御器谷法律事務所
東京高等裁判所 平成22年9月6日判決
病院で取り違えられた親子関係のない夫婦の実子として戸籍に記載され長期間実親子と同様の生活の実体を有する兄弟に対し、実の兄弟が提起した親子関係不存在確認請求が権利の濫用として棄却された事案        

1. 事案の概要
 
C: 病院で取り違えられた
46年~54年間、ABの実子として生活
D: ABの実子
A、B:
CとD: 遺産争い
D→C: 親子関係不存在確認等請求訴訟

2. 原審=東京家裁平成21年6月11日判決
 Dの請求を認容:DNA鑑定により、親子関係不存在確認の判決

3. 東京高裁-判旨:原判決を取消し、Dの請求を棄却
 当裁判所は、わが民法が血縁主義の原則を採用し、これは国民の法的確信を基礎としていることを前提の認識としつつ、権利の濫用が禁じられることも民法の原則(民法1条3項)であることに思いを致し、親子関係存否確認の請求についても、権利濫用禁止の法理が妥当する場合があるものと解する。そして、本件については、被控訴人らの親子関係不存在確認請求は、権利の濫用に当たり、理由がないものと判断する。その理由は、次のとおりである。
(1)親子関係存否確認訴訟は、親子関係という血縁に基づく基本的親族関係の存否について関係者間に紛争がある場合に対世的効力を有する判決をもって画一的確定を図り、これにより親子関係を公証する戸籍の記載の正確性を確保する機能を有するものであるから、真実の親子関係と戸籍の記載が異なる場合には、親子関係が存在しないことの確認を求めることができるのが原則である。
 しかしながら、このような血縁主義の原則及びこれを具体化した戸籍の記載の正確性の要請等が例外を認めないものではないことは、民法が一定の場合に、戸籍の記載を真実の実親子関係と合致させることについて制限を設けていること(776条、777条、782条、783条、785条)などから明らかである。真実の親子関係と異なる出生の届出に基づき戸籍上AB夫婦の嫡出子として記載されているCが、AB夫婦との間で長期間にわたり実の親子と同様に生活し、関係者もこれを前提として社会生活上の関係を形成してきた場合において、実親子関係が存在しないことを判決で確定するときは、事実に反する届出について何ら帰責事由のないCに軽視し得ない精神的苦痛、経済的不利益を強いることになるばかりか、関係者間に形成された社会的秩序が一挙に破壊されることにもなりかねない。そして、AB夫婦が既に死亡しているときには、CはAB夫婦と改めて養子縁組の届出をする手続を採って同夫婦の嫡出子の身分を取得することもできない。そこで、戸籍上の両親以外の第三者であるDがAB夫婦とその戸籍上の子であるCとの間の実親子関係が存在しないことの確認を求めている場合においては、AB夫婦とCとの間に実の親子と同様の生活の実体があった期間の長さ、判決をもって実親子関係の不存在を確定することによりC及びその関係者の被る精神的苦痛、経済的不利益、改めて養子縁組の届出をすることによりCがAB夫婦の嫡出子としての身分を取得する可能性の有無、Dが実親子関係の不存在確認請求をするに至った経緯及び請求をする動機、目的、実親子関係が存在しないことが確定されないとした場合にD以外に著しい不利益を受ける者の有無等の諸般の事情を考慮し、実親子関係の不存在を確定することが著しく不当な結果をもたらすものといえるときには、当該確認請求は権利の濫用に当たり許されないものというべきである(最高裁平成17年(受)第833号平成18年7月7日第二小法廷判決・民集60巻6号2307頁)。
 以上のとおり、控訴人とAB夫婦との間で長期間にわたり実の親子と同様の生活の実体があったこと、AとBはいずれも既に死亡しており、控訴人がAB夫婦との間で養子縁組をすることがもはや不可能であること、親子関係の不存在が確認された場合、控訴人が受ける重大な精神的苦痛及び少なからぬ経済的不利益、被控訴人らと控訴人の関係、被控訴人らが控訴人とAB夫婦との親子関係の不存在確認請求をするに至った経緯及び請求をする動機、目的、親子関係が存在しないことが確認されない場合、被控訴人ら以外に不利益を受ける者はいないことなどを考慮すると、被控訴人らの親子関係不存在確認請求は、権利の濫用に当たり許されないというべきである。
 以上のように解するのは、病院で取り違えられた控訴人が育ての親と46年から54年もの長きにわたり実の親子と同様の生活実体を形成してきたのにもかかわらず、両親の死後、その遺産争いを直接の契機とし、戸籍上の弟である被控訴人らが本件訴訟を提起したという本件の事実関係における個別性、特殊性に由来するものであることはいうまでもない。


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