御器谷法律事務所

最高裁判所 平成21年12月10日判決 − 江戸川学園事件

1. 事案の概要
 本件は、上告人が設置する江戸川学園取手中学校又は江戸川学園取手高等学校(以下「本件各学校」という。)に在籍していた生徒の親である被上告人らが、上告人に対し、上告人が、本件各学校の生徒を募集する際、学校案内や学校説明会等において、論語に依拠した道徳教育の実施を約束したにもかかわらず、子の入学後に同教育を廃止したことは、上告人と被上告人らとの間で締結され在学契約上の債務不履行に当たり、また、被上告人らの学校選択の自由を侵害し、不法行為を構成するなどと主張して、債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償等を求める事案である。

2. 下級審の判断
(1)東京地裁平成18年9月26日判決
 原告らの請求を棄却
(2)東京高裁平成19年10月31日判決
 親の学校選択の自由を違法に侵害するものとして、不法行為の成立を認め、慰謝料請求を一部認容。

3. 最高裁判決 − 親の請求を棄却
 学校による生徒募集の際に説明、宣伝された教育内容等の一部が変更され、これが実施されなくなったことが、親の期待、信頼を損なう違法なものとして不法行為を構成するのは、当該学校において生徒が受ける教育全体の中での当該教育内容等の位置付け、当該変更の程度、当該変更の必要性、合理性等の事情に照らし、当該変更が、学校設置者や教師に上記のような裁量が認められることを考慮してもなお、社会通念上是認することができないものと認められる場合に限られるというべきである。
 これを本件についてみると、本件で問題とされている教育内容等の変更は、論語に依拠した道徳教育の廃止であるところ、道徳教育それ自体の重要性は否定できないとしても、一般的に、中学校や高等学校における教育全体の中で、道徳教育が他の教科とは異なる格別の重要性を持つとはいえない。また、前記事実関係によれば、本件各学校においても、論語に依拠した道徳教育がその特色となっていたとはいえ、本件道徳授業は、1回35分間の講話と感想文の作成等が、中等部からの入学者についてはその1年次に18回、高等部からの入学者についてはその1年次に14回、それぞれ行われていたにすぎず、前校長の解任後も、LHR及び合同HRにおいては、道徳教育の行われる回数が減少し、また、論語に依拠した道徳教育は行われていないものの、学習指導要領に沿った道徳教育は引き続き行われており、本件各学校の総授業時間数及び授業項目に変更はなかったというのであって、論語に依拠した道徳教育が廃止されたほかには、本件各学校の教育理念が大きく損なわれたり、教育内容等の水準が大きく低下したことはうかがわれない。そうすると、本件における教育内容等の変更は、道徳教育について論語に依拠した独特の手法でこれを行うことを廃止したにとどまり、これが本件各学校の教育内容等の中核、根幹を変更するものとまではいえない
 以上の諸事情に照らすと、上告人が、本件各学校の生徒募集の際、本件道徳授業等の内容を具体的に説明し、そこで行われていた論語に依拠した道徳教育の教育的効果を強調し、積極的にこれを宣伝していたという事情を考慮しても、上告人が同教育を廃止したことは、社会通念上是認することができないものであるとまではいえず、これが、被上告人らの期待、信頼を損なう違法なものとして不法行為を構成するとは認められない


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