御器谷法律事務所

商 事 事 件
  最高裁判所 平成17年2月15日判決

【判決要旨】
  1. 株主総会の決議を経ずに支払われた役員報酬につき、事後に株主総会の決議を経た場合でも当該支払いの効力を適法、有効とした事例
  2. 株主総会の決議を経ずに役員報酬が支払われたことを理由として賠償を求める株主代表訴訟において、被告とされた役員らが当該報酬につき同訴訟提起後に株主総会の決議を経たことを主張しても信義則に反しないとした事例

【事案の概要】
 平成7年9月に設立された食料品の販売及び飲食店の経営等を業とする会社において、株主が、会社は設立時から平成12年6月までの間に、会社の定款、商法269条、279条1項に違反して株主総会の決議を経ることなく取締役及び監査役に報酬名下に合計5850万円を支払ったとして、取締役及び監査役Y1〜Y5の5名に対し、役員報酬相当額を連帯して賠償するよう株主代表訴訟を提起した。

【原審の判断】
(1) 株主総会において、役員報酬を過去にさかのぼって支給することを決議することも禁止されるものではなく、本件決議が商法269条、279条1項に違反するということはできず、無効ということもできない。また、本件決議に対する上告人らの株主権の行使が信義則に反し、権利の濫用であるということもできない。
(2) 本件決議は、本件役員報酬に係る取締役会の報酬支払決定に根拠を与え、本件訴訟における有効な攻撃防御方法となることを意図して、本件訴訟を上告人らの勝訴に導くためにされたものであって、訴訟上の信義に著しく反するから、上告人らが本件決議の存在を主張することは許されない。
(3) 上告人Y5を除くその余の上告人らは、本件会社の設立以来、取締役として、株主総会の決議に基づかずに、各年度の役員報酬の金額及び支払を取締役会において決定した点において、法令に違反する行為をしたものである。また、上告人Y5も、平成10年3月までは、監査役として、株主総会の決議に基づかないで役員報酬が支払われたにもかかわらず、決算報告が適法かつ正確であるとの監査結果を本件会社に報告した点において、その任務を怠り、取締役に就任後は、その余の上告人らと共に役員報酬の支払を決定した点において、法令に違反する行為をしたものというべきである。そして、本件決議は、取締役の責任を免除する決議ではないから、本件決議がされたことによっても、上告人らが上記の法令違反行為をしたことによって本件会社が本件役員報酬相当額の損害を被っていることは明らかである。

【判決抜粋】
 原審の上記3(1)の判断は是認することができるが、同(2)及び(3)の判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
 商法269条、279条1項が、株式会社の取締役及び監査役の報酬について、定款にその額の定めがないときは、株主総会の決議によって定めると規定している趣旨目的は、取締役の報酬にあっては、取締役ないし取締役会によるいわゆるお手盛りの弊害を防止し、監査役の報酬にあっては、監査役の独立性を保持し、さらに、双方を通じて、役員報酬の額の決定を株主の自主的な判断にゆだねるところにあると解される。そして、株主総会の決議を経ずに役員報酬が支払われた場合であっても、これについて後に株主総会の決議を経ることにより、事後的にせよ上記の規定の趣旨目的は達せられるものということができるから、当該決議の内容等に照らして上記規定の趣旨目的を没却するような特段の事情があると認められない限り、当該役員報酬の支払は株主総会の決議に基づく適法有効なものになるというべきである。そして、上記特段の事情の存在することがうかがえない本件においては、本件決議がされたことにより、本件役員報酬の支払は適法有効なものになったというべきである。
 このように、本件会社の株主総会において、本件決議により既に支払済みの本件役員報酬の支払を適法有効なものとすることが許される以上、本件決議に本件訴訟を上告人らの勝訴に導く意図が認められるとしても、それだけでは上告人らにおいて本件決議の存在を主張することが訴訟上の信義に反すると解することはできず、他に上告人らが本件決議の存在を主張することが訴訟上の信義に反すると認められるような事情はうかがわれない。また、本件役員報酬の支払は、本件決議がされたことによって適法なものとなるのであるから、取締役の責任を免除する株主総会の決議の対象とはならないし、本件会社が本件役員報酬相当額の損害を被っていることにもならない。
 以上と異なる原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、以上に説示したところによれば、被上告人の請求はいずれも理由がなく、これを棄却した第1審判決は正当であるから、被上告人の控訴を棄却すべきである。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。



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