御器谷法律事務所
最高裁判所 平成17年7月14日判決
(1) 証券取引における適合性原則違反の行為について不法行為が成立しうるとした最高裁判所の初判断
(2) オプションの売り取引の勧誘行為が適合性原則に違反するものであったとはいえないとして不法行為の成立が否定された事例

1. 事案の概要
 Aは、Bに資金を預託し、Bに委託して行う証券取引を行ったが、オプションの売り取引などによって損失を被ったため、BのAに対するオプション取引の勧誘行為は適合性原則違反の行為であったなどと主張して、Bに対し不法行為に基づく損害賠償を求めた事案である。

2. 原審(東京高判平15.4.22)
 原判決は、オプションの売り取引一般について、無限大に近い大きな損失を被る危険性があるという同取引のリスクを限定・回避するための知識、経験、能力を有しない顧客にこれを勧めて行わせることは、特段の事情のない限り、適合性の原則に違反する違法な行為となるとしたうえで、本件Aは、通常の証券取引に関しては十分な知識と能力を有していたと認められるものの、オプションの売り取引について十分な知識と能力を有していたとは認められないとして、BのAに対するオプションの売り取引の勧誘行為の適合性原則違反を認め、Bの不法行為責任を肯定した。

3. 判旨(破棄差戻)
(1)「平成10年法律第107号による改正前の証券取引法54条1項1号、2号及び証券会社の健全性の準則等に関する省令(昭和40年大蔵省令第60号)8条5号は、業務停止命令等の行政処分の前提要件としてではあるが、証券会社が、顧客の知識、経験及び財産の状況に照らして不適当と認められる勧誘を行って投資者の保護に欠けることとならないように業務を営まなければならないとの趣旨を規定し、もって適合性の原則を定める(現行法の43条1号参照)。」これは、「直接には、公法上の業務規制…という位置付けのものではあるが、証券会社の担当者が、顧客の意向と実情に反して、明らかに過大な危険を伴う取引を積極的に勧誘するなど、適合性の原則から著しく逸脱した証券取引の勧誘をしてこれを行わせたときは、当該行為は不法行為法上も違法となると解するのが相当である。」
(2) 本件で問題となっている日経平均株価オプション取引は、いわゆるデリバティブ取引の中でも、より専門性の高い有価証券店頭オプション取引などとは異なり、広く投資者が取引に参加することを予定するものであり、証券取引法の法意に鑑みても、このような商品について、当然に一般投資家の適合性を否定すべきではない。
 このような日経平均株価オプション取引の商品特性を踏まえつつ、Aの側の投資経験、証券取引の知識、投資意向、財産状態等をみるに、ア) Aは、20億円以上の資金を有し、その相当部分を積極的に投資運用する方針を有していたこと、イ) Aの専務取締役は、昭和59年9月に本件取引に係る証券取引を開始してから、本件オプション売り取引を行った平成3年2月までの6年半の間に、数種類の証券取引を毎年数百億円規模で行い、証券取引に関する経験と知識を蓄積していたこと、ウ) 最初のオプションの売り取引を行うに際し、損失が1000万円を超えたら取引をやめるという方針を立ててこれを実行するなど、自律的なリスク管理を行っていること、エ)大きな損失の原因となった期末にオプションを大量に売り建てるという手法は、決算対策を意図するAの側の事情により行われたものであること等が明らかである。
「これらの事情を総合すれば、Aが、およそオプションの売り取引を自己責任で行う適性を欠き、取引市場から排除されるべきものであったとはいえないというべきである。そうすると、旧野村證券の担当者…において、Aにオプションの売り取引を勧誘して3回目及び4回目のオプション取引を行わせた行為が、適合性の原則から著しく逸脱するものであったということはできず、この点についてBの不法行為責任を認めることはできない。」


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