御器谷法律事務所
東京高等裁判所 平成20年3月27日判決
フライト・アテンダント(FA)に対する地上職への配転命令が権利の濫用に当たり、無効であることを認め、さらに慰謝料の成立を認めた事案

《事案の概要》 cf.原審 控訴人らの請求をいずれも棄却
 本件は、航空会社である被控訴人の従業員としてフライト・アテンダント(FA)の業務に従事していた控訴人らが、それぞれ平成15年3月1日付けで地上職である成田旅客サービス部に配転を命じられた(本件配転命令)ため、(1)雇用契約上、控訴人らの職種をFAに限定する旨の合意がある、
(2)そうでないとしても、本件配転命令は配転命令権の濫用である、
(3)そうでないとしても、本件配転命令は不当労働行為に当たる、
として本件配転命令が違法になされたことによる無効を主張し、控訴人らが被控訴人のFAの地位にあることの確認をそれぞれ求めるとともに、
 不法行為に基づき、本件配転命令により被った精神的苦痛に対する慰謝料各100万円及びこれに対する(中略)遅延損害金の支払を求めた事実である。

《判旨》
(ア)本件配転命令当時、被控訴人は、(中略)コスト削減のための方策の一つとして、人件費の節約、被控訴人内における余剰労働力の適正配置などを行う一般的な業務上の必要性があったことは肯定できる(前記ア(ア))。
 しかし、一般論を離れて具体的に本件配転命令を行う必要性についてみると、まず東京ベースFAが15名余剰であり、これを削減するという案の根拠は、アルティテュードという、いずれのベースを使っていかなる乗務パターンで乗務させるのが最も合理的かつ経済的であるかを検証するためのコンピューターソフトによって試算したものとされているが、実際にアルティテュードを利用して作成された資料は証拠として提出されておらず、アルティテュードの問題処理の論理(アルゴリズム。但し、ア(イ)cの意味のもの)や、前提とされる条件や数値がどのようなものかも不明であって、アルティテュードが余剰人員の算出に利用できるか否かすら不明である。また、被控訴人は試算に当たって、被控訴人に最も都合の良い条件を設定して試算したもので、その結果の信頼性は薄いと言わざるを得ない(ア(イ)c)。
 
 本件配転命令を実施することで、被控訴人の人件費は一定に削減が見込まれ、その程度は決して少額ではないが、被控訴人の企業規模からすれば、本件配転を実施して人件費削減を断行しなければ、被控訴人の経営が危機に瀕するあるいは経営上実質上相当な影響があるとは認められない(ア(ウ))。
(イ)本件配置転換により控訴人らの受け取る基本給には変動がない(なお、控訴人丁原に限っては基本給が増額された。)が、地上職では得られないFA特有の収入であるインセンティブ・ペイ、深夜乗務手当、免税販売手数料、宅配サービス手数料を得ることができなくなり、インセンティブ・ペイを含むそれらの手当は概ね月間数万円であり、無視できない経済的不利益を受けたものである。また、本件配置転換により、控訴人らは誇りを持って精勤してきたFAの仕事から外されて精神的な苦痛を受けたもので、特に、本件労使確認書により平成14年10月にFAに復帰したのに、その約5か月後に再び配置転換された控訴人乙山、同丁原の精神的苦痛は大きい。(以下イ)
(ウ)本件労使確認書は労働協約であり、その第3項はFAの職位確保に関する努力義務を定めたものであり、労働協約の当事者の信義則からも、同第2項の規定からも被控訴人は、努力義務を果たすための努力の状況、努力義務の対象事項が達成できない場合にはその理由を具体的に説明する義務がある(ウ(ア))。
 
 本件配転命令の決定、実施にあたり、本件労使確認書の条項(第3項の職位確保の努力義務)を考慮して、具体的な努力をしたと評価できることをしたとは本件証拠上認められない(ウ(ウ))。この点も本件労使確認書第3項の努力義務に違反するもので、被控訴人の以上のような態度は、労働協約を締結した当事者間の信義則に違反するものといえる。
 
 本件配転命令実施に際し行われた団体交渉、文書による説明において、被控訴人の控訴人らを含むFA、支社組合に対する交渉態度は、誠実性に欠けると評価することができる。
(エ)そうすると、被控訴人は、就業規則第20条及び平成14年度労働協約書第1部第38条に基づき、業務上の必要に応じ、その裁量により控訴人らの個別的同意を得ずに業務内容の変更を伴う配転を命じる権限を有することを十分に参酌しても、以上のような本件の諸事情を総合考慮すると、本件配転命令については、被控訴人の有する配転を命じる権限を濫用したと評価すべき特段の事情が認められるというべきであり、被控訴人が行った本件配転命令は、権利の濫用に当たり無効である。

 以上のような事実を総合すると、被控訴人の行った本件配転命令は控訴人らとの関係で、本件労使確認書による合意を含む雇用関係の私法秩序に反し違法であり、かつ、少なくとも過失があると認められ、不法行為が成立する
 控訴人らの各損害額は、上記不法行為の性質、各控訴人らが受けた損害の性質、程度、その他本件記録に顕れた一切の事情を考慮して、控訴人乙山、同丁原は各100万円と、その余の控訴人らは各80万円と認める。

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