御器谷法律事務所

被告人が公判において公訴事実を否認する供述をしたにも関わらず弁護人が有罪を基調とする最終弁論をした場合に裁判所がそのまま審理を終結することは訴訟手続の法令違反となるか

(最高裁判所 平成17年11月29日第3小法廷決定)

(公訴事実)
 被告人は,A,Bらと共謀のうえ,殺意をもって,ロープで被害者の頸部を絞め付け,拳銃で弾丸一発を発射してその身体に命中させ,同人を殺害した。

(被告人の主張)
 第1回公判期日から第5回公判期日までは,被告人が被害者の頸部に巻かれたロープの一端を引っ張った事実はあるが,その際殺意はなく,殺害についての共謀もなかった旨の主張,供述をしていた。
 しかし、第6回公判期日および第7回公判期日に至って,全面的に否認する旨主張、供述した。
 第8回公判期日の最終弁論後の最終意見陳述では、公訴事実を否認する点については明確に述べず,「被害者には,自分でやっちゃったことですから,どんなことをしても一生重荷を背負って墓の中まで持っていかなきゃならないものだというふうに思っています。誠に悪いことをしたと思っております。」などと述べ,弁護人の最終弁論に対する不服は述べていない。

(弁護人の最終弁論)
(1) 捜査段階における被告人の供述は,任意性に問題はなく,信用性も認められる。
(2) 被告人がBをかばって自らなしていない殺害行為等を認めていたとの第7回公判期日における被告人の供述には明らかに無理がある。
(3) 被告人が認め、供述しているようなロープを力いっぱい引っ張った事実について,弁護人が法的評価,裁判所の認定として被告人に殺意なしとは到底言えない。
 他方,被告人は,自ら明確な殺意は終始持たなかったことを、心情として「殺意なし」と強調しているものである。
(4) 被告人は,ロープを引っ張った瞬間まで全く殺意がなかったし、ABらがそれより前の時点で殺意を抱くに至ったことは知らなかった。これらの事実に反するBの供述は不正確ないしいい加減と思われる部分がある。

(判旨)
 上告棄却
 「公訴事実について全面的に否認する被告人の第6回公判期日以降の主張、供述と本件最終弁論の基調となる主張には大きな隔たりが見られる。しかし、弁護人は,被告人が捜査段階から被害者の頸部に巻かれたロープの一端を引っ張った旨を具体的,詳細に述べ,第一審公判の終盤に至るまでその供述を維持していたことなどの証拠関係,審理経過を踏まえた上で,その中で被告人に最大限有利な認定がなされることを企図した主張をしたものと見ることができる。また、弁護人は,被告人が供述を翻した後の第7回公判期日の供述も信用性の高い部分を含むものであって,十分検討してもらいたい旨を述べたり,被害者の死体が発見されていないという本件の証拠関係に由来する事実認定上の問題点を指摘するなどもしている。なお、被告人本人も,最終意見陳述の段階では,殺人,死体遺棄の公訴事実を否認する点について明確に述べないという態度を取っている上,本件最終弁論に対する不服を述べていない。
 以上によれば,第一審の訴訟手続に法令違反があるとは認められない。」

(補足意見)
 「違法があるとされるのは,当該主張が,専ら被告人を糾弾する目的でなされたとみられるなど,当事者主義の訴訟構造の下において検察官と対峙し被告人を防御すべき弁護人の基本的立場と相いれないような場合に限られる」
 「本件最終弁論は,証拠関係,審理経過,弁論内容の全体等から見て,被告人の利益を実質的に図る意図があるものと認められ,弁護人の前記基本的立場と相いれないようなものではなく,前記のような違法がないことは明らかというべきである。」


執務の方針| 弁護士のプロフィール| 取扱事件 | ご案内 顧問契約 |

弁護士費用 | 事務所案内図 | リンク| トップ