御器谷法律事務所
大阪高等裁判所 平成16年10月15日中間判決
特許侵害差止の仮処分執行と、その後の特許無効審決確定による損害賠償請求の可否

 仮処分命令が被保全権利の不存在を理由に取り消された場合において、同命令を得てこれを執行したことにつき債権者に故意又は過失があったときは、債権者は民法七〇九条により債務者がその執行によって受けた損害を賠償すべき義務があり、一般に仮処分命令が異議もしくは上訴手続において取り消され、あるいは本案訴訟において債権者敗訴の判決が言い渡され、その判決が確定した場合には、他に特段の事情のないかぎり、当該債権者には過失があったものと推定すべきではあるが、当該債権者において、その挙に出るについて相当な事由があった場合には、上記取消しの一事をもって同人に当然過失があったということはできないというべきである(最高裁判所第三小法廷昭和四三年一二月二四日判決・民集二二巻一三号三四二八頁参照)。
 このことは、特許権に基づく差止請求権を被保全権利とする仮処分命令が発令され、その執行がされた後に、当該特許を無効とする旨の審決が確定した場合においても同様であると解するのが相当である。
 確かに、特許権に基づく差止請求権を被保全権利とする仮処分は、被保全権利である特許権が特許庁審査官による特許出願の審査及び特許査定を経て設定登録されたものであるし、進歩性の有無に関する判断は、一般に、当該特許発明、引用発明及び上記両発明の対比による一致点・相違点の認定のほかに、これを基礎として、出願前に当業者が当該特許発明に容易に到達することができたか否かという評価が入るため、専門的、技術的知識を要する困難かつ微妙な判断であることが多いということからすれば、特許権が進歩性を欠くという理由で無効審決の確定により無効になったからといって、債権者に過失があったものと推定することは、酷に失するという余地もないではない。
 しかし、一方において、製造販売差止めの仮処分が執行された場合には、債務者は、営業上及び信用上、極めて深刻な打撃や影響を受けることも珍しくない(特に、対象製品が債務者の主力製品であったときは、債務者が倒産に至ることすら考えられる。)ことを考慮すれば、特許権が特許庁審査官の審査及び査定を経て設定登録されたものであるとか、進歩性の有無に関する判断が困難かつ微妙なものであることが多いなどという一般的、抽象的な事情をもって債権者の過失を否定することは、当事者間の衡平を失するものであり、相当ではないといわざるを得ない。


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