御器谷法律事務所
最高裁判所(第一小法廷) 平成18年2月23日判決
所有者の自らこれに積極的に関与した場合やこれを知りながらあえて放置した場合と同視し得るほど重い帰責性に基づき、不実の所有権移転登記がされた場合に民法九四条二項、一一〇条を類推適用すべきものとされた事例

1. 事案の概要
 Xは、その所有する不動産(本件不動産)の賃貸に係る事務等をA山に任せていたところ、A山は、Xから預かっていた登記済証、Xから交付を受けた印鑑登録証明書及びXの実印を押捺した登記申請書を利用して、Xに無断で本件不動産につきXからA山に対する所有権移転登記をした上、これをYに売却してその旨の所有権移転登記(本件登記)をした。本件は、Xが、本件不動産の所有権に基づき、Yに対し、本件登記の抹消登記手続を求めた事案である。
 
2. 判決主文
 本件上告を棄却する。
 上告費用は上告人の負担とする。

3. 理由
 確定事実によれば、上告人は、A山に対し、本件不動産の賃貸に係る事務及び七三七一番四の土地についての所有権移転登記等の手続を任せていたのであるが、そのために必要であるとは考えられない本件不動産の登記済証を合理的な理由もないのにA山に預けて数か月間にわたってこれを放置し、A山から七三七一番四の土地の登記手続に必要と言われて二回にわたって印鑑登録証明書四通をA山に交付し、本件不動産を売却する意思がないのにA山の言うままに本件売買契約書に署名押印するなど、A山によって本件不動産がほしいままに処分されかねない状況を生じさせていたにもかかわらず、これを顧みることなく、さらに、本件登記がされた平成一二年二月一日には、A山の言うままに実印を渡し、A山が上告人の面前でこれを本件不動産の登記申請書に押捺したのに、その内容を確認したり使途を問いただしたりすることもなく漫然とこれを見ていたというのである。
 そうすると、A山が本件不動産の登記済証、上告人の印鑑登録証明書及び上告人を申請者とする登記申請書を用いて本件登記手続をすることができたのは、上記のような上告人の余りにも不注意な行為によるものであり、A山によって虚偽の外観(不実の登記)が作出されたことについての上告人の帰責性の程度は、自ら外観の作出に積極的に関与した場合やこれを知りながらあえて放置した場合と同視し得るほど重いものというべきである。
 そして、前記確定事実によれば、被上告人は、A山が所有者であるとの外観を信じ、また、そのように信じることについて過失がなかったというのであるから、民法九四条二項、一一〇条の類推適用により、上告人は、A山が本件不動産の所有権を取得していないことを被上告人に対し主張することができないものと解するのが相当である。


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