御器谷法律事務所
東京地方裁判所 平成20年9月9日判決(控訴)
携帯電話よりインターネット接続サービスを利用してブログに書き込まれた内容が、名誉・信用毀損に該当すると主張する者から携帯電話会社に対してなされた発信者情報開示請求につき、肯定した事例

《事案の概要》

中傷書込者
 ↓  
 Y(経由プロバイダ)→→→乙(ブログシステム提供者)→→→甲(ブログ)
   =携帯電話会社      =コンテンツプロバイダ

 何者かが、甲(元宝塚女優)のブログにて、X(クリニック)発売の化粧品につき、「その化粧品でひどく肌が赤くただれて、大学病院の皮膚科で治るまでに3カ月かかると言われました。」「同じ皮膚科でその化粧品で被害者が複数いて、担当医が成分調査に出したそうです。」「ステロイドが入っている可能性あり。」「お使いにならないで下さい。」等の中傷書込みをなした。
 そこで、Xは乙に対し、「IPアドレス」と「タイムスタンプ」の開示を求めて発信者情報開示の仮処分を申立てた。その手続き中に、乙はそれらを任意に開示。
 これによってYの存在が判明したため、XはYに対して発信者情報消去禁止の仮処分等を申し立てるなどして開示交渉を続けたが、Yは任意での開示請求に応じなかった。そこで、Xが本件を提訴した。

《主な争点》
  (1)本件書込みの名誉棄損該当性   (2)侵害の明白性の有無
  (3)開示を求める正当理由の有無  
◎(4)他人の通信を媒介する経由プロバイダであるYが、「特定電気通信役務提供者」(法2条3号)、「開示関係役務提供者」(法4条1項)に該当するか
  (5)Y保有の情報は、本当に本件中傷書込者のものであるか

《裁判所の判断》
 争点(1)(2)(3)については肯定
 争点(4)については、以下のように述べ、該当するとした。
 1)「インターネット上においては、他人の権利や利益を侵害する情報を発信することも極めて容易で、誰もがそのような情報を反復継続して発信することが可能であり、際限なく伝播して被害がさらに拡大しやすいものであるから、迅速に被害者を救済する必要性が高いことはいうまでもないところである。ところが、本件書込は携帯電話等から被告の通信回線を利用して本件ブログに書き込まれたものであり、サーバの管理者である訴外乙は、本件発信者のIPアドレス、タイムスタンプ、URL等の情報は有しているものの、個人を特定するための氏名、住所等に関する情報を保有していない。本件発信者の氏名、住所等の情報を保有しているのは、経由プロバイダである被告だけであり、被害を受けた原告は、被告に対して発信者情報の開示を求めることが必要となる。」
 「そこで、法4条1項は、インターネットにより名誉毀損等の被害を受けた者の救済等を図る趣旨から、発信者のプライバシー及び表現の自由に配慮しつつ、一定の厳格な要件が満たされる場合には、そのプロバイダ等を『開示関係役務提供者』として、プロバイダに課された守秘義務を解除し、自己の権利を侵害されたとする者に対して、プロバイダとして保有している発信者情報を開示しても免責されることを定めたものと解されるところである。それにもかかわらず、被告が主張するように、経由プロバイダが法2条3号にいう『特定電気通信役務提供者』に当たらず、法4条1項にいう『開示関係役務提供者』にも該当しないとして、経由プロバイダだけが保有している発信者情報の開示を請求することができないとすれば、被害者に対して発信者情報開示請求権を認めた法の趣旨を没却することになってしまうことは明らかである。」
 2)「また、法及び法に基づく省令は、『侵害情報に係るIPアドレス』を開示請求の対象となる情報に含めており、IPアドレスを割り当てた経由プロバイダに対する発信者情報の追跡を前提としているものということができる。ちなみに、法2条3号は、『特定電気通信役務提供者』とは、『特定電気通信設備を用いて他人の通信を媒介し、その他特定電気通信設備を他人の通信の用に供する者をいう。』と定めているところ、弁論の全趣旨によれば、被告は、所有する電話通信回線を他人の通信のために利用させ、他人の通信を媒介していることが認められるのであって、本件発信者が本件書込をしようとして自分の携帯電話等から情報を発信し、経由プロバイダである被告の通信回線を利用して、本件ブログを管理している訴外乙のサーバに記録され、さらに、不特定多数の者が被告などの通信回線を利用して本件ブログを管理しているサーバにアクセスして受信し、これを閲読するまでの全体が『特定電気通信』に当たると考えられるのであって、経由プロバイダとしてこのような通信の用に供される特定電気通信設備を用いている被告は、法2条3号にいう『特定電気通信役務提供者』に当たり、法4条1項にいう『開示関係役務提供者』にも該当するというべきである。」
 
 争点(5)についても、以下のように述べ、Yの保有情報が書込み者のものである可能性が高いとした。
 「本件ブログを管理している訴外乙はもとより、原告においても、経由プロバイダである被告がどのようにしてアクセスログを記録しているのかを知ることはできず、訴外乙や原告ができるのは、被告に対して、本件IPアドレスと本件タイムスタンプのほか、本件発信者に該当する可能性のあるURLを提示することだけであり、後は、被告においてこれらの情報を総合的に確認し検討して、本件発信者に該当する者を確定していく他はない。
 本件では、訴外乙及び原告が被告に対して提示した上記6つのURL(省略)は、被告において確認したところ、いずれも本件書込をした際のURLとは認められないというのであるから、そのような確認を経た後に残っている別紙「アクセスログ目録」3に記載の本件URL(http://mm.ameba.jp/《略》)こそが、本当に本件発信者が本件書込をした際のURL情報である可能性が極めて高いと考えられる。
 「もちろん、インターネットの仕組みを悪用してIPアドレス等を偽る可能性も皆無ではないから、これらの条件をすべて充たしていたとしても、抽象的には本件書込をした発信者ではない者の情報を開示する可能性が全くないとまで断言することはできないが、本件では、被告による上記の事前確認によってそのような危険性はほぼ排除されていると考えることができ、本件タイムスタンプ、本件IPアドレス、本件URLが示している条件をすべて充たす発信者情報が本件書込をした本件発信者の情報である可能性が極めて高いものと認められるところ、これに該当する発信者情報を保有していることは被告自身も認めているところであるから、被告は、原告が開示を求めている発信者情報を保有するものであるというべきである。」
 
 上記のように判示し、肯定した発信者情報の開示請求を認容した。


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