御器谷法律事務所
最高裁判所第1小法廷 平成19年3月8日判決
法律上の原因なく代替性のある物を利得した受益者が利得した物を第三者に売却処分した場合に負う不当利得返還義務の内容

<事案の概要>
1 本件は、上場株式を取得した甲らが、名義書換手続をする前に同株式について株式分割がされ、株主名簿上の株主Zに増加した新株が交付されてしまい、Zが右新株を売却処分したことについて、右新株の売却代金相当額の不当利得返還等を請求した事案である。

2 事実経過の概要は、次のとおりである。
(1) Xらは、上場株式である株式会社 A社の株式(以下「本件親株式」という。)を取得し、証券会社から株券の交付を受けたが、その際に名義書換手続をしなかったため、本件親株式の株主名簿上の株主は、かつて株主であったZのままであった。
(2) A社は、平成14年5月15日、普通株式一株を五株に分割する旨の株式分割(以下「本件株式分割」という。)を実施した。
(3) Zは、本件親株式の株主名簿上の株主として、そのころ、A社から本件株式分割により増加した新株式(以下「本件新株式」という。)に係る株券(以下「本件新株券」という。)の交付を受けた。
(4) Zは、平成14年11月8日、第三者に対して本件新株式を売却し、売却代金5350万2409円を取得した(そのほかに、配当金1万4235円も取得した。)。
(5) 甲らは、平成15年10月10日ころ、A社に対し、本件親株式について名義書換手続を求めるとともに、Zに対しても、本件新株券の引渡しを求めた。
 これに対し、Zは、日本証券業協会が定める「株式の名義書換失念の場合における権利の処理に関する規則(統一慣習規則第二号)」により、本件新株券の返還はできないなどとして、甲らそれぞれに対し、各6105円のみを支払った。
(6) 甲らは、Zは法律上の原因なく甲らの財産によって本件新株式の売却代金5350万2409円の利益を受け、そのために甲らに損失を及ぼしたなどと主張して、それぞれ、Zに対し、不当利得返還請求権に基づき、右売却代金の2分の1である2675万1204円(円未満切捨て。以下同じ。)の支払等を請求した。

<判決抜粋>
 不当利得の制度は、ある人の財産的利得が法律上の原因ないし正当な理由を欠く場合に、法律が、公平の観念に基づいて、受益者にその利得の返還義務を負担させるものである(最高裁昭和45年(オ)第540号同49年9月26日第1小法廷判決・民集28巻6号1243頁参照)。
 受益者が法律上の原因なく代替性のある物を利得し、その後これを第三者に売却処分した場合、その返還すべき利益を事実審口頭弁論終結時における同種・同等・同量の物の価格相当額であると解すると、その物の価格が売却後に下落したり、無価値になったときには、受益者は取得した売却代金の全部又は一部の返還を免れることになるが、これは公平の見地に照らして相当ではないというべきである。また、逆に同種・同等・同量の物の価格が売却後に高騰したときには、受益者は現に保持する利益を超える返還義務を負担することになるが、これも公平の見地に照らして相当ではなく、受けた利益を返還するという不当利得制度の本質に適合しない。
 そうすると、受益者は、法律上の原因なく利得した代替性のある物を第三者に売却処分した場合には、損失者に対し、原則として、売却代金相当額の金員の不当利得返還義務を負うと解するのが相当である。大審院昭和18年(オ)第521号同年12月22日判決・法律新聞4890号三頁は、以上と抵触する限度において、これを変更すべきである。
 以上によれば、上記原則と異なる解釈をすべき事情のうかがわれない本件においては、被上告人は、上告人らに対し、本件新株式の売却代金及び配当金の合計金相当額を不当利得として返還すべき義務を負うものというべきであって、これと異なる原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由がある。 


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