御器谷法律事務所
東京高等裁判所 平成19年10月30日判決(確定)
就業規則の変更について、(1)労働基準監督署への届出がなく、さらに(2)従業員に対して実質的に周知されたとも認められないことなどから、その変更は無効であると判断した事案

《事案の概要》
 「本件は、被控訴人を退職した元従業員である控訴人が被控訴人に対し、平成12年4月1日一部変更の就業規則及び同就業規則の委任を受けた退職年金規定に従って計算した退職金1074万6530円から支払を受けた288万2000円を控除した残額786万4530円及びこれに対する平成16年7月18日(本件訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年6分の割合による遅延損害金の支払を求めたものである。これに対し、被控訴人は、就業規則は平成15年4月1日に一部変更され、この変更後の就業規則に従って計算された退職金を控訴人に支払済みであるなどと主張し争った。原審は、控訴人の請求を棄却した。」

《判旨》
 原判決を取り消し、次の理由により約701万円(原告請求額786万円)の支払を命じた
「乙2就業規則が労働基準監督署への届出が行われなかったことは、前記のとおりである。
 しかし、就業規則の変更について、労働基準監督署への届出がなかった場合であっても、従業員に対し実質的に周知されていれば、変更は有効と解する余地があるので、以下、乙2就業規則への変更が従業員に対し、実質的に周知されたかについて判断する。」
 
 「引用にかかる前記1(6)イ記載のとおり、平成15年3月17日に行われた上記経営会議においては、新制度において、中途退職した場合には、旧制度に比較して退職者が不利となることはなんら告げられなかった。」

 「全体朝礼を開催するにあたり、被控訴人は全従業員に対し、制度変更の必要性、新制度の概要、従業員にとってのメリット、デメリットなどを記載した説明文書等を一切配布・回覧しておらず、そのことは、その後就業規則の変更の手続を取るまでの間も、同じであった。旧制度から新制度への変更は、一般の従業員からすると、その内容を直ちに理解することは困難であり、被控訴人が全従業員に対し、制度変更を周知させる意思があるならば、まずは説明文書(たとえば、乙16、17など、あるいは、少なくとも、それらの要点をわかりやすく摘記したもの)を用意した上それを配布するか回覧に供するなどし、更に必要に応じて説明会を開催することが使用者として当然要求されるところであり、それが特に困難であったというような事情はない。ところが、本件において、被控訴人はそのような努力をなんら払っていない。」
 
 「労働基準法89条3号の2は、「退職手当の定めをする場合においては、適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払並びに退職手当の支払に関する事項」について就業規則を作成し、行政官庁に届け出ることを要求している。
 ところが、本件において、届出の点は措くとしても、退職手当の決定、計算に関して乙2就業規則には定められておらず、仮に、被控訴人の休憩室の壁に就業規則が掛けてあったとしても、それは退職手当の決定、計算に関する事項に関する規定を含まない就業規則にすぎない。
 以上から、仮に、被控訴人の休憩室の壁に乙2就業規則が掛けてあったとしても、控訴人を含む従業員に対し、退職金の計算について実質的周知がされたものとはいえない。」

 「そして、乙2就業規則への変更が従業員に対し実質的に周知されたとは認められないことなどから、同変更は無効であり、乙29就業規則が効力を有するものと認める。」


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