御器谷法律事務所
最高裁判所 平成18年10月18日判決
従業員が職場内で起した上司に対する暴力事件等が、就業規則で定める懲戒解雇事由にあたることを理由に、暴力事件から7年以上経過後に会社が行った諭旨退職処分が権利の濫用として無効とされた事案

《事案の概要》
H5.10.25
X1A課長代理に対し、ネクタイや襟を掴んで壁に押付ける暴行
X2も加勢(X1X2は労働組合員であり、X2の有給休暇を巡ってトラブル中であった)
10.26 X1X2、他の組合員とともにA課長代理に再び暴行
H6.2.10
Y社X1X2らに、通告書送付(懲戒処分等を含む責任追及の権利を留保する旨記載)
But Y社としては、暴行事件についての刑事処分を待って処分を検討するとした
H11.12.28
X1X2ら不起訴処分
H13.4.17 
Y社X1X2 諭旨退職処分

《争点》
 懲戒解雇事由の発生から7年以上経過した後に会社が行った諭旨退職処分は、権利の濫用となるか
 (一審は権利濫用を肯定したが、原審はこれを否定。)

《裁判所の判断》
権利濫用を肯定→諭旨退職処分は無効
  1. 「就業規則所定の懲戒事由に該当する事実が存在する場合であっても、当該具体的事情の下において、それが客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当なものとして是認することができないときには、権利の濫用として無効になると解するのが相当である。」
  2. 「前記事実関係によれば、[(1)]本件諭旨退職処分は本件各事件から7年以上が経過した後にされたものであるところ、Yにおいては、A課長代理が10月26日事件及び2月10日事件について警察及び検察庁に被害届や告訴状を提出していたことからこれらの捜査の結果を待って処分を検討することとしたというのである。しかしながら、本件各事件は職場で就業時間中に管理職に対して行われた暴行事件であり、被害者である管理職以外にも目撃者が存在したのであるから、上記の捜査の結果を待たずともYにおいてX1らに対する処分を決めることは十分に可能であったものと考えられ、本件において上記のように長期間にわたって懲戒権の行使を留保する合理的な理由は見いだし難い。しかも、[(2)]使用者が従業員の非違行為について捜査の結果を待ってその処分を検討することとした場合においてその捜査の結果が不起訴処分となったときには、使用者においても懲戒解雇処分のような重い懲戒処分は行わないこととするのが通常の対応と考えられるところ、上記の捜査の結果が不起訴処分となったにもかかわらず、YがX1らに対し実質的には懲戒解雇処分に等しい本件諭旨退職処分のような重い懲戒処分を行うことは、その対応に一貫性を欠くものといわざるを得ない。」
     また、(3)その他の日の事件についても、事件から長期間が経っていること、及びその態様は暴言を浴びせた等というもので諭旨退職処分に値する行為とは直ちに言い難いことからすると、「本件各事件以降期間の経過とともに職場における秩序は徐々に回復したことがうかがえ、少なくとも本件諭旨退職処分がされた時点においては、企業秩序維持の観点から上告人らに対し懲戒解雇処分ないし諭旨退職処分のような重い懲戒処分を行うことを必要とするような状況にはなかったものということができる。」
  3. 「以上の諸点にかんがみると、本件各事件から7年以上経過した後にされた本件諭旨退職処分は、原審が事実を確定していない本件各事件以外の懲戒解雇事由についてYが主張するとおりの事実が存在すると仮定しても、処分時点において企業秩序維持の観点からそのような重い懲戒処分を必要とする客観的に合理的な理由を欠くものといわざるを得ず、社会通念上相当なものとして是認することはできない。そうすると、本件諭旨退職処分は権利の濫用として無効というべきであり、本件諭旨退職処分による懲戒解雇はその効力を生じないというべきである。」

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