御器谷法律事務所
東京地方裁判所 平成20年11月13日判決(確定)
公正遺言証書につき、遺言書作成当時に入院中であった遺言者に遺言能力がなく、また口授の要件も満たさないため、遺言が無効とされた事件

《事案の概要》
H18.2.20ころ 甲、乙弁護士、丙弁護士に遺言書依頼
  11.2 乙ら、甲宅訪れ遺言内容を聴き取り
  11.7 甲、肺がん等で入院
  11.8〜14 乙ら、丁公証人に公正証書遺言依頼、案文作成
  11.17 甲の入院先にて、危急時遺言書作成
主治医から「判断能力あり」の診断書
この日以降、徐々に意識レベル低下
  11.28 甲の入院先にて
11.17作成の遺言書と同内容の公正証書遺言
作成(読み上げ、手握る)
  12.21 甲死亡

《主な争点》
(1) 甲には遺言能力があったか
(2) 民法969条2号の口授の要件を満たすか

《裁判所の判断》
(1) 遺言能力について
 「上記(1)で認定した事実によれば、甲は、本件遺言書作成日の約10日前から、肺癌の骨転移に伴う高カルシウム血症、腸閉塞に伴う脱水等の症状や肺癌に伴う肺炎に起因する低酸素血症などの意識障害を引き起こしかねない病態が重なって徐々に意識レベルが低下し、本件遺言書作成日の約1週間前には、閉眼して傾眠傾向の状態になり、呼びかけてもあまり反応しないような意識レベルに陥っていたこと、本件遺言書作成日の前日にも傾眠傾向にあって、努力様の呼吸を続けており、同日夜には見当識障害が認められたこと、本件遺言書の作成当日には、甲は酸素マスクと上肢を手指に抑制器具を装着して酸素供給を受けながら、公証人により遺言公正証書の案文を読み聞かされている最中に、首を大きく横に振って非常に苦しそうな態度をしてそのまま眠ってしまい、公証人が一旦は遺言公正証書の作成を断念するほどの状態になり、甲は妻から何度も揺すられ声をかけられてようやく目を覚ましたこと、本件遺言書作成日の翌日には、甲の意識レベルは、刺激に応じて一時的に覚醒するが、開眼しても自分の名前や生年月日が言えない状態であったことの各事実が認められるところ、甲の主治医であったAも、本件遺言書作成日の甲の容態は前後の日と同じような状態で推移しており、本件遺言書作成の前日に甲が陥った見当識障害のような症状が現れた患者の意識レベルが翌日になって鮮明になる可能性は低いと供述していることなどを総合的に考慮すると、甲は、本件遺言書作成時において、意識レベルが著しく低下して意識障害に陥っており、遺言の意味、内容を理解し、遺言の効果を判断するに足りる精神能力を欠いていたものと認められる。
 甲は、本件遺言書作成時に、丁公証人による遺言公正証書の案文の読み聞かせに対し手を握り返して反応したことが認められるが、上記認定にかかる甲の意識レベルからすると、遺言の意味、内容やその重大な効果を理解する能力を欠いたまま手を握り返していた可能性が高いというべきであって、甲がそのような動作をしたからといって上記判断を左右するものではない。」
(2) 口授の要件について
 「遺言者が公正証書によって遺言をするに当たり、公証人の質問に対し、言語をもって陳述することなく、単に肯定又は否定の挙動を示したにすぎないときは、民法969条2号にいう口授があったものとはいえないと解するのが相当である(最高裁昭和50年(オ)第859号昭和51年1月16日第2小法廷判決・家裁月報28巻7号25頁参照)。
  上記1で認定した事実によれば、本件遺言書作成の際に、甲は丁公証人と手を握り、公証人による遺言公正証書の案文の読み聞かせに対し手を握り返したにすぎず、言語をもって陳述していないから、口授があったものとは認められない。」
 以 上


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