実際の施工を行う主体は被告の会員であり、被告の業務は工法の開発、改良等や技術資料、マニュアルの作成、研修の実施、普及・啓蒙活動という、会員を補助する役割にとどまっているものであるから、被告のパンフレットの配布やNETISへの登録申請行為をもって会員の施工行為と不可分一体であるということはできない。なお、仮に被告が会員と特許権侵害を共同で行っているとしても、差し止めるべき対象は、本件発明に係る方法を使用する行為をする者の当該使用行為であって、被告のMR2AB工法の実施の申出やパンフレットの配布等の行為を差し止めるべき法律上の根拠はない。

(3) 会員の実施行為の教唆・幇助について
 しかしながら、特許法100条は、特許権を侵害する者等に対し侵害の停止又は予防を請求することを認めているが、同条にいう特許権を侵害する者又は侵害をするおそれがある者とは、自ら特許発明の実施(特許法2条3項)又は同法101条所定の行為を行う者又はそのおそれがある者をいい、それ以外の教唆又は幇助する者を含まないと解するのが相当である。
 特許権侵害の幇助行為の一部の類型について侵害行為とみなして差止めを認めるものであるところ、幇助行為一般について差止めが認められると解するときは同条を創設した趣旨を没却するものとなるからである。
 そうすると、被告の前記行為が本件発明の実施及び特許法101条所定の行為に該当しない以上、仮に被告の行為が会員の施工行為を教唆又は幇助するものであったとしても、被告の上記行為の差止めを求めることは許されないというべきである。

《結論》
 原告の請求をいずれも棄却

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