御器谷法律事務所
最高裁判所第1小法廷 平成21年7月8日判決(破棄自判)
上告人の代表取締役に従業員らの不正行為を防止するためのリスク管理体制を構築すべき義務に違反した過失があるということはできない、として株主からの請求を棄却した事案       

《事案の概要》 
「本件は、上告人(1審被告、2審控訴人、ソフトウェア開発及び販売等)の従業員らが営業成績を上げる目的で架空の売上げを計上したため有価証券報告書に不実の記載がされ、その後同事実が公表されて上告人の株価が下落したことについて、公表前に上告人の株式を取得した被上告人が、上告人の代表取締役に従業員らの不正行為を防止するためのリスク管理体制を構築すべき義務に違反した過失があり、その結果被上告人が損害を被ったなどと主張して、上告人に対し、会社法350条に基づき損害賠償請求を請求する事案である。」(会社法附則2項参照)

《判旨》 破棄自判
「B部長は、高い業績を達成し続けて自らの立場を維持するため、平成12年9月以降、C事業部の営業担当者である部下数名(以下「営業社員ら」という。)に対し、後日正規の注文が獲得できる可能性の高い取引案件について、正式な注文がない段階で注文書を偽造するなどして実際に注文があったかのように装い、売上げとして架空計上する扱い(以下「本件不正行為」という。)
 をするよう指示した。」
 
「本件不正行為当時、(1)職務分掌規定等を定めて事業部門と財務部門を分離し、(2)C事業部について、営業部とは別に注文書や検収書の形式面の確認を担当するBM(注 ビジネスマネージメント)課及びソフトの稼働確認を担当するCR(注 カスタマーリレーション)部を設置し、それらのチェックを経て財務部に売上報告がされる体制を整え、(3)監査法人との間で監査契約を締結し、当該監査法人及び上告人の財務部が、それぞれ定期的に、販売会社あてに売掛金残高確認書の用紙を郵送し、その返送を受ける方法で売掛金残高を確認することとしていたというのであるから、上告人は、通常想定される架空売上げの計上等の不正行為を防止し得る程度の管理体制は整えていたものということができる。そして、本件不正行為は、C事業部の部長がその部下である営業担当者数名と共謀して、販売会社の偽造印を用いて注文書等を偽造し、BM課の担当者を欺いて財務部に架空の売上報告をさせたというもので、営業社員らが言葉巧みに販売会社の担当者を欺いて、監査法人及び財務部が販売会社あてに郵送した売掛金残高確認書の用紙を未開封のまま回収し、金額を記入して偽造印を押捺した同用紙を監査法人又は財務部に送付し、見かけ上は上告人の売掛金額と販売会社の買掛金額が一致するように巧妙に偽装するという、通常容易に想定し難い方法によるものであったということができる。
 また、本件以前に同様の手法による不正行為が行われたことがあったなど、上告人の代表取締役であるAにおいて本件不正行為の発生を予見すべきであったという特別な事情も見当たらない。
 さらに、前記事実関係によれば、売掛金債権の回収遅延につきBが挙げていた理由は合理的なもので、販売会社との間で過去に紛争が生じたことがなく、監査法人も上告人の財務諸表につき適正であるとの意見を表明していたというのであるから、財務部が、Bらによる巧妙な偽造工作の結果、販売会社から適正な売掛金残高確認書を受領しているものと認識し、直接販売会社に売掛金債権の存在を認識しなかったとしても、財務部におけるリスク管理体制が機能していなかったということはできない。
 以上によれば、上告人の代表取締役であるAに、Bらによる本件不正行為を防止するためのリスク管理体制を構築すべき義務に違反した過失があるということはできない。」


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